追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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王のため、主のため

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 アランは視線をイースの方に向けてはいたが、シャオに乗せられている手の重みはしっかりと感じる。
 それだけでシャオの怒りが萎み、力が抜けてしまう。

――主には、魔法の力はないはずなのに……!

「僕が、シャオ様を服従させます! シャオ様もアラン様も、僕が――、ハァ、ハァ……!」

 一気に喋りすぎたせいだろう。ルカの息がそこで切れてしまう。
 息を整えようと肩を上下させるが、息が切れるばかりで上手くいかないようだ。
 今のうちに反論しなければ。コイツの好きにはさせたくないが、力が出ない。

「はぁ……、はぁ……っ! 僕は、故郷を、この国を救います。だから、だから――、僕に時間をください!!」

 ルカの叫びは部屋中に響き渡った。
 だが、それに返答する者はいない。
 
「……」
 
 薬は一応、完成している。ただし、副作用を無視すれば。
 それをわざわざ時間をかけてできるかわからないルカに任して副作用のない新しい薬を待つほど、イースには余裕がない。だが、完璧な薬をつくれるのであれば待ちたい。
 そんな相反する考えをイースは考えているようだった。この二択を迫られてすぐに答えられる人間などいないだろう。
 きっと、アランでも悩むはず。
 だから、それ以外の見返りが欲しい。
 ルカの成功するかわからない話だけでは、足りない。もし失敗しても、なにかしらの成果が必要だ。
 きっと、イースはそう考えている。
そして、その成果をシャオはこの身をもって差し出せる。

「……主」

 シャオは主であるアランに小さく声をかけた。
 アランがシャオの方に顔を向ける。シャオの手に乗せられたアランの手はもうシャオの手と完全に馴染んでいた。
 その手が離れ、アランはルカの方に視線を向けた。

「ルカ、いい加減シャオの従属魔法を解いてやれ」
「は、はい」

 ルカもこの空間に対し混乱しているのだろう。
 アランの言葉に素直に頷き、従属魔法を解く。
 ようやく、体の自由を手にいれたシャオは起き上がり改めて自分の意志で膝まずく。

「…………」

 ちらりとシャオは隣にいるアランを見る。
 太陽や炎よりも赤いその髪と雪の雪原のきらめきをその瞳に閉じ込めたような銀の瞳。同じ血が通っているとは思えない神のような美貌をシャオがアランに仕えてから10年、何度その目に焼き付けてきたか。
 シャオの人生はアランに拾われてから始まった。シャオの人生はアランのためにある。それはアランもわかっているはず。そのためならば、シャオは命を惜しまない。
 そう自分に言い聞かせ、シャオは今まで見ることがなかった王座に座るイースを見上げた。

「王、私に従属魔法をかけてください」
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