上 下
40 / 109

マッサージ

しおりを挟む
シャオの言葉を遮り、アランは身体を起こす。まさかの行動にシャオは慌てながらアランを制す。

「あ、主! これは主のためにも必要なことで」
「もうよいと言っている」
「で、ですが」

アランはシャオの言葉を聞かず寝間着の紐をきつく結び、着直した。

「主、お待ちください! マッサージは全身やらねば意味がなく――」

シャオの説得虚しく、アランは毛布の中に入り体を沈めた。
起きてはいる。だが、シャオの言うことは聞く気がないという意思表示である。
だが、シャオにも従者として譲れないことがある。
背を向けるアランにシャオは必死で説得を試みる。

「主、後ろはすぐに終わらせますから! どうかもう少しだけ辛抱をーー」
『うるさい』
「んッーー!」

脳が鷲掴みされ、口が開かなくなる。
従属魔法だ。口が縫われたかのように閉じられ、開かなくなる。
手でこじ開けようともしてもビクともせず、シャオは涙目になりながらどうか、という視線をこめアランを見つめた。

「……」

涙目で慌てるシャオの様子に苛立ったアランも溜飲が下がったのだろう。
ベッドから起き上がり、シャオの従属魔法を解除する。

『口を開け』
「ッーー!」

アランがそう命じるとシャオの口も開く。
口が開放されたシャオは、ほっとはしたものの、アランはマッサージをされる気はないようで、机のサイドテーブルに置かれた紙とペンと手に取る。

「部屋に戻れ」
「ですが……!」
「寝ていろ。お前病み上がりだろう」
「私の体は大丈夫ですから!」

シャオの決死の訴えに、アランは眉を顰める。
また口を塞がれないよう、シャオは必死に目でアランに訴えかけた。シャオとアランの間に見えないやりとりを視線だけで交わしたあと、アランは諦めた様子でため息をついた。

「薬をもってこい」
「は?」
「茶も煎れてこい」
「……! は、はい!」

なんの事か一瞬分からなかったが、ようやく合点がいった。アランがこの2日間薬を飲んでいなかったことはシャオも把握している。それを飲むと言っているのだ。
本音を言えばマッサージをしたかったのが本音だが、薬を飲んでくれるとなると話は別だ。
飛び出るように部屋から出て、厨房に向かう。
湯瓶の中身がまだ残っていることを確認し、湯瓶を掴み、急ごしらえで茶器に湯を注いだ。
別のカップには薬も用意し、シャオは急ぎ足でアランの部屋へと戻った。

「主、失礼します」

扉を開けると先ほどと変わらない態勢でベッドに横たわるアランの姿が映る。
サイドテーブルに茶を置き、まずは乾燥ベリーを入れた小皿をアランに差し出した。

「……なんだ?」
「薬を飲まれるのですから、食べ物をと思いまして」   
「……あぁ」

納得したかのような声を出したアランはその小皿を受け取り、乾燥ベリーを2、3粒摘つまんだ。
 その乾燥ベリーをアランは何故か自分の口ではなくシャオの口に持ってくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...