追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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侵入者

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黒いローブ。黒の瞳と髪はこの暗闇によく馴染んでいた。だが、1か月間生活を共にしていて、顔を見失うわけない。

「ルカ……ッ!」

ルカがシャオの目の前にいた。

「な、なぜだ、貴様、村にいるんじゃ。なんで、探知魔法に」
「……」

シャオはほかの敵がいることを忘れ、ルカに問いかけた。

「貴様、あの兵士はなんだ!? 答えろ! もし主に何かあったらーー」
「いたぞ! シャオだ」
「ルカ様もいる!」

 魔法士兵が数人、こちらに向かってくる気配がした。
 だが、そんな事どうでも良い。シャオは目の前のルカに唸るように言う。

「私に魔法弾を打ったのは貴様か?」
「……はい」

シャオの知っている元気な声とは違い、低く、感情のない声がルカ返ってくる。
そのルカの暗い顔は同じ顔をした別人の気さえした。
だが、目の前の相手がまさかルカの双子の兄弟などというばかげた話ではあるまい。

「なぜだッ……!」
「……皆を、止めようとしただけです」
「なんだと!?」
 
 そうルカとやり取りをしている間にシャオとルカはやってきた魔法士兵に囲まれる。
 だが、明らかにシャオ達を囲む魔法士兵たちはシャオに向かって武器を構えている。誰も、ルカに対し武器を構えていない。
 
「……」

 シャオは武器を囲む魔法士兵をにらみつける。
 見る限り、魔法士兵たちは平民のようで、皆シャオを相手にしているせいか青ざめた顔をしていた。
 その中で一人、その魔法士兵たちの長らしき兵士がルカに向かって不快気に眉を吊り上げた。
 
「……ルカ様、村にいるよう伝えたはずですが」
「僕は、了承していません」

互いに硬い口調で、会話をしている。だが、ルカよりも明らかに年長の魔法師兵がルカに敬語なのが気になった。
おかしい。ルカは平民だ。平民同士ならば敬語は多少使うものの、こんな堅苦しい敬語は使わない。
明らかにこの魔法士兵とルカは大きな厚い壁がある。
 
「……貴様、何を企んでいる」

 シャオは威嚇するようにルカにいう。だが、ルカはどこ吹く風でシャオを暗く濁った眼で見つめている。
 しばらくシャオとルカの間に重苦しい間が開いた後、ルカが口を開ける。

「シャオ様、眠っていてください」
「はっ――」

 何を言い出すのかと思った。だが、ルカの声を聞いた途端、シャオの頭は重くなり、視界がぼやけていく。

「何を――」

 何をしたのだ、と言いかけたが、すぐに原因が分かった。
 従属魔法だ。
 アランが命令した「ルカの言うことをきく」という従属魔法のせいでシャオがルカに逆らえないことを逆手にとられてしまった。

「く、ソッ……!」

 視界が暗く、歪んでいく。目を閉じればすぐに眠ってしまうだろう。
 だが、眠るわけにはいかない。シャオが寝てしまえば屋敷にいるアランに危険が及んでしまう。

「や、やめ、ろ……!」
「王宮に、きていただきます」
「な――」

 なぜだ、と言いかけたが、すべて言うことはかなわなかった。
 ついに我慢しきれなかった瞼が落ちていく。最後に映ったのはルカの黒い瞳だった。
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