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暖炉の火

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 目が覚めると、シャオは執務室の客人用の長椅子に横たわるように眠っていた。
 すでに辺りは暗い。灯りをつけなければいけないが、今この部屋の灯りとなるものは朝から焚いている暖炉の火しかなく、その穏やかな温かさがシャオの眠りを深めている要因となっていた。

「んっ……」

 シャオは寝ぼけた頭で起き上がる。下半身は服を身に着けているが、上半身が脱がされたまま、その脱がされた上着を毛布替わりにしていたらしい。起き上がったせいで上着が落ち、さらけ出した肌に感じる寒さに震えつつ、シャオは暖炉の火が燃える様子を見つめた。

――今、何時だ? もう夜だ。ルカは主に食事を――。

 そう思いかけ、シャオはそこでようやく、ルカが今いないことを思い出す。
 そうだ、ルカは今村に行っている。その間、アランの身の回りの全ての世話をするのはシャオの役目だ。
 だが、自分はこんな時間まで寝ていた。つまり――、昼食をアランに用意できなかったことになる。

「――っ!!」

ようやく今の状況が分かり、シャオの体から汗が噴き出る。
動悸が激しい、呼吸がどんどん荒くなっていく。

「あ、あ、あ、あ、あ――!」

 しかも自分は寝る前アランと何をしていた?
 椅子の上で、自分はアランに縋りつきながら――。

「う、わ、ぁぁぁぁ!!!」

 シャオは頭を抱え、蹲った。
 体がべたついている。この正体が何のか知りたくない。
 今、シャオの頭の中は自分がアランの昼食を怠ったこと、それに加えて寝る前のアランとの行為で頭がいっぱいになり、羞恥と混乱で頭がおかしくなりそうだった。

「ち、違う……ちがう!」

 昨日も、今日も嘘だ。
 アランとあんなこと、起きるはずがない。
 だが、体中にできているつけた覚えのない痣が、これが本当なのだと無情にも訴えている。

「騒がしいな」
「ヒィッ!」

 突然、背後から聞こえたアランの声にシャオは跳び上がるほど驚いた。慌てて振り返れば、シャオが寝ていた長椅子と同じ椅子の、少し離れた位置にアランが座っていた。
 日が落ちており、明かりも暖炉の火しかないため、アランがいないと思い込んでいたのだ。突然のアランの登場にシャオの心臓は跳ね上がる。
 屋敷にある数十年前の娯楽小説を読んでいたアランに向かってシャオはそのまま頭を床にこすりつけた。
 
「申し訳ございません!!」

 ここ最近、アランに謝ってばかりな気がする。
 だが、シャオは昼食を忘れ、無様にもアランに寝顔を晒していたのだ。
 ルカがいないというのにこの失態。万死に値する。

「申し訳ございません! どうか、どうか私の命をもってこの失態をお許しください!」
「灯りをつけろ」
「は、はい!」

シャオは起き上がり、急いで室内が明るくなるよう火を灯した。
つけた火は最初は揺らめいていたが、ガラスの中にいれると安定し、室内を明るく照らす。
ほっと、したのもつかの間、自分が上半身だけといえども裸体をアランに晒していることを思い出し、シャオは上着を急いで着る。

「も、申し訳ありませんでした。このような恰好で……」
 
改めてアランに謝罪してから跪き頭を下げた。
すると、なぜかアランの笑う吐息が聞こえてきたため、恐る恐る顔を上げる。
見ればそこには頬杖をついて楽し気に笑みを浮かべるアランの姿があるではないか。しかも、よく見れば机にはその空になっているスープ皿がある。
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