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アリユキ
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結局トオルはその日を部屋の中で過ごした。
食事は幸い冷蔵庫にユウヤが作り置きをしていたらしき食材があり、それを食べた。そのあと、なにか手掛かりはないかとトオルは部屋の中を物色したが、幾つかわかったことがあった。
まず、ユウヤは少なくとも高校入学からこの部屋に住んでいることである。
親とは一緒に住んでおらず、通帳にはユウヤと同じ苗字の女性の名前から毎月いくらか振り込まれている形跡があった。
それをユウヤは毎月貯金ができるように貯め、日々の生活をやりくりしている様子が棚にしまっていた家計簿で察せられた。
「……なんか、苦学生って感じだな」
家計簿を閉じ、トオルは率直な感想を述べる。
ユウヤがなぜ家の近くの高校ではなくこの高校を選んだのか、トオルにはわからない。確かに偏差値はそれなりにある高校だが、一人暮らしをしてまで通うような高校ではない。
トオルの印象ではユウヤはクラスの中心人物だ。誰もがユウヤのいう言葉に耳を傾け、常に話題の中心にいる。そんなユウヤも目立たないトオルは密かに憧れていた。
誰も知らない人気者の闇を知ってしまったトオルだが、その日は入れ替わった心労と娯楽も無い部屋が嫌になり、かなり早い時間に眠った。
次の日、目が覚めたのは早朝だった。
梅雨が終わり、夏が近づくこの季節。日の出は早くトオルが目覚めたころには太陽は既に上の方に昇っているのがカーテン越しでもわかった。
自分がいまだにユウヤになっていることを確認し、ため息をつきながら残った作り置きの食材をすべて食べ、トオルは部屋をでる。
この家から学校までは徒歩10分。トオルの家はその反対側に自転車で20分くらいの距離である。
今の時間だったら、歩いてトオルの家に向かってから学校に行っても十分間に合う時間だ。
自分は死に、ユウヤになった。では自分自身の体はどこにいったのか。
「……最悪、葬式かも」
なにせ自分はトラックにはねられたのだ。家に行ったら葬式という最悪の事態も覚悟しながら、トオルはアパートの階段を降りる。
手入れされていない階段はギシギシと嫌な音が鳴った。朝もまだ早いため、周囲の隣人に迷惑がかからないように降りる。
アパートを囲むブロック塀の外に出て、トオルの家に向かおうとした時、突然トオルの肩に重みが掛かった。
「よう、ユウヤ」
「わっ!」
驚いて反射的に重みが乗った方を見ると、そこに居たのはトオルと同じ制服を着た男子生徒だった。
スポーツでもやっていたらしき体格の良さと日に焼けた肌。染めた明るい髪。その顔をトオルは知っていた。
まさかここで話しかけられるとは思わず、トオルが驚いた顔をしたのをその男子生徒はニヤニヤと笑った。
食事は幸い冷蔵庫にユウヤが作り置きをしていたらしき食材があり、それを食べた。そのあと、なにか手掛かりはないかとトオルは部屋の中を物色したが、幾つかわかったことがあった。
まず、ユウヤは少なくとも高校入学からこの部屋に住んでいることである。
親とは一緒に住んでおらず、通帳にはユウヤと同じ苗字の女性の名前から毎月いくらか振り込まれている形跡があった。
それをユウヤは毎月貯金ができるように貯め、日々の生活をやりくりしている様子が棚にしまっていた家計簿で察せられた。
「……なんか、苦学生って感じだな」
家計簿を閉じ、トオルは率直な感想を述べる。
ユウヤがなぜ家の近くの高校ではなくこの高校を選んだのか、トオルにはわからない。確かに偏差値はそれなりにある高校だが、一人暮らしをしてまで通うような高校ではない。
トオルの印象ではユウヤはクラスの中心人物だ。誰もがユウヤのいう言葉に耳を傾け、常に話題の中心にいる。そんなユウヤも目立たないトオルは密かに憧れていた。
誰も知らない人気者の闇を知ってしまったトオルだが、その日は入れ替わった心労と娯楽も無い部屋が嫌になり、かなり早い時間に眠った。
次の日、目が覚めたのは早朝だった。
梅雨が終わり、夏が近づくこの季節。日の出は早くトオルが目覚めたころには太陽は既に上の方に昇っているのがカーテン越しでもわかった。
自分がいまだにユウヤになっていることを確認し、ため息をつきながら残った作り置きの食材をすべて食べ、トオルは部屋をでる。
この家から学校までは徒歩10分。トオルの家はその反対側に自転車で20分くらいの距離である。
今の時間だったら、歩いてトオルの家に向かってから学校に行っても十分間に合う時間だ。
自分は死に、ユウヤになった。では自分自身の体はどこにいったのか。
「……最悪、葬式かも」
なにせ自分はトラックにはねられたのだ。家に行ったら葬式という最悪の事態も覚悟しながら、トオルはアパートの階段を降りる。
手入れされていない階段はギシギシと嫌な音が鳴った。朝もまだ早いため、周囲の隣人に迷惑がかからないように降りる。
アパートを囲むブロック塀の外に出て、トオルの家に向かおうとした時、突然トオルの肩に重みが掛かった。
「よう、ユウヤ」
「わっ!」
驚いて反射的に重みが乗った方を見ると、そこに居たのはトオルと同じ制服を着た男子生徒だった。
スポーツでもやっていたらしき体格の良さと日に焼けた肌。染めた明るい髪。その顔をトオルは知っていた。
まさかここで話しかけられるとは思わず、トオルが驚いた顔をしたのをその男子生徒はニヤニヤと笑った。
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