ダブル・アイデンティティ

ブリリアント・ちむすぶ

文字の大きさ
上 下
2 / 69

はじめての死

しおりを挟む
 17歳、深夜、道端ーー、自分は死んだ。
  トラックに撥ねられ死んだ。
 体が宙に飛び、地面に叩きつけられた衝撃と全身から流れる血。
あぁ、死と自分は死ぬのだとトオルは悟った。

「……まじか」

 口から溢れた血で上手く言えなかったが、確かにトオルはそう言った。頭を強く叩きつけられたせいで脳の痛みを感じる機能が壊れたのか不思議と痛みはない。頭もやけに冷静だった。
 自分はこれから死ぬ。
 トオルを撥ねたトラックはいつの間にかどこかに消えた。日付をまたいだ人通りのない深夜の道、撥ねられ動けないトオルの発見はきっと朝方になるだろう。
 血は現在進行形でとめどなく流れ続け、立ち上がろうにも、救急車に連絡しようにも体が全く動かない。
 自分は死ぬ、そう悟ったトオルの脳内で、生まれてから現在に至るまでの映像が一気に流れ出した。
 これが所謂走馬灯なのかと内心感心しつつも、トオルは自分の人生を振り返る。

 生まれた時、初めて歩いた時、小学生、中学生、高校生――。

「……つまんねぇ」

 改めて振り返る自分の人生は――、とてもつまらないものだった。
親は少なくとも、悲しんではくれるだろう。
 だが、他人の、例えば同じクラスのクラスメイトはトオルが死んだことを悲しんでくれるだろうか。
 きっと、時が流れてしまえば、誰もトオルの顔も、何もかも思い出さなくなってしまうのではないか。
 その時、トオルの中で初めてと言ってもよい感情が湧き上がる。
 
「……何も無いは、嫌だ」

    1度溢れてしまった感情はとめどなくトオルの脳内を支配する。
   目立つことを避けてきた、誰の印象に残らないようにしてきた人生だった。だが、死ぬ直前にトオルが強く思ったのは
 誰の印象に残らないモブの人生ではなく、何かの主役になりたい。
 自分が話の中心にいるような人気者に、1度でいいからなりたい。
   そんな子供じみた承認欲求であった。
 トオルの脳裏に、クラスメイトのユウヤの姿が浮かぶ。
 薄い色素の髪と瞳。目鼻立ちの整ったユウヤはその美貌と気さくな人柄で男女問わず好かれている。トオルも2つ隣 の席にいる彼の存在を話したことはないけども、意識はしていた。
 ユウヤはまさに主人公そのもの。
 対してトオルは、ただのモブ。
 嫌だ。そんなのは嫌だ。自分は、ユウヤのように、ユウヤになりたい。
   ユウヤに、なりたい。
 
「……ユウ、ヤ」

 そう強く願いながら、トオルは目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

処理中です...