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ユウヤ

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「じゃあ、ユウヤもあの日に?」
「うん。目覚めたら、病院だった」
 
 トオルの問いにユウヤは頷く。
 体を清め、腹を満たした今、ようやくトオルはこの現状をユウヤと理解しようという気持ちがでてきた。
 ユウヤも同じ気持ちのようで、2人は深夜ではあるがこうやって互いの情報収集をすることにしたのだ。

「俺、てっきり死んだのかと思ってた」

 トオルは今は中身がユウヤである自分の体をまじまじと見る。
 制服ではないシンプルなシャツとズボンという出で立ちのユウヤは包帯に巻かれている足以外、特に目立った外傷はない。
 トオルの記憶では、深夜、人通りの無い道でトオルはトラックに轢かれ、全身を叩きつけられたのだ。
 血がありえない程にでて、痛みは不思議となかったが自分は死ぬと思いながら意識を失った。

「俺も良くは分からないけど、病院の人が言うに、跳ねられた時にたまたまゴミ捨て場に捨てられていたゴミがクッションになって助かったらしいよ」
「そうだったけ……」

 トオルは撥ねられた時を思い出す。
 正直、撥ねられたことの方が衝撃的で記憶が曖昧だ。

「それで、トオルは地面に叩きつけられて、撥ねたトラックの運転手は逃げたんだけど、そこで偶然、巡回中のパトカーがきてさ。その警察官に助けられたんだ。後は物音に気づいて来てくれた近所の人が看護師で、その人が傷を見ている間に警察の人が救急車呼んでくれて……って感じみたい」
「なるほど……」
「あ、撥ねたトラックだけど、もう運転手は捕まってるよ。クッションになったゴミの中に、賞味期限切れのトマトジュースが入ってて、それを浴びて体がトマトジュースだらけになっちゃってるのを運転手の人、トオルが血だらけになっていると思って怖くて逃げ出しちゃったんだって」
「え、ええと、つまり、怪我自体は足の骨折だけ、ってこと……?」
「うん。擦り傷とか、打撲とかあるけど、それはもう治ってる。傷が残ったのもあるけど」

 ユウヤは着ているシャツの袖をめくる。
 見ると、ユウヤの言う通り、腕にはいくつかの傷の跡があった。
 それでも、1度は死んだと思っていた自分の体がどんな形であれ生きていたことにトオルは言葉にならない感情が溢れ出し、止まったと思っていた泪がまた流れそうになる。
 それをぐっと堪え、トオルは別の質問をする。

「足は、あとどれ位で治るの?」
「どんなに遅くとも夏休みが始まる頃には治っているだろうって。この体、結構治りが早いみたい」
「じゃ、じゃあ、また歩けるんだ」
「うん。今、リハビリもしてる」
「そっか……。良かった……」

 トオルの安堵した顔を見て、ユウヤがなんとも言えない気まずそうな顔をした。
 それをトオルは察し、少しの逡巡の後、恐る恐るユウヤに問う。

「ねえ、その……」 
「これ、銀行の暗証番号」
「……」

 ユウヤに渡された小さな紙には、銀行の口座番号と4桁の暗証番号が記載されていた。
 それをトオルは黙って受け取り、番号をまじまじと見る。

「引き出し方法は、わかる?」
 
 ユウヤの問いにトオルは首を縦に振る。
 銀行の引き出し方法はトオル自体はやったことがないが、何度か親が引き出しているのを見たことがあるので何とかなるだろう。
 トオルがユウヤになって半月。ユウヤは入れ替わる前に十分な金を引き出していたおかげでトオルは何とか金を引き出すことをせずにすんだが、それでも財布の金は目減りしていくばかりで、この金が無くなればどうしようかと思っていた所だったのだ。
 ユウヤから貰った紙を大切に棚にしまう。再度向かい合ったトオルとユウヤの間に、微妙な間が空いた。
 互いに互いが何を言いたいのか、何を話せばいいのか分からず、無言の時間が流れる。
 トオルは意を決して口を開いた。

「……ねえ」
「……うん」
「3人のことについて、聞いていい? 」

 ユウヤの顔が、硬直する。
 だが、直ぐにその顔は元に戻る。ユウヤも、ここにきた段階である程度聞かれる覚悟はしていたのだろう。
 元は自分の顔ながらも、そのユウヤの顔にはトオルが今までしたことのない暗い決意に満ちた表情をしていた。

「少し、長くなると思うけど、いい?」

 時刻は、既に日付をまたいでいた。
 明日も学校があり、あの三人に会わなくてはいけない。
 本来なら、少しでも長く寝て、体調を整えておくべきなのだ。
 それでも、トオルは今、聞かずには居られなかった。

「大丈夫」

 トオルの言葉にユウヤは息を大きく吸うと、ゆっくりと話し出した。
 
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