追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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目覚め

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「ルカ、主の命令だ。私は寝る」
「でも、お腹すきませんか? 一応スープを用意したのですが」
「……少し、貰おう」

未だに自分が丸1日寝ていたというのが信じられないが、さすがに何か腹に物を入れた方が良さそうだ。早く、アランを安心させなければ。
まったく、あんな夢を見て目覚めたら一日が過ぎていたなど、信じられない。
ルカが用意したスープを啜りながら、シャオは夢の中のアランを思い出し顔が赤くなるのを感じた。
 アランが、あの美しい天使のような神のような存在と自分との破廉恥な妄想をするなどありえない。
自分を叱咤し、その妄想を打ち消すかのようにスープを勢いよく空にする。
その姿をルカはほほえましい視線を込めながらシャオを見つめていた。

「おかわりいりますか?」
「いや、いい」
「じゃあ、ゆっくりと寝ててください」

腹を満たしたシャオは空になった皿をルカに手渡し、改めてシャオはベッドに横になる。

「……」

目を閉じ、意識を手放そうとしたが、腹に物をいれ、さんざん寝てしまったせいだろう。まったく眠くない。
早々に寝るのを諦め、シャオは背を向けた先にいるルカに声をかける。
 
「……おい」
「はい?」

  ベッドの中で振り返るとルカはシャオの食べた皿をまとめ、シャオの部屋から出ようとしていた。
 
「村にはいつ頃行く予定だ?」
「シャオ様がこのまま元気でいてくれるなら、明後日には……、もちろん、空が晴れていたらですが」
「この地域の天候は変わりやすい。明日いけ。結界の魔法の解析はすんだのか?」
「……えっと」

ルカは困ったよう顔で、頬をかいた。
シャオの熱のせいで昨日今日と一日ルカはシャオの分の家事もシャオの看病もアランの世話もすべてやっていたのだろう。シャオの作った複雑な結界魔法の解析が進んでいるとは思えなかった。このままでは村にある結界の効力が無くなる時間の方が早いかもしれない。

「少し教えてやる」
「いいんですか? 寝てなくて」
「寝すぎて眠れない」

アランから休めと言われているがこれくらいは問題ないだろう。
シャオはベッドから体を起こそうと手に力をこめる。だが、体が持ちあがらない。

「……」
寝返り程度は打てるが、体を起き上がらせる行為ができないようだ。

 ーーそういえば、主は「ルカの言うことを聞け」と命令されていたな。

 アランは従属魔法で「ルカの言うことを聞け」とシャオに命令していた。
 つまり、シャオはアランの従属魔法でルカに逆らえない体に一時的になっているのだ。
 先ほどのスープについてはルカはシャオに質問するだけで、シャオに何も強要はしていない。
 だからシャオは自由に動けていたのだ。起き上がれたのもそれが原因だろう。

「ルカ、私に起き上がってもよいと言え」
「えっ?」
「起き上がれと言えと言っているんだ。主の従属魔法のせいで貴様に逆らえなくなっているんだ」
「……わ、わかりました」
 
 
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