ダブル・アイデンティティ

ブリリアント・ちむすぶ

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出迎え

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 トオルが教室に戻ると、案の定3人はトオルの帰りを待っていた。
 いまだ数人他のクラスメイトがいる教室の中、優秀なクラスメイトという仮面をかぶったままの彼らをトオルは不細工な笑みで向かいうける。

「ずいぶん、遅かったじゃん」
「……進路について話してた」
「進路?」
 
 アリユキの疑問に対して返した言葉に反応したのはリクのほうだった。
 その様子がいつもトオルを凌辱している顔に近い気がして、トオルは恐怖を抑えながら必死に笑顔を作る。

「う、うん、どんな大学がいいとか……」
「どの大学が良いと言われた?」
「まだそんな具体的な話はしてないよ。ほら、まだ俺ら、二年だし」

 トオルの言葉を聞き終える前に、リクがトオルを冷たく見下ろす。
 3人の中で一番背丈があるリクに見下ろされると、トオルは恐怖でしゃべれなくなってしまう。
 そうしたらまたユウヤらしくないと殴られる回数が増えてしまう。トオルはなけなしの勇気を振り絞りリクに答えた。

「それに、俺がどんなに頑張ってもリクにはかなわないよ」
「……」

 トオルの言葉のいう通りだった。
 リクは学年上位の成績だ。
 対してトオルはそれよりもはるかに下の、下から数えたほうが早い成績である。
 多少偏差値があるこの高校に入学できたはよいものの、入学後めっきり勉強しなくなったトオルに対し、今も塾に通い、勉強をきちんとしているリクになど敵うはずもない。
 トオルの精一杯のおべっかをリクは機嫌よくしたのか、冷たく見下ろすのをやめたことにトオルは内心、胸をなぜ下ろした。

「……いくぞ、ユウヤ」
「う、うん」

 急にリクに腕を引っ張られ、トオルは体勢を崩す。
 そんなトオルをあざ笑う、リクと興味なさげに後を追うシュウの姿をトオルは不安になりながら見た。

 
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