上 下
60 / 109

侵入者

しおりを挟む
コートを羽織り、探知魔法が反応した地点に向かって急いで浮遊魔法を展開させた。
あたりは既に真っ暗だ。もし、ここに訪れている相手が王都から来た人間だったならば、まだ夕方と言ってもいい時間にこの完全に暗闇に閉じ込められた空間になったことを多少なりとも困惑しているに違いない。
そこに音もなくシャオが襲撃すれば、難なく掃討は終わる。

ーールカのように、いかせない。

 一ヶ月前に突然現れた異物。
 あの出会いにより、シャオとアランの関係にヒビが入った。このようなことを防ぐためにはどんなことをしても命を奪う必要なある。

ーー簡単だ。誰も、私に適うものはいない。

 夜に慣れた目の向こうに、小さな黒い影が複数見えてきた。
 こちらが向かっていることなど全くわかっていない様子だ。その影を見て、シャオの顔が醜悪に歪んでいく。
 1人も残さず殺してやる。

「……」

 シャオは手のひらに魔素を固めた。
 それを入念に大きくさせ、やがてその大きさが黒い影を全員仕留められそうな大きさになったのを確認し、シャオはその魔法弾を放とうとした。
 だが、その時にシャオの脳裏浮かんだのはルカだった。

『シャオ様』

「――ッ」

 せっかく集めた魔素が霧散する。
 何故、今ルカが突然浮かび上がったのだろう。まさか、ルカがあそこの中にいるということだろうか。
 アランはルカを気に入っている。殺すのはまずい。
 探知した魔素にはルカを感じなかったが、念のため、確認したほうがよいのではないか。
 
 ――どうする。もう少し近づいて、顔をみてからにするか……。
 
 そう思い、距離を縮めようとしたシャオの側頭部に頭を撃ち抜くほどの衝撃が走った。

「ガッ――!!」

 頭が揺れ、浮遊魔法が解かれる。
 無様にも雪に転がり、全身が雪まみれになる。

「……ッ」

 すぐに起き上がり、体勢を立て直す。
 だが、もう二発の魔法弾がシャオの頭に当たる。シャオは再度雪に沈んだ。

「ガッ、ウッ……!」
「なっ、何だ!?」

 シャオが声を発してしまったせいだろう。
 狙っていた黒い集団がざわつき、武器を構える音が耳に入った。

ーー不味い。

相手にバレてしまった。
見るからに集団は兵士。しかも、明らかに訓練された魔法士兵がほとんどだ。
単体ではシャオの敵ではないが、人数がやっかいだ。
それに、シャオの頭を打った魔法士もいる。この距離で、私を正確に狙ってくるとは。相当な魔法の腕の持ち主だ。
シャオは素早く立ち上がり、集団の動きに注意する。

「近くに、近くにシャオがいるぞ! 皆、気を抜くな!」

集団の頭らしき人間が、周りを鼓舞するが、シャオにそれが聞こえても全く意味はなかった。
なぜならシャオはすでに集団から遠くはなれた場所に移動していたからだ。

ーーまずは、狙撃している魔法士からだ。

 シャオは移動しながら、狙撃している魔法士を探す。
 どうやら探知魔法の範囲外にいるようだった。それほどまでにその狙撃している魔法士がシャオの探知魔法を熟知している魔法士だとわかる。
 それならば、シャオも本気を出さねばならない。
 探知魔法をさらに広げ、魔法士では無い兵士や動物の気配まで感じられるようにすると、ある1人の小さな反応に集中させた。

ーー見つけた。

 シャオはその僅かな魔素反応に向かって、一目散に飛んだ。そして、その反応の主を見つける。
 その小さな人物は、大きな木の影に隠れるように立っていた。
 黒いローブに身を包んだ、細長い、背の高い人物だった。その人物は音もなく近づいたシャオに気が付き、顔をあげた。

「ッ!?」

魔法弾が霧散する。
全ての魔法が解除されるほどに、シャオの集中力はかき乱された。

「な、な、んで……!」
「……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

処理中です...