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二人の部屋
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長い一日が終わりを迎えようとしている。
あれからシャオ達は様々なことを行った。まず、アランの王族復帰のための儀式だったり薬や病についての情報交換ーー、シャオやアランに休まる機会はほとんど無かった。
明日も色んなことを行わなくてはならない。アランは王族に戻ったので様々な人間から挨拶をされるだろうし、シャオも薬を作った者として様々な会議に出席し情報共有をしなくてはならぬのだ。
この生活があと数日続く。
だからか、アランに用意された部屋は1年前、アランが使用していた自室だった。疲れきった体には使い慣れた自室が1番とイースが考えたのだろう。
シャオも何度か入ったことのあるアランの自室に入ると、部屋の主人が1年間不在だったことを感じさせないほど綺麗に保たれている。
おそらく、アランが館にいた時でも定期的に掃除をしていたのだろう。
「……ヤツめ、俺が戻ることを予期していたな」
入った途端悔しそうに呟いたアランは入る前の凛とした王族の姿から一転、もう我慢の限界だと言うような風にその身をベッドに沈ませる。
休憩の時にある程度マッサージをしていたが、急しのぎのマッサージではさすがにもう限界だったのだろう。
シャオは急いでアランの身につけていた服を緩め、靴を脱がす。
それだけで辛そうだったアランの顔が和らぐのが分かり、シャオは安心からほっと息を吐いた。
「シャオ」
「は、はい」
「これを、返しておく」
そう言って懐から出したのは王宮魔法士の紀章だった。
それは紛れもなくシャオのものだ。本来、肌身離さず持っていなくてはならないが、屋敷での生活では邪魔なだけだったので自室の棚にしまったままだった。
それを何も言わずに受け取ったシャオにアランは言葉を付け加える。
「今後は肌身離さず身につけておけ。これから、定期的にここには呼ばれるだろう。その時に、紀章がないから入れないなど、あってはならぬぞ」
「……はい」
「あと、同じ棚にあった金についてだが……、全て使ってしまった」
その表情は、恥ずかしそうな表情だった。あまり見ないアランの表情にシャオは首を傾げる。
「シャオ、屋敷から1番近い村に定期的に来る行商人の男がいるだろう。奴にはしばらく金を払う必要はない」
「は……」
「城下町に行くまでの乗馬賃、マトを引き取る時に渡した金……、それだけで奴にとっては十分すぎる金を渡した。棚にあった大量の金が無くなる程にな」
「……」
「お前も、何か欲しいものがあったのだろう。これからは俺は王族に戻り持っていた土地も戻ってくる。金はそこから入ってくるから、すぐに利子を付けて返す」
「……」
「どうした?」
シャオの明らかにぼんやりとした顔を見て思わずアランも表情を変える。
それに気が付き、シャオは勢い良く頭を横に振った。
「な、なんでもありません。その、お金については何のも問題ありません。私の物は主の物ですから。それに、金は元々屋敷での生活に苦労しないために持ってきただけで、稼ごうと思えばいつでも稼げます。返してもらう必要はありません」
早口でそう言い返したシャオにアランの顔は訝しいものに変わる。
もしかして、自分の様子がおかしいと思っているのだろうか。そんなことは無い、という風にシャオは必死で話題を変えた。
「マッサージを行います! 主もお疲れでしょう。念入りに行わなくては!」
アランは何か言いたげな視線をしたが、それよりも自分の体の辛さの方が勝ったのだろう。
ベッドに深く体を寝かせる。それを見てシャオはアランに一言断りを入れてから事前に用意させた湯と香油を使いこの数日出来なかったマッサージを行った。
体を触ると案の定、アランの足は凝り固まっている。数日放置しただけでここまで酷くなるとは。
シャオのような世話をする者が居ない人間がシャオの作った薬を飲んだら歩くことすらできないだろう。
改めて、自分は主に失敗作の薬を作ってしまったのだと実感する。
そこから感じる罪悪感をシャオは気づかない振りをし、必死にマッサージを行った。
普段はマッサージを好んでいないアランも自分の体がマッサージでほぐれていくのが分かるのだろう。特に嫌がることも無くマッサージをさせてくれる。
「主、背中を向けてください」
「あぁ」
素直に背中を向けたアランの背をシャオは無心でマッサージをする。
背中も酷かった。
無心で、念入りに時間をかける。
ようやく全てのマッサージが終わり、シャオが香油を拭き取るとアランは起き上がり脱いだ服をき直した。
受ける前よりも幾分かは晴れやかな顔をし、その顔をみてシャオは内心安心する。
「……」
アランをシャオはぼんやりと見つめた。
愛しい自分の主。
そのアランのためならばシャオは死ぬ事ができるし、アランに必要とされなければ生きている価値がない、そうシャオは言い切れる。
「では、私はこれで」
シャオにも用意された部屋がある。この部屋から遠く離れた部屋。すでにルカはそちらにあるもう1つの部屋でマトという少年と休んでるはずだ。
アランが屋敷から王宮に行くまでの道中で拾った孤児マトはベッドがある部屋に泊まれると聞いた途端、嬉しそうに顔を綻ばせていた。
子供ながら愛らしいその姿、成長しきったシャオにはもうない。
性格もいい。これなら、シャオが居なくなっても問題はない。
「……シャオ?」
「……ッ」
あれからシャオ達は様々なことを行った。まず、アランの王族復帰のための儀式だったり薬や病についての情報交換ーー、シャオやアランに休まる機会はほとんど無かった。
明日も色んなことを行わなくてはならない。アランは王族に戻ったので様々な人間から挨拶をされるだろうし、シャオも薬を作った者として様々な会議に出席し情報共有をしなくてはならぬのだ。
この生活があと数日続く。
だからか、アランに用意された部屋は1年前、アランが使用していた自室だった。疲れきった体には使い慣れた自室が1番とイースが考えたのだろう。
シャオも何度か入ったことのあるアランの自室に入ると、部屋の主人が1年間不在だったことを感じさせないほど綺麗に保たれている。
おそらく、アランが館にいた時でも定期的に掃除をしていたのだろう。
「……ヤツめ、俺が戻ることを予期していたな」
入った途端悔しそうに呟いたアランは入る前の凛とした王族の姿から一転、もう我慢の限界だと言うような風にその身をベッドに沈ませる。
休憩の時にある程度マッサージをしていたが、急しのぎのマッサージではさすがにもう限界だったのだろう。
シャオは急いでアランの身につけていた服を緩め、靴を脱がす。
それだけで辛そうだったアランの顔が和らぐのが分かり、シャオは安心からほっと息を吐いた。
「シャオ」
「は、はい」
「これを、返しておく」
そう言って懐から出したのは王宮魔法士の紀章だった。
それは紛れもなくシャオのものだ。本来、肌身離さず持っていなくてはならないが、屋敷での生活では邪魔なだけだったので自室の棚にしまったままだった。
それを何も言わずに受け取ったシャオにアランは言葉を付け加える。
「今後は肌身離さず身につけておけ。これから、定期的にここには呼ばれるだろう。その時に、紀章がないから入れないなど、あってはならぬぞ」
「……はい」
「あと、同じ棚にあった金についてだが……、全て使ってしまった」
その表情は、恥ずかしそうな表情だった。あまり見ないアランの表情にシャオは首を傾げる。
「シャオ、屋敷から1番近い村に定期的に来る行商人の男がいるだろう。奴にはしばらく金を払う必要はない」
「は……」
「城下町に行くまでの乗馬賃、マトを引き取る時に渡した金……、それだけで奴にとっては十分すぎる金を渡した。棚にあった大量の金が無くなる程にな」
「……」
「お前も、何か欲しいものがあったのだろう。これからは俺は王族に戻り持っていた土地も戻ってくる。金はそこから入ってくるから、すぐに利子を付けて返す」
「……」
「どうした?」
シャオの明らかにぼんやりとした顔を見て思わずアランも表情を変える。
それに気が付き、シャオは勢い良く頭を横に振った。
「な、なんでもありません。その、お金については何のも問題ありません。私の物は主の物ですから。それに、金は元々屋敷での生活に苦労しないために持ってきただけで、稼ごうと思えばいつでも稼げます。返してもらう必要はありません」
早口でそう言い返したシャオにアランの顔は訝しいものに変わる。
もしかして、自分の様子がおかしいと思っているのだろうか。そんなことは無い、という風にシャオは必死で話題を変えた。
「マッサージを行います! 主もお疲れでしょう。念入りに行わなくては!」
アランは何か言いたげな視線をしたが、それよりも自分の体の辛さの方が勝ったのだろう。
ベッドに深く体を寝かせる。それを見てシャオはアランに一言断りを入れてから事前に用意させた湯と香油を使いこの数日出来なかったマッサージを行った。
体を触ると案の定、アランの足は凝り固まっている。数日放置しただけでここまで酷くなるとは。
シャオのような世話をする者が居ない人間がシャオの作った薬を飲んだら歩くことすらできないだろう。
改めて、自分は主に失敗作の薬を作ってしまったのだと実感する。
そこから感じる罪悪感をシャオは気づかない振りをし、必死にマッサージを行った。
普段はマッサージを好んでいないアランも自分の体がマッサージでほぐれていくのが分かるのだろう。特に嫌がることも無くマッサージをさせてくれる。
「主、背中を向けてください」
「あぁ」
素直に背中を向けたアランの背をシャオは無心でマッサージをする。
背中も酷かった。
無心で、念入りに時間をかける。
ようやく全てのマッサージが終わり、シャオが香油を拭き取るとアランは起き上がり脱いだ服をき直した。
受ける前よりも幾分かは晴れやかな顔をし、その顔をみてシャオは内心安心する。
「……」
アランをシャオはぼんやりと見つめた。
愛しい自分の主。
そのアランのためならばシャオは死ぬ事ができるし、アランに必要とされなければ生きている価値がない、そうシャオは言い切れる。
「では、私はこれで」
シャオにも用意された部屋がある。この部屋から遠く離れた部屋。すでにルカはそちらにあるもう1つの部屋でマトという少年と休んでるはずだ。
アランが屋敷から王宮に行くまでの道中で拾った孤児マトはベッドがある部屋に泊まれると聞いた途端、嬉しそうに顔を綻ばせていた。
子供ながら愛らしいその姿、成長しきったシャオにはもうない。
性格もいい。これなら、シャオが居なくなっても問題はない。
「……シャオ?」
「……ッ」
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