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まさかの再会
しおりを挟む染めたことのない黒い髪。部屋から出ないが故に白い肌、平々凡々な顔立ち。
未だ痛々しい片方の足を松葉杖で支えながら教室に訪れた『トオル』は中村に連れられやってきた。
目が隠れるほどに長かった前髪は短く切り揃えられてはおり、清潔感のある見た目にはなったが、変わらない。
トオルだ。自分が、目の前に、いる。
「……ッ」
興味がなさそうなクラスメイトたちの中で、なんとも言えない感情に支配されたトオルの胸が張り裂ける。
文字通り失われていた自分自身との再会に思わずトオルの涙腺が潤むのを気づかれまいと目を凝らし、トオルは『トオル』を見つめた。
「えっと……、心配かけて、すみません」
中村に促され『トオル』は松葉杖のまま器用に頭を下げる。
たどたどしい不安げな声。
このままでは前のように思わず立ち上がってしまう。それをしないようにトオルは高鳴る胸を強く抑える。
「瀬名、見てのとおり、席替えをした。お前の席は、あそこだ。行けるか?」
中村の指した指の先にはトオル。
厳密には、トオルの隣の席だ。
今までの『トオル』の席はクラスの真ん中だった。だが、それでは松葉杖だと不便ということでつい先程席替えを行いトオルの席は1番廊下に近い列の1番後ろになったのだ。
今まで、ユウヤの席はシュウとリクが離れているものの、アリユキの前の席だったが幸運にもこの3人とは上手く離れることができた。尚且つ『トオル』の隣だ。
こればかりは自分の運の良さに身震いがする程だった。
学校でも放課後も気の休まることのなかった日々から少しだけ心が自由になれる時間がもてたのである。
これなら『トオル』と話しても3人にはバレない。授業中、監視されなくなるのだ。
「そ、その……、よろしく」
「……っ」
トオルは隣に座った『トオル』に小さく挨拶をした。
『トオル』は驚いた素振りを見せたものの、小さく会釈をし、授業を始めようとする中村の方にすぐに視線を向ける。
それはどこか、『トオル』はユウヤである自分と話したくない、という意思表示のように感じた。
だが、そこで諦めるわけはいかない。
「ノ、ノート、見せるよ」
「……!」
『トオル』の許可なく机をくっつけ、トオルはノートを『トオル』に見せるように広げる。
ここ最近、満足にノートなど取れていないので見せるも何もないが、これで『トオル』とコミュニケーションが取りやすくなった。
ちらりと『トオル』の方を見ると、明らかに目が動き、動揺している。短く切られた髪のせいで『トオル』の顔が良く見える。
授業が始まり、生徒たちは授業に集中しだした頃、トオルはノートの空いている部分に文字を書いた。
『君は、誰?』
「……!」
『トオル』の息を飲む声が聞こえる。
明らかに動揺している。
『トオル』の持っていたペンが落ち、机の上で目立たない落下音が2人のトオルの間に響く。
その間を、中村の授業をする声のみが通り過ぎていった。
「せ、先生!」
トオルの声が授業中のクラスの中に広まる。
一斉に視線がトオル達に集中した。
「その、瀬名くんが足、痛いって言うので保健室、連れていきます」
「は……」
隣の『トオル』の許可を得る前にトオルは『トオル』の手を持った。
トオルのまさかの行動力に呆気に取られている『トオル』はされるがままだ。
「ああ、わかった。行ってこい」
中村は優等生のユウヤであるトオルの言葉を信じたのか特に引き止めることもなく承諾する。
抵抗される前に松葉杖を無理やり渡し、ユウヤの腕を引っ張り教室から出る。
「行こう」
トオルは松葉杖をついている『トオル』の負担にならない程度の強さで手を引き、廊下を歩いた。
『トオル』は観念したのか何も言わず、強ばった表情のまま、トオルについて行く。
そのまま階段の前に行き、誰も居ないことを確認したトオルは、目の前の自分に向き合った。
染めたことの無い黒い髪と少し垂れた目。ユウヤと同じくらいの背丈のはずなのに、自信なさげに猫背になっている姿。正しく自分だ。
その『自分』に、トオルは問う。
「……君は、ユウヤ?」
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