50 / 69
真横のハサミ
しおりを挟む「ユウヤ!」
急いで起き上がる。見ると、ユウヤの頬すれすれの位置のところのベッドの位置にハサミが突き刺さっていた。
掠れたユウヤの首筋からベッドにかけて出来た一直線の血が流れている。
「アッ……、アッ……」
ユウヤの首の怪我は掠れただけだ。命に別状はない。
だが、ユウヤの顔からは血の気が引き、目は見開かれたまま。
見たことがないユウヤの反応に動揺する。
「ユウヤ!」
「ハッ……、ハッ……」
過呼吸にも似たユウヤの症状に焦りどうにかしようと手をもがく。だが手は縛られたままでどうすることも出来ない。
このままではユウヤが死んでしまうと思い、トオルは後ろにいるリクに叫んだ。
「このままじゃ、ユウヤが死んじゃう!」
「ただの過呼吸だ」
リクの回答は冷酷だった。
シュウも、アリユキも明らかに呼吸が出来ていないユウヤになにかしようとする素振りもない。
誰にも頼れない状況。トオルはユウヤに必死に語り掛ける。
「ユウヤ、落ち着いて!」
「ハッ……ァ! ゥ……」
「ユウヤ!」
だが、ユウヤの耳にはトオルの声など届かない。苦しげに浅い呼吸を繰り返すだけだ。
ユウヤが死ぬかも、という恐怖がトオルを襲う。
過呼吸の人間の対処などトオルは行ったことがない。だが、ドラマなどで見かける場面を思い出し、トオルは自分の口でユウヤの口を塞いだ。
「ハァ、ァ……、ハッ……アッ、ハッ……」
ユウヤの荒い呼吸がトオルの口の中に広がる。
シュウ達の事など気にしている暇はない。
必死に口を塞ぎ、ユウヤを落ち着かせる。
「ハッ……、フッ……、ウッ……」
ユウヤの呼吸が規則的になってきたのを確認し恐る恐る口を離す。
なるべくユウヤの視界にシュウ達の姿が見えないようにトオルはユウヤの顔に近い距離で優しく語り掛ける。
「ユウヤ、俺、わかる?」
「トオ、ル……」
「ゆっくり、呼吸して」
トオルの言葉に従い、ゆっくりとユウヤは呼吸をする。
ユウヤの目にはトオルが写っている。次第に瞳に光が戻ってくるのがわかる。
「トオル……」
「息、吐いて」
何度か深呼吸を繰り返しているうちにようやく落ち着いたのかユウヤは小さく笑みを見せた。
「あり、がとう」
「ユウヤ……」
落ち着きを取り戻したユウヤを見て、トオルも胸をなぜ下ろす。
その様子をアリユキが面白そうに言った。
「へぇ、なんかもう、そういう関係ってこと?」
ユウヤの顔がまた青くなる。守るように振り向いた先には面白そうに笑っているアリユキがいた。
シュウも、リクも驚いている。咄嗟のことで3人がいることをすっかり忘れていた。
ユウヤを守るよう、必死で睨みつける。
「なあ、元は自分の顔だろ? その顔にキスするってどんな気分?」
「……早く、ユウヤを開放しろ」
威嚇するように3人を睨んだ。
だが、今だトオルとユウヤは縛られたまま。自力で解くことも出来ないし、ハサミを使いたくてもそれはリクが持っている。
今のトオルの威嚇はこれから猫に甚振られる小さなネズミのような無駄な足掻きでしかない。
それをわかっているからこそ、アリユキも余裕があるのだ。
「お前はいいのかよ?」
「……俺は、好きにしていい。だから、ユウヤを」
「残念だけど、それはできないな。こいつ、ユウヤなんだろ? だったらこのままには出来ねえな」
「ッ! だけど、ユウヤはもう――ガッ!」
中身は違えど、ユウヤは自分だ。だから、今まで通り自分が相手をすると言いたかったが、それを言う前にリクに押し倒される。
そのまま口内をリクの舌で蹂躙された。歯列をなぞられ、舌先を強く吸われる感覚にトオルは目を見開く。
1
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる