追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

牢屋

ーーすべて、すべて奴らの手のひらの上だったッ！！！！
　
そうだ、思えばアランが追放された時からおかしかった。
　散々アランの居場所はどこだ、体調はどうだと言っても答えなかった医者が、1ヶ月経ったら素直に答えたことや、結界が複雑ながらどこかに隙という名の手がかりがあったこと、村で効いた万病に効く病の話など、イースは初めからシャオに治療法を見つけさせるつもりだったのだ。
　その治療法を使い、自分の王としての地位を磐石なものにする、というのがイースの魂胆だろう。
つまり、シャオの忠誠心を利用された、という訳だ。

「……ハッ！」

　あまりにはお粗末で、単純な計画だ。
　少し頭を働かせていれば分かるはずのイースの計画にシャオは気づくことなく踊らされ、追放されたアランの元に行き、病を治した。
　アランの病を治したことには後悔はない。
　アランはシャオの唯一無二の主だ。それをするのは当たり前のこと。
許せないのはーー、イースの思惑に気づかず、裏切り者のルカに心を許してしまった自分自身。

「クソッ、クソッ」

また、鉄格子を蹴る。
蹴り方が悪く、足には青あざが出来てしまったが、シャオはそれでも蹴った。蹴らずにはいられなかった。
そして、散々蹴り続けたあとーー、疲れたように壁にもたれかかる。

「……主」

アラン。シャオの唯一敬愛する主。その言葉を口にするだけで、シャオの頰には涙が一筋伝った。

ーーきっと、主にはもう会えないだろう。

従属魔法で縛られ魔法を使えなったシャオは、ただの人間とかわらない。
シャオの価値は魔法しかないのだ。それが間抜けにも自分の甘さのせいでこうなってしまった。
仮に自分がイースに膝をついてもイースはアランとシャオが会うのを許すはずもない。
イースはそこまで甘い男では無いことは先程のやり取りでよく分かっている。

「く、そ……ォ、アラン、様……！」

シャオはアランの名前を呟きながら、涙を流す。
シャオの脳裏にはアランとの輝かしい思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。
初めてアランと出会った時や遠征に行った時、屋敷での生活ーー、そして、アランの唇の感触。

「アラン、様……っ！私は……、私は……！」

嗚咽が牢屋に響く。シャオは崩れ落ちるように地面に座り込み、ただただ泣いていた。
涙は何故か一向に止まる気配がない。

「クッソ、ォッ……！！」

どれだけ泣き叫んだところで何も変わらないと理解しているのに、シャオはただ泣くことしか出来なかった。