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夜の静けさの中で
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「は、……、な、なにを」
薬を飲んだ? ルカの未完成の薬を?
身体に何かあったらどうするのか今のところ、アランの体には異常は見当たらないがもし何かあったら、と思うとシャオは気が気でも居られない。
「な、何故! そんなこと!」
「王族に、戻るためだ」
「……ッ」
アランの真っ直ぐな銀の瞳がシャオを制す。
その、瞳の奥に見えた覚悟にシャオの言葉は詰まる。
「完璧な薬を作ることが出来れば、弟は俺を無視することは出来なくなる。それを、邪魔はされたくなかった。いくら王になる道を諦めたとしても、王族の称号は取られなたくなかった」
「じゃ、邪魔とは……」
「お前のことだ。俺が薬をのむといったら止めただろう」
「あ、当たり前です! ある――、アラン様がそんなことをするなど」
「だから、俺はお前に隠した」
「……」
有無を言わさぬアランの言葉にシャオの声が詰まる。
当たり前だ。シャオなら、試薬をアランが飲むと言い出したら絶対に反対する。
むしろ、それを奪って自分が飲むと言い出すだろう。それをアランが分からないはずがない。
「食事をとらなかったのも、その理由ですか?」
「……お前のことだ。食事に、薬が入っているかもしれん」
「い、入れておりません!」
「……」
「あ、あの薬は他の物と混ぜると食事の味が落ちてしまうのです。ですから、食事には一切」
「つまり、食事の味が落ちていなければ入れていた、ということか」
「ウッ……」
図星を突かれ、シャオは言い淀む。アランの前で嘘をつけないことは百も承知なので、これ以上は何も言えない。
「まあ、お前にバレてしまった以上、隠すつもりはない。いい加減、ルカの手料理も飽きたし、お前の食事も口にするとするか」
「あ、ありがとうございます。ですが、あやつの料理で味などは問題はなかったですか?」
「問題ない。むしろーー」
「あ、アラン様? なぜ急に目をそらされるのです?」
明らかにシャオの料理に対して含むことがある、と言いたげだ。
確かにシャオは貴族で、今までは料理など作るよりも出されることが多かった。だが、ある程度はできるはずだし、アランのことを考えて作った料理なのだから、不味いはずはない……、多分。
「ルカは、平民だった。食事の準備も平民同士で持ち回りで行っていたから……、慣れていたのだろう」
「アラン様ァ……!」
暗にシャオよりもルカの方が作る食事が上手いと言われ、シャオは微かな悲鳴を上げる。
「食事くらい気にするな。紅茶はお前の方が良い。それに、お前には誇ることがある」
「は、それはーー」
「俺の病を治した事だ」
アランはそう言ってシャオをさらに強く抱きしめた。
アランの体温とシャオの体温が混ざり合う。それをされるだけでシャオ心は跳ね上がり、歓喜と、そして幸福に満たされる。
だが、失敗作は失敗作。それをアランにどういわれようとも、アランの足を奪ってしまったことは消えない。
「で、ですが、あの薬はーー」
「未完成だ。だが、無から有を作るというのは有から有を生み出す以上に価値がある。それを、お前は短期間でやり遂げ、死を待つのみだった俺を治した。それは食事を作ることよりも、俺に付き従うよりも重要な事だと思わぬか?」
「……」
まだ足りない。お前はアランに足の麻痺を残した。その言葉が頭をよぎるが、そのどれもが今、この場には相応しくない言葉であろう。
確かに、アランの足に麻痺を残してしまった事は悔しい。それを見抜けなかった自分を罵る自分の声が病むことはない。
だがーー、今、アランはここにいる。生きている。死んでいない。そのアランの温もりをシャオは全身で感じている。
それだけで、自分を罵る言葉が全てかき消された。
アランに抱きしめられ続け、その温度はどちらのものか分からなく程にシャオとアラン、2人の体に馴染んでいく。
「お前は、俺を救ってくれた」
アランの言葉にシャオは自然と涙を流した。
我慢していた涙がとめどなく流れ落ちる。そんなシャオを慰めるようにアランは唇でそれを吸い取った。
「色々、俺に対し辛いこともあっただろう」
「い、いいえ。わ、私はーー」
「シャオ、俺は、お前に何ができる?」
アランの甘く、優しい声。それがシャオの甘美な菓子のように響く。
心の枯渇していた部分が満たされつつある。それに戸惑いを感じるシャオの口は勝手に回り出す。
「わ、私を、おそばに置いてください」
「ああ」
「隠し事を、しないでください」
「ああ」
「な、悩みはすべて、私に言って欲しいのです。あ、あと……」
抑えろとシャオの理性が言っている。
だが、口は止まらない。きっと、アランは従属魔法を知らず知らずのうちに使っているのだ。だから、従者としてはありえないわがままを言ってしまう。
アランが怒らないのが僥倖だった穏やかな顔でシャオの聞いている。
「ア、アラン、様……」
「もう終わりか?」
「えっ、あっーー」
「ゆっくりでいい」
「いーー、いえ! もう、これ以上は!」
「全て言え。そう出ないと、従属魔法を使うぞ」
「そ、そんなーー!」
「だったら、全ていえ。俺は今、お前の望みを叶えたやりたいんだ」
アランの美しい瞳がシャオを射抜く。それだけでシャオは天上に登るかというほど幸福なのに、さらに望み言えとは。これ以上、思いつかない。
「も、もう……」
「もう無いか?」
「……は、いーー、んっ」
必死に頷くシャオを見下ろすアランはシャオの唇を吸う。
それが深くなり、シャオの体が幸福に溺れていく。
「シャオ、いままで、済まなかった。その詫びにーー、お前が求めるまま、お前を愛そう」
「で、ですが」
「頷け。そして、俺を愛すとこの場で誓え」
「は……」
「ほら」
「は、い……」
頷いた途端、シャオの中に今まで感じたことの無い幸福感が湧き上がる。その幸福感はシャオを包み込む。
アランに溺れる。だが、その中に永遠に溺れていたい。だから、それを受け入れるようにシャオはアランに手を伸ばし、アランの首筋に触れた。
「アラン様……」
「シャオ」
太陽が昇らぬ暗闇の中、シャオとアランは深い口付けを交わした。
シャオはアランの愛という最高級の幸福に身を包まれ、それを甘受するために目を閉じ、暖かな闇に体を沈ませた。
薬を飲んだ? ルカの未完成の薬を?
身体に何かあったらどうするのか今のところ、アランの体には異常は見当たらないがもし何かあったら、と思うとシャオは気が気でも居られない。
「な、何故! そんなこと!」
「王族に、戻るためだ」
「……ッ」
アランの真っ直ぐな銀の瞳がシャオを制す。
その、瞳の奥に見えた覚悟にシャオの言葉は詰まる。
「完璧な薬を作ることが出来れば、弟は俺を無視することは出来なくなる。それを、邪魔はされたくなかった。いくら王になる道を諦めたとしても、王族の称号は取られなたくなかった」
「じゃ、邪魔とは……」
「お前のことだ。俺が薬をのむといったら止めただろう」
「あ、当たり前です! ある――、アラン様がそんなことをするなど」
「だから、俺はお前に隠した」
「……」
有無を言わさぬアランの言葉にシャオの声が詰まる。
当たり前だ。シャオなら、試薬をアランが飲むと言い出したら絶対に反対する。
むしろ、それを奪って自分が飲むと言い出すだろう。それをアランが分からないはずがない。
「食事をとらなかったのも、その理由ですか?」
「……お前のことだ。食事に、薬が入っているかもしれん」
「い、入れておりません!」
「……」
「あ、あの薬は他の物と混ぜると食事の味が落ちてしまうのです。ですから、食事には一切」
「つまり、食事の味が落ちていなければ入れていた、ということか」
「ウッ……」
図星を突かれ、シャオは言い淀む。アランの前で嘘をつけないことは百も承知なので、これ以上は何も言えない。
「まあ、お前にバレてしまった以上、隠すつもりはない。いい加減、ルカの手料理も飽きたし、お前の食事も口にするとするか」
「あ、ありがとうございます。ですが、あやつの料理で味などは問題はなかったですか?」
「問題ない。むしろーー」
「あ、アラン様? なぜ急に目をそらされるのです?」
明らかにシャオの料理に対して含むことがある、と言いたげだ。
確かにシャオは貴族で、今までは料理など作るよりも出されることが多かった。だが、ある程度はできるはずだし、アランのことを考えて作った料理なのだから、不味いはずはない……、多分。
「ルカは、平民だった。食事の準備も平民同士で持ち回りで行っていたから……、慣れていたのだろう」
「アラン様ァ……!」
暗にシャオよりもルカの方が作る食事が上手いと言われ、シャオは微かな悲鳴を上げる。
「食事くらい気にするな。紅茶はお前の方が良い。それに、お前には誇ることがある」
「は、それはーー」
「俺の病を治した事だ」
アランはそう言ってシャオをさらに強く抱きしめた。
アランの体温とシャオの体温が混ざり合う。それをされるだけでシャオ心は跳ね上がり、歓喜と、そして幸福に満たされる。
だが、失敗作は失敗作。それをアランにどういわれようとも、アランの足を奪ってしまったことは消えない。
「で、ですが、あの薬はーー」
「未完成だ。だが、無から有を作るというのは有から有を生み出す以上に価値がある。それを、お前は短期間でやり遂げ、死を待つのみだった俺を治した。それは食事を作ることよりも、俺に付き従うよりも重要な事だと思わぬか?」
「……」
まだ足りない。お前はアランに足の麻痺を残した。その言葉が頭をよぎるが、そのどれもが今、この場には相応しくない言葉であろう。
確かに、アランの足に麻痺を残してしまった事は悔しい。それを見抜けなかった自分を罵る自分の声が病むことはない。
だがーー、今、アランはここにいる。生きている。死んでいない。そのアランの温もりをシャオは全身で感じている。
それだけで、自分を罵る言葉が全てかき消された。
アランに抱きしめられ続け、その温度はどちらのものか分からなく程にシャオとアラン、2人の体に馴染んでいく。
「お前は、俺を救ってくれた」
アランの言葉にシャオは自然と涙を流した。
我慢していた涙がとめどなく流れ落ちる。そんなシャオを慰めるようにアランは唇でそれを吸い取った。
「色々、俺に対し辛いこともあっただろう」
「い、いいえ。わ、私はーー」
「シャオ、俺は、お前に何ができる?」
アランの甘く、優しい声。それがシャオの甘美な菓子のように響く。
心の枯渇していた部分が満たされつつある。それに戸惑いを感じるシャオの口は勝手に回り出す。
「わ、私を、おそばに置いてください」
「ああ」
「隠し事を、しないでください」
「ああ」
「な、悩みはすべて、私に言って欲しいのです。あ、あと……」
抑えろとシャオの理性が言っている。
だが、口は止まらない。きっと、アランは従属魔法を知らず知らずのうちに使っているのだ。だから、従者としてはありえないわがままを言ってしまう。
アランが怒らないのが僥倖だった穏やかな顔でシャオの聞いている。
「ア、アラン、様……」
「もう終わりか?」
「えっ、あっーー」
「ゆっくりでいい」
「いーー、いえ! もう、これ以上は!」
「全て言え。そう出ないと、従属魔法を使うぞ」
「そ、そんなーー!」
「だったら、全ていえ。俺は今、お前の望みを叶えたやりたいんだ」
アランの美しい瞳がシャオを射抜く。それだけでシャオは天上に登るかというほど幸福なのに、さらに望み言えとは。これ以上、思いつかない。
「も、もう……」
「もう無いか?」
「……は、いーー、んっ」
必死に頷くシャオを見下ろすアランはシャオの唇を吸う。
それが深くなり、シャオの体が幸福に溺れていく。
「シャオ、いままで、済まなかった。その詫びにーー、お前が求めるまま、お前を愛そう」
「で、ですが」
「頷け。そして、俺を愛すとこの場で誓え」
「は……」
「ほら」
「は、い……」
頷いた途端、シャオの中に今まで感じたことの無い幸福感が湧き上がる。その幸福感はシャオを包み込む。
アランに溺れる。だが、その中に永遠に溺れていたい。だから、それを受け入れるようにシャオはアランに手を伸ばし、アランの首筋に触れた。
「アラン様……」
「シャオ」
太陽が昇らぬ暗闇の中、シャオとアランは深い口付けを交わした。
シャオはアランの愛という最高級の幸福に身を包まれ、それを甘受するために目を閉じ、暖かな闇に体を沈ませた。
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