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望み
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アランの柔らかい言葉と表情にシャオは思わず目を丸くする。アランに仕えて10年、アランがこんな顔するのを見たことがなかったからである。
その不意打ちのようなアランの表情にシャオの心臓はドキリと跳ねた。
「わ、わからぬとは……」
「わからぬ、と言ったのだ」
「そんな……」
分からないと言われ酷く落ち込むシャオをアランは笑う。
「お前、俺が死ねと言ったら死ぬのか?」
「主のご命令でしたら……」
「俺がお前だったら、その類まれなる魔法の才能を活かして国を掌握するというのに」
「そうしたら、主が王になれないじゃないですか」
「ふっ――、ふふっ……」
そうシャオがそう言い放った途端、アランは吹き出すように笑い出す。
なんで笑われているのか分からず、シャオはあたふたとする。
「どうされましたか?」
「お前は、やはり分からぬな」
わからぬ、というのは追放され身分を剥奪されたアランに仕えていること、だろうか。シャオにとってアランに仕えることは当たり前なのに、アラン本人にそう言われてしまうとシャオは困ってしまう。
「私は主の――、部下ですから。主の為ならば、なんでもします」
忠臣、とは言えなかった。
ここ最近の自分はアランのことが分からなくなり、上手くいかないことも多い。
そのことが、シャオのアランの忠臣という一言を喉で止めてしまった。
当のアランはシャオの部下という言葉も気にしていないようで、何かを考えるような素振りをしている。
「なにか褒美は、要らぬのか?」
「褒美……?」
「お前は俺の病を治した。その褒美を何もしていなかった。病が治り時間が経ったが、なにかないのか? もちろん、この屋敷の中でできる範囲の事だが」
「…………いいえ」
アランの慈悲の言葉に、シャオはなるべく嫌味にならぬよう首を横にふった。
驚くアランをこれ以上刺激させないよう、シャオは言葉を選びながら口を開く。
「……私は、何もいりません。それに、私は主の体に麻痺を残してしまいました。それを治すことができなかったのですから、褒美など受け取ってはいけないのです」
「……」
アランの足は、病の後遺症だ。
自分がアランの目の前の病を治すことに必死で、その病の後遺症を見抜けなかったのだ。アランを杖が手放せない体にしたのは紛れもないシャオ自身。
もしアランの足に麻痺が残らなかったら、アランは病の完治とともにすぐさま王宮に戻っただろう。それを拒めたのは自分だ。
そんな自分に、褒美など受け取れるはずがない。
アランはシャオのその言葉を聞き、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「だが、お前があの時来なければ、俺は死んでいた」
「……そうですが、もっとやりようがあったはずです」
「それで、俺が死んだら元の木阿弥だな」
「ーーッ! 主ッ!」
アランの口から冗談でも「死」という言葉を聞き、シャオは叫ぶように声を荒げた。
アランは平然とした顔で紅茶を飲んでいる。
「事実だ。大体、俺はお前が来たことをわからぬほど、病に伏していたのだ。食べることも水すら飲むことが出来ずーー、死ぬのを待つだけだった。それをお前は、治したのだろう?」
「……ですが」
「死に比べたらマシだ。それに、杖をつけば問題ない」
そうアランに言い切られ、シャオは口ごもる。確かに、アランではなく他人ならば足など死と比べたらマシだと強く言い切れる。
だがシャオはそう思えなかった。アランの足が不自由になったという、その事実に罪悪感を抱かずにはいられなかった。
「とにかく、だ」
これ以上この話をしたくないのか、アランが語気を強めて話題を変える。
「何か欲しい物はないのか?」
「……背中のマッサージの続きを」
「却下」
「仰っていた話と違うじゃないですか!」
「あれは飽きた。別のものはないのか?」
「……」
別のもの、と言われても何も浮かばない。
褒美といえば幼き頃、死にかけの孤児であった自分を拾ってもらった恩で充分。それ以上のものは望んでいなかったし、これからも望まないだろう。
だが、そう言ってもアランは納得しないのはわかっていた。
ーー褒美。私は、主に何を求めているのだ?
シャオの頭がグルグルと回る。
そして、ようやく頭に浮かんだ褒美をシャオは口に出した。
その不意打ちのようなアランの表情にシャオの心臓はドキリと跳ねた。
「わ、わからぬとは……」
「わからぬ、と言ったのだ」
「そんな……」
分からないと言われ酷く落ち込むシャオをアランは笑う。
「お前、俺が死ねと言ったら死ぬのか?」
「主のご命令でしたら……」
「俺がお前だったら、その類まれなる魔法の才能を活かして国を掌握するというのに」
「そうしたら、主が王になれないじゃないですか」
「ふっ――、ふふっ……」
そうシャオがそう言い放った途端、アランは吹き出すように笑い出す。
なんで笑われているのか分からず、シャオはあたふたとする。
「どうされましたか?」
「お前は、やはり分からぬな」
わからぬ、というのは追放され身分を剥奪されたアランに仕えていること、だろうか。シャオにとってアランに仕えることは当たり前なのに、アラン本人にそう言われてしまうとシャオは困ってしまう。
「私は主の――、部下ですから。主の為ならば、なんでもします」
忠臣、とは言えなかった。
ここ最近の自分はアランのことが分からなくなり、上手くいかないことも多い。
そのことが、シャオのアランの忠臣という一言を喉で止めてしまった。
当のアランはシャオの部下という言葉も気にしていないようで、何かを考えるような素振りをしている。
「なにか褒美は、要らぬのか?」
「褒美……?」
「お前は俺の病を治した。その褒美を何もしていなかった。病が治り時間が経ったが、なにかないのか? もちろん、この屋敷の中でできる範囲の事だが」
「…………いいえ」
アランの慈悲の言葉に、シャオはなるべく嫌味にならぬよう首を横にふった。
驚くアランをこれ以上刺激させないよう、シャオは言葉を選びながら口を開く。
「……私は、何もいりません。それに、私は主の体に麻痺を残してしまいました。それを治すことができなかったのですから、褒美など受け取ってはいけないのです」
「……」
アランの足は、病の後遺症だ。
自分がアランの目の前の病を治すことに必死で、その病の後遺症を見抜けなかったのだ。アランを杖が手放せない体にしたのは紛れもないシャオ自身。
もしアランの足に麻痺が残らなかったら、アランは病の完治とともにすぐさま王宮に戻っただろう。それを拒めたのは自分だ。
そんな自分に、褒美など受け取れるはずがない。
アランはシャオのその言葉を聞き、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「だが、お前があの時来なければ、俺は死んでいた」
「……そうですが、もっとやりようがあったはずです」
「それで、俺が死んだら元の木阿弥だな」
「ーーッ! 主ッ!」
アランの口から冗談でも「死」という言葉を聞き、シャオは叫ぶように声を荒げた。
アランは平然とした顔で紅茶を飲んでいる。
「事実だ。大体、俺はお前が来たことをわからぬほど、病に伏していたのだ。食べることも水すら飲むことが出来ずーー、死ぬのを待つだけだった。それをお前は、治したのだろう?」
「……ですが」
「死に比べたらマシだ。それに、杖をつけば問題ない」
そうアランに言い切られ、シャオは口ごもる。確かに、アランではなく他人ならば足など死と比べたらマシだと強く言い切れる。
だがシャオはそう思えなかった。アランの足が不自由になったという、その事実に罪悪感を抱かずにはいられなかった。
「とにかく、だ」
これ以上この話をしたくないのか、アランが語気を強めて話題を変える。
「何か欲しい物はないのか?」
「……背中のマッサージの続きを」
「却下」
「仰っていた話と違うじゃないですか!」
「あれは飽きた。別のものはないのか?」
「……」
別のもの、と言われても何も浮かばない。
褒美といえば幼き頃、死にかけの孤児であった自分を拾ってもらった恩で充分。それ以上のものは望んでいなかったし、これからも望まないだろう。
だが、そう言ってもアランは納得しないのはわかっていた。
ーー褒美。私は、主に何を求めているのだ?
シャオの頭がグルグルと回る。
そして、ようやく頭に浮かんだ褒美をシャオは口に出した。
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