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目覚め

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「わっ」

 驚いた声を上げるマトを無視し、アランは足の間にマトを座らせる。
 その上から毛布を被せ、マトをアランと毛布で包むようにした。アランが元々使っていた毛布も全て使い、体をマトごと覆う。
 マトはアランに後ろから抱きつかれる形になったのだが、咄嗟の出来事に逃げようとするマトをアランは押さえつけた。

「我慢しろ」
「い、いえ、でも」
「……俺も、寒いんだ」

全くの嘘ではない言葉を言ったアランにマトは動くのをやめ、それ以上、何も言わなくなった。
 やはりこの寒さ、マトでも辛いのだろう。しばしの静寂のあと、マトから小さな声が聞こえた。

「ありがとうございます」

マトの体は冷えていた。当たり前だ。外は雪が降っている。
ここはまだ雪が積もる地域だ。服も冬用の服を着ているが薄い。こんな状態であの薄い毛布でしのいでは明日の朝には凍え死んでいたかもしれない。
だが、毛布に包まれているうちにマトの体は温まっていく。さすが子供だ。
アランにとってはどんな毛布よりもマトの体の方が温かった。
 もっと早くこうしていれば良かった。子供特有の暖かさにアランは思わず息を吐く。
だが、それをマトはアランのため息だと思ったようで、怯えたような声が前方のマトからかかる。

「その……僕、汚いでしょう。申し訳ございません」
「……汚い子供なら、もっと酷い奴を見たことがある」
「え?」

 アランの言葉にマトは顔を上げてアランの方を見た。
 確かにマトはお世辞にも綺麗とは言えない身なりだが、遠征を重ねた自分は汚いものについては見慣れているし、触れるのもこの寒さでは選り好みはしていられない。
 なにより、出会った頃のシャオと比べればマトはとても清潔な部類である。
 泥だらけで髪色すらもわからなかったやせ細った化け物のような過去のシャオ。体を洗い流してもその肌の浅黒さは消えることの無いほど当時のシャオは汚れていたのだ。
今の清潔な白い肌のシャオとは大違いである。

「なんでもない、昔の話だ。俺も体が冷えていたから、ちょうどいい。そのまま寝ていろ」
「は、はい……」

 マトはぎこちなく返事をし、アランの足の間に大人しく座っている。
 だが、先ほどのやり取りで目が覚めてしまったのだろう。
 マトが寝つく気配ではなさそうなのが背中越しに伝わった。アランも体が強ばりすぎて寝れる気配もない。
 この調子では王宮に着いても無事に歩けるかどうかすら怪しい。
 体をさすりつつ、アランはマトに小さな声で話しかけた。

「少し、話をしてくれないか?」
「は、はい、なんなりと……」
「この国には今、ある病が広がっているようだが、本当か?」
「は、はい。首に痣が出来ると熱が出て、死ぬ病だそうで……」
「その病にかかった者をみたことはあるか?」
「……」

アランの問いにマトは黙り込んだ。行商人の鼻歌が外から聞こえる。
 
「……はい」

 マトは声を静めて頷いた。
 
「僕の、母です」
「……なんだと?」

マトは顔を俯かせる。少しだけ声を沈めながら言った。

「母は、3か月前、その病で亡くなりました」
「……お前は、大丈夫だったのか?」
「王から首に痣が出来たものは隔離するよう命令されているんです。昨年、家族全員が死んで空き家になっていた家があったのです。そこで母は寝かせられていたので、僕は無事でした」

 マトはアランを雪で隔離された村に住んでいる金持ちのひきこもりの平民と思っているらしい。
 病についてさらに詳しく説明してくれた。

「病は、首に痣が出来ることから始まります。最初のうちはそれだけで済むのですが、次第に熱をだし、体が衰弱していくのです。その痣は周囲の人間に広まります。僕のいた村も広まりーー、皆逃げていきました」
「……そうか」

 マトの話をきき、アランは咄嗟に自分の首を手で隠した。
 アランの首に痣ができていることはシャオやルカに指摘されているので知っている。
 こんな幼いマトも知っているほどだ。行商人も痣についてはさらによく知っていることだろう。
 せっかく王宮まで乗せてもらえる足が出来たのだ。病に患っていると思われここで追い出されるという真似はしたくない。
 マトはさらにすでにいくつかの村が壊滅状態になっていることを教えてくれた。
 他国なども広まっている所があるらしく、それはこの国よりも大変な状態であるらしい。
 それでも、イースが治めている王宮や城下町はまだ無事なのだという。
 それでも春になれば人の往来はさらに増える。
 病の治療法を春までに見つけないと、王宮すらもどうなるかは怪しい。
 マトの話である程度王宮については把握した。
 アランは感謝の印にマトの頭を撫ぜた。
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