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親子
しおりを挟む図書室は18時まで。
図書室に行くと、トオルたち5人以外にも何人かの生徒が本を読んだり、勉強をしたりしている。
トオルは空いている長机に座り、ユウヤもその隣に松葉杖を立て掛け座った。
トオルの正面にリク、ユウヤの正面にはシュウ。シュウの隣にはアリユキが座り、各々ノートを開き勉強を始めた。
シュウ、リクは言わずもがな真面目な顔でノートに向き合い、アリユキは時折携帯を弄っているものの、来月のテストに備え自分のノートを広げている。
それをそれ横目に見ながらトオルは自分のノートをユウヤに渡した。
一瞬、ユウヤの顔が引きつったのを気にしない振りをし、トオルも優等生のユウヤらしく勉強しているふりをしようと他の教科のノートを広げた。
それにしても。
トオルはちらりとユウヤを見つめる。
今はユウヤの顔であるこの顔は、元はトオルの顔である。その顔は平々凡々な顔つきで、どこにでもいそうな見た目だ。
事故の影響で髪を切り揃えて清潔感が少し出たものの、決してイケメンではなく良くて「雰囲気イケメン」が限界、といったところだろう。
それは中身がユウヤでも変わらない。だが、よくその顔を見るとやはり雰囲気が違うのだ。
ユウヤについて何も知らなかった時のトオルは人に囲まれつつもユウヤのどこか影のある雰囲気に憧れていた。
そんなユウヤをシュウ、リク、アリユキが囲む姿はまるで騎士に守られる姫君のようで高嶺の花のような、そんな孤高さがあった。
その雰囲気がトオルの見た目でもしている。
もしかすると、シュウ達が気がついてしまうのではないかと心配するほどに。
「ユウヤ~、瀬名の顔になんかついてんのか?」
「べ、別に!」
目ざといアリユキにトオルがユウヤを見ていたことを指摘されてしまい、トオルは急いで自分のノートに目を戻す。
だが、勉強に身が入らずにトオルのノートはほとんど文字が書かれることはなかった。
終われば、トオルはシュウ達の相手をしなくては行けない。その時間が一刻一刻と近づくのをトオルは焦りながら無理やりペンを動かす。
「桐島君」
「な、なに?」
「ノート、借りていいかな? 写すの、終わりそうにないし」
「えっ……?」
ユウヤの言葉を聞き、トオルは時計を見る。
あと10分ほどで図書館が閉まる時間だ。
残っている生徒もトオルたち以外おらず、カウンターにいる司書の先生ですらも片付けを始めている。
まさか考え事をしていたらこんな時間が経っているとは。トオルはユウヤの言葉に頷く。
「わかった。貸すよ」
「ありがとう、明日、返すから」
ユウヤは礼を言うと、自分の鞄にノートを入れる。
トオルたちも片づけを終え、図書室を出ると外はまだ明るく、サッカー部の生徒がボールを追いかけているのが見えた。
「お、あいつ上手いな。1年かな」
「1年の原田だな、生徒会にも入っている」
「へえ、じゃあ会ったらサッカー上手いって言っといてくれよ」
「お前が言えばいいだろう」
「俺なんかより、シュウから言えばその原田君だって嬉しいだろ」
「確かに、お前みたいな馬鹿に言われるよりは、シュウに言われたほうがいいかもな」
「ひでーな、リク!」
シュウ、リク、アリユキの何気ない会話を聞きつつ、トオルたちは学校から出ると、校門の前に見慣れた車が止まっているのが見えた。
車は、松葉杖をついたトオルを見た途端扉を開ける。
「あれ、瀬名の親?」
「う、うん」
窓越しに見える運転席には、トオルの母親がいる。
スーツ姿の母親は仕事帰りらしい少々くたびれた格好していた。
それを息子以外の人間に見られたせいか、少々恥ずかしそうに笑いながら会釈をしている。
「……」
久しぶりの母親の再会に泣きそうになるのをぐっとこらえた。
松葉杖のユウヤを手伝うふりをして、トオルはユウヤが車に乗りやすいように荷物をもつ。
ユウヤが車に乗ったのを確認し、母はユウヤであるトオルの方に視線を向ける。
「ありがとう。えっと……」
「桐島です。桐島、ユウヤです」
「ありがとう、ユウヤ君」
母親の笑顔を見て、トオルの目頭が熱くなる。
それを必死に隠し、トオルはユウヤを見送った。
小さくなっていく車の姿が見えなくなった頃、トオルの後ろにいた3人の方へ戻った。
「やさしー」
「……そっかな」
アリユキの軽口を受け流し。トオルの足はあの3人の家へと向かう。
少しでも会えた母親を、トオルは忘れることが出来ないだろう。
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