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また違う苦しみ
しおりを挟む「ほら、ここ、間違えている」
「ううっ……」
厳しい顔で問題集の間違いを指摘したユウヤは呆れながら夜食のおにぎりをトオルの前に置く。
中身は明太子といくららしい。
トオルの両親が買ってそのまま冷凍庫に保存していた食材が家事に手慣れたユウヤの手によっておいしい夜食に変わる。
ユウヤは中身の詰まったタッパーを狭い冷蔵庫に入れながら、つぶやいた。
「……物静かで真面目そうだったから頭良いかと思ったのに、こんな馬鹿だと思わなかった」
「ま、真面目だからって成績が言い訳じゃないよ!」
ユウヤの言葉にトオルはおにぎりを食べながら反論した。
「でもこれ、1年の初めのところだよ? 俺らもう2年だし、こんなんじゃ大学受験の時――」
「そ、その時はその時だよ!」
「……」
ユウヤは呆れた顔のままトオルの隣に座り、狭いちゃぶ台に数冊のノートを渡す。
そのノートは宿題用ノートだ。
本来毎日提出するものだが、ほとんどの生徒は皆テスト期間中に慌てて終わらせることが多い。だが、ユウヤはこんな過酷な環境の中きちんと毎日宿題を行い、提出していたのだ。
「テスト後にまとめて提出するのと、毎日出すのとじゃテストの点数は同じでも内申点が違うから、推薦を考えるとやっぱりちゃんと毎日出さないと」
さらりと言うユウヤだが、それを平然と行えるとはどれほどの鉄人だったのかとトオルは思う。
あの3人に犯され、くたくたの体に鞭うちながら勉強をする。それに、狭い部屋と言えども一人暮らしなので家事も自分で行わなくてはいけない。
それを1年の時からユウヤは行っていたのだという。
1か月ほどユウヤとして生活していたトオルだったが、同じ体と言えどもそんな生活などできるはずない。
すでに体はクタクタ。いくらユウヤと同じ体だといっても、気力の違いがある。
トオルは疲れきった体で恨めしげにユウヤに呟いた。
「奨学金のこと、言ってよ……」
「言わなかったのは僕も悪いけどさ」
ユウヤの言った内容に、トオルは大きなため息をついた。
「できる気がしない…… 」
ユウヤと入れ替わったトオルに課せられた役割は3人の玩具だけではない。
勉強もだ。
ユウヤは成績が優秀だ。リク程では無いが、学年10位前後の成績を1年からキープしている。
その理由は奨学金だ。
ユウヤはこの学校に奨学金で通っていたのだ。
トオルはよく知らなかったものの、トオルの通う高校は奨学金制度が充実しており、スポーツや勉強で良い成績を残した生徒には学費免除などの奨学金があるらしい。
その奨学金には様々な種類があるが、ユウヤが今使っている奨学金は成績上位者のみが利用出来るもので、裏を返せば成績が落ちてしまえばその奨学金が無くなってしまう。
「無理だよ!」
「だから僕が見てあげるって。そもそもこの高校に入学できているならそれなりの学力はあるだろ?」
「入学から全く勉強してなくても?」
「……」
「そ、そんな顔しないでよ!」
ユウヤの明らかに引いた顔にトオルはいかに高校入学から勉強をさぼっていたかを実感する。
トオルの通っている高校に入学するにはそれなりの成績が必要だ。だが、トオルは入学したことに満足してしまい、そこから全く勉強しなかったのだ。
成績も下から数えたほうが早い。赤点まではとってはいないものの、これで奨学金をもらい続けられるかどうか。
ユウヤはそれを危惧して勉強を教えようとしているが、正直できる気がしない。
このままでは奨学金が打ち切られる。そうすれば、学校に通えなくなる。
そうすれば……、そうすれば!
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