追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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暖炉の火

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――ルカが帰ってきた? いや、まさか私じゃあるまいし……。

「その、お食事は……」
「食べた」
「ル、ルカが帰ってきたということですか?」
「あいつは今、村にいるのではないか?」
「ではそのスープは……」

 震える指で指した空のスープ皿を、アランは一瞥するとなんでもない様子でアランは言った。

「厨房にあったものだが、何か毒でも入っていたのか?」
「なっ――!」
「使ったあとは火も消したぞ」

 当たり前のように言い、ページをめくるアランに、シャオは頭が真っ白になった。
 まさか自分でこのスープを温め食べていたということか。
 もともと厨房にあるスープは今朝ルカが行く前に作ったものである。
 毒などもちろん仕込まれていないが、それよりも主であるアランが従者の仕事場である厨房に足を踏み入れ、火を入れるだけといえど料理をしたという事実にシャオは衝撃を覚える。

「なぜ、厨房に……」
「腹が減ったからな」
「料理、できるのですか」
「……お前が屋敷に来るまで、俺は1人だった」

 声色が穏やかなものから不機嫌なものに変わる。
 アランを不快にさせてしまったとシャオは慌てながら訂正する。

「も、申し訳ございません、私が屋敷に来てからアラン、様のそういったお姿は目にしていなかったものでさから」
「遠征の時のためにある程度の訓練は受けてある。それに、お前がこの屋敷に来た時、俺は死にかけだった。見る機会がなかったのも仕方あるまい」

 そう平然と言い放つアランだが、シャオにはあのアランが鍋のスープを温める程度の料理をしている姿すら思いつかない。
 もちろん、アランが屋敷に閉じ込められ、結界をしいてから、シャオが屋敷に来るまで1ヶ月の差がある。その間、病でベッドにいた時間を考えてもある程度は家事をしていたことは良く考えれば分かるのだがーー、どうしてもシャオは想像ができなかった。
 不思議な顔をするシャオをアランはちらりと視線を向けて言った。

「信じられぬようだな」
「も、申し訳、ありません」

 自分の考えが見抜かれていると思わず、慌てて謝罪するシャオをアランは簡潔によい、とだけ答える。

「上手くいったわけではない。焦がしたり、生焼けだったりーー、多くの食材を無駄にした」
「初めてですから仕方ありません。それに、家事は私の仕事。アラン、様が行う仕事では無いのです」
「……では、俺は何も無い木偶の坊というわけだ」
「アラン様?」
「なんでもない」
   
 そのまま小説を閉じ、アランはシャオの体をジロジロと見つめる。
 
「お前も、身体は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
「見た目では、とてもそうだと思えないがな」
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