56 / 109
暖炉の火
しおりを挟む
目が覚めると、シャオは執務室の客人用の長椅子に横たわるように眠っていた。
すでに辺りは暗い。灯りをつけなければいけないが、今この部屋の灯りとなるものは朝から焚いている暖炉の火しかなく、その穏やかな温かさがシャオの眠りを深めている要因となっていた。
「んっ……」
シャオは寝ぼけた頭で起き上がる。下半身は服を身に着けているが、上半身が脱がされたまま、その脱がされた上着を毛布替わりにしていたらしい。起き上がったせいで上着が落ち、さらけ出した肌に感じる寒さに震えつつ、シャオは暖炉の火が燃える様子を見つめた。
――今、何時だ? もう夜だ。ルカは主に食事を――。
そう思いかけ、シャオはそこでようやく、ルカが今いないことを思い出す。
そうだ、ルカは今村に行っている。その間、アランの身の回りの全ての世話をするのはシャオの役目だ。
だが、自分はこんな時間まで寝ていた。つまり――、昼食をアランに用意できなかったことになる。
「――っ!!」
ようやく今の状況が分かり、シャオの体から汗が噴き出る。
動悸が激しい、呼吸がどんどん荒くなっていく。
「あ、あ、あ、あ、あ――!」
しかも自分は寝る前アランと何をしていた?
椅子の上で、自分はアランに縋りつきながら――。
「う、わ、ぁぁぁぁ!!!」
シャオは頭を抱え、蹲った。
体がべたついている。この正体が何のか知りたくない。
今、シャオの頭の中は自分がアランの昼食を怠ったこと、それに加えて寝る前のアランとの行為で頭がいっぱいになり、羞恥と混乱で頭がおかしくなりそうだった。
「ち、違う……ちがう!」
昨日も、今日も嘘だ。
アランとあんなこと、起きるはずがない。
だが、体中にできているつけた覚えのない痣が、これが本当なのだと無情にも訴えている。
「騒がしいな」
「ヒィッ!」
突然、背後から聞こえたアランの声にシャオは跳び上がるほど驚いた。慌てて振り返れば、シャオが寝ていた長椅子と同じ椅子の、少し離れた位置にアランが座っていた。
日が落ちており、明かりも暖炉の火しかないため、アランがいないと思い込んでいたのだ。突然のアランの登場にシャオの心臓は跳ね上がる。
屋敷にある数十年前の娯楽小説を読んでいたアランに向かってシャオはそのまま頭を床にこすりつけた。
「申し訳ございません!!」
ここ最近、アランに謝ってばかりな気がする。
だが、シャオは昼食を忘れ、無様にもアランに寝顔を晒していたのだ。
ルカがいないというのにこの失態。万死に値する。
「申し訳ございません! どうか、どうか私の命をもってこの失態をお許しください!」
「灯りをつけろ」
「は、はい!」
シャオは起き上がり、急いで室内が明るくなるよう火を灯した。
つけた火は最初は揺らめいていたが、ガラスの中にいれると安定し、室内を明るく照らす。
ほっと、したのもつかの間、自分が上半身だけといえども裸体をアランに晒していることを思い出し、シャオは上着を急いで着る。
「も、申し訳ありませんでした。このような恰好で……」
改めてアランに謝罪してから跪き頭を下げた。
すると、なぜかアランの笑う吐息が聞こえてきたため、恐る恐る顔を上げる。
見ればそこには頬杖をついて楽し気に笑みを浮かべるアランの姿があるではないか。しかも、よく見れば机にはその空になっているスープ皿がある。
すでに辺りは暗い。灯りをつけなければいけないが、今この部屋の灯りとなるものは朝から焚いている暖炉の火しかなく、その穏やかな温かさがシャオの眠りを深めている要因となっていた。
「んっ……」
シャオは寝ぼけた頭で起き上がる。下半身は服を身に着けているが、上半身が脱がされたまま、その脱がされた上着を毛布替わりにしていたらしい。起き上がったせいで上着が落ち、さらけ出した肌に感じる寒さに震えつつ、シャオは暖炉の火が燃える様子を見つめた。
――今、何時だ? もう夜だ。ルカは主に食事を――。
そう思いかけ、シャオはそこでようやく、ルカが今いないことを思い出す。
そうだ、ルカは今村に行っている。その間、アランの身の回りの全ての世話をするのはシャオの役目だ。
だが、自分はこんな時間まで寝ていた。つまり――、昼食をアランに用意できなかったことになる。
「――っ!!」
ようやく今の状況が分かり、シャオの体から汗が噴き出る。
動悸が激しい、呼吸がどんどん荒くなっていく。
「あ、あ、あ、あ、あ――!」
しかも自分は寝る前アランと何をしていた?
椅子の上で、自分はアランに縋りつきながら――。
「う、わ、ぁぁぁぁ!!!」
シャオは頭を抱え、蹲った。
体がべたついている。この正体が何のか知りたくない。
今、シャオの頭の中は自分がアランの昼食を怠ったこと、それに加えて寝る前のアランとの行為で頭がいっぱいになり、羞恥と混乱で頭がおかしくなりそうだった。
「ち、違う……ちがう!」
昨日も、今日も嘘だ。
アランとあんなこと、起きるはずがない。
だが、体中にできているつけた覚えのない痣が、これが本当なのだと無情にも訴えている。
「騒がしいな」
「ヒィッ!」
突然、背後から聞こえたアランの声にシャオは跳び上がるほど驚いた。慌てて振り返れば、シャオが寝ていた長椅子と同じ椅子の、少し離れた位置にアランが座っていた。
日が落ちており、明かりも暖炉の火しかないため、アランがいないと思い込んでいたのだ。突然のアランの登場にシャオの心臓は跳ね上がる。
屋敷にある数十年前の娯楽小説を読んでいたアランに向かってシャオはそのまま頭を床にこすりつけた。
「申し訳ございません!!」
ここ最近、アランに謝ってばかりな気がする。
だが、シャオは昼食を忘れ、無様にもアランに寝顔を晒していたのだ。
ルカがいないというのにこの失態。万死に値する。
「申し訳ございません! どうか、どうか私の命をもってこの失態をお許しください!」
「灯りをつけろ」
「は、はい!」
シャオは起き上がり、急いで室内が明るくなるよう火を灯した。
つけた火は最初は揺らめいていたが、ガラスの中にいれると安定し、室内を明るく照らす。
ほっと、したのもつかの間、自分が上半身だけといえども裸体をアランに晒していることを思い出し、シャオは上着を急いで着る。
「も、申し訳ありませんでした。このような恰好で……」
改めてアランに謝罪してから跪き頭を下げた。
すると、なぜかアランの笑う吐息が聞こえてきたため、恐る恐る顔を上げる。
見ればそこには頬杖をついて楽し気に笑みを浮かべるアランの姿があるではないか。しかも、よく見れば机にはその空になっているスープ皿がある。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる