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話の本題

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「き、さ、まぁぁぁぁぁぁ!」

息の根を止めよう。ルカの首を掴み、万力のような力でルカを締めあげた。悪魔のような形相でルカの首を絞めるのを見た兵士たちが必死にルカからシャオを引き離す。

「離せ!! 殺して、殺してやる!! 主を裏切りやがって!!」
「落ち着け!!」
「貴様らもだ! 殺してやる!!」

 殺すと叫び暴れまわるシャオを兵士たちは必死にとめた。
 シャオは暴れたが、魔法を使えなくされたシャオに訓練された兵士が体で敵うわけがない。
 すぐに取り押さえられ、今度は全身を動けないように再度紐で体中を縛り付けられる。
 
「やめろ! 殺す、殺す!!」
「はぁ……、っはぁ……、シャオ様」
「殺す、殺してやる!!」

 息を整えるルカにシャオは殺すと何度も叫んだ。
 その様子を眺めていたイースがうるさく口を挟む。
 王座から立ち上がり、階段を下る音が聞こえた。
 
「彼を責めるのやめてくれないか? 彼に任務を与えたのは私なんだから。話を戻そう。病は王都では完全にはまだ広がっていない。私が早期から首裏に痣を持つ者の制限をしたからね。国中でも一斉に病についての周知をした。だから、ここ一年の間、病の感染者は思いの外増えていない。特に王都では。だけど、王都の制限や痣のある者を隔離する生活を永遠に続けられるわけじゃない。それに、他方の村のいくつかではもう広まっていて、ルカの故郷は、既にその病が広まっている村なんだ。既に何人もの人間が死んでいる。だから、ルカは君たちの元の来た。故郷を救うため、君が兄上の病を治した薬の治療法を探るために」
 
ルカはシャオに押し倒されたまま、イースの話を黙って聞いている。
そのようやく息を吐けたようなどこかすっきりした様子のルカを見て、この話が嘘では無いとシャオは確信する。

「……ッ、なぜ、嘘をついた。なぜ、私に本当のことを言わなかったんだ!?」
「……それは」

 シャオの後方から言われたイースの言葉にルカは俯くがイースがその間に口を挟む。
気がつけば、イースはシャオの目の前にいた。アランと同じ銀の瞳がシャオを見下ろした。

「シャオ、話はわかっただろう? さあ、ここからが本題だ。兄上を治療したと言われる薬について教えてもらおう」

 同じ色なのに、アランの銀とはどこか違う銀色に見つめられ、シャオはなぜか体が動かなくなる。

「……シャオ様」

 いまだ苦しそうな声でルカはイースの言葉に答えるように促す。
 従属魔法を使わないということはシャオをまだ信じているからなのだろうか。シャオは、ルカのその真っ直ぐな黒い瞳を見つめたあと、イースの銀の瞳を見上げ、この場に見合わぬ笑みをみせた。

「断る! 貴様らなんぞに話などするか! 残念だったな。私はルカの前にもうすでに我が主との従属魔法を結んでいる。従属魔法は主人側も従者側も複数結べば結ぶほど、その効力は弱くなる。だから、今私は口だけは自由でいられるんだ。そしてお前たちが欲しがるものは私の喋る情報そのものだろう。私を騙した罰だ! 薬についての情報は、渡さない! このまま国ごとのたれ死ね!!」

 シャオの言った言葉にルカはわかりやすく血相を変えた。あわててシャオにつかみかかろうとしているが、イースが近くにいることから今度はルカが兵士に止められている。

「……そうか」

 イースは動じない。だが、内心イースは計画が狂っていることで慌てているはずだ。
 冷静な顔の裏で慌てふためいているイースを想像し、シャオは歪んだ笑みをみせた。
 
「ならば仕方がない」

イースはわざとらしく息を吐いた。
そして、ルカの方に視線を向ける。

「ルカ、兄上を連れてこい」
「は――」
「兄上は治療法不明の病を克服した唯一の人間だ。その人間の体を細かく切り刻めば――、治療法くらい見つかるだろう」
「………ッ!!」

イースの言葉にシャオは息を飲んだ。

「なぜだ!! なぜ主を」
「君が教えないからさ。申し訳ないが、もう待ってられない。春までに治療法を見つけなければ人の往来とともに病は広まってしまう。その間に、私たちは病の治療法を見つけ出さなければいけないのさ」
「ふざけるな! そ、そんなこと、させるわけ――」
「ならば、シャオ。君がなさねばならぬことは、なにかな?」

 イースは顔をシャオに近づけた。
 仮面のような貼り付けた笑みがシャオの目の前に広がる。
 銀の瞳がシャオを真っすぐに見つめていた。
その有無を言わさないイースの剣幕にシャオは慌てながら言う。

「あ、主を、切り刻むのか? お前の兄を……!? そんな外道、信じられるわけ」
「……まさか君に道徳について諭されるとはね。もちろん、それが国のためになるなら、私はするさ」

 イースの銀の瞳が歪む。
 それだけでイースは本気なのだと、シャオが薬について言わなければ次は血を分けた兄であるアランの命を奪うつもりなのだ。
 シャオはどうすべきか。
 魔法を使うーー、従属魔法のせいで使えない。
 従属魔法を解くーー、まだ、魔法の解明ができない。
 アランを差し出すーー、ありえない。
 ならばーー、イースに屈する?

「……ウ、ウゥゥウゥゥーー!!!」
 
 呻くように苦悩するシャオをイースはいつもの余裕そうな笑みで見つめていた。
 きっと、シャオが何を選ぶのかを分かっているのだ。 
 今の時間はそれをただ待つだけの時間、というわけである。
 苦悶するシャオにイースの穏やかな声が降りかかる。

「シャオ、少し、1人になって考えてみるといい。部屋を用意した。そこでゆっくりとーー、悔いの残らぬようにな」

 イースはそう言い、シャオの顔を撫ぜた。
 
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