追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

目覚め

雪に反射した朝日が瞼を刺した。
その眩しさに、シャオは勢いよく目を覚ます。

「ッ！！！」

被っていた毛布を素早く剥ぎ取り、上半身を起こす。
雪の日の朝特有の空気が、肺に入り込み、その刺すような寒さにシャオは思わず咳き込んだ。

「くッ……、げほ」

夢の中で感じた暖かさなど幻だと言わんばかりに冷たい空気を取り込みながら、シャオは大きな息を吐いた。
暖められていない部屋の中、白い吐息が口から吐き出される。

ーーあれは、夢だったのか。

シャオは己の体を抱きしめるように腕を回す。
夢で感じたあの暖かさがまだ残っていないか、無意識に腕で体を擦るが、そんなもの残っているはずもない。
しだいに夢の中の出来事が再生され、シャオは寒さも相まって体が震えだす。

ーーわ、私は、なんて夢を……！！

夢の中のシャオはあろうことか、アランを呼び捨てで呼び、アランに愛してほしいと懇願していた。
しかも、アランに接吻までされるとは……、なんて破廉恥な夢を見ているのだ。
幼少期の頃の孤独な夢なら今まで何度か見た事があるが、あんな淫らな夢を見たのは初めて。
シャオは気恥ずかしくなり、自らの頬に手を寄せる。
夢の中でのアランの唇の感触がまだ残っている気がし、それを忘れるかのように必死で首を横に振った。

ーーな、何を考えている！？ 私は馬鹿かッ！！ あ、あろうことか、ああああ主にあんなこと！！

誰だったか、夢にはその夢を見た人間の深層心理が反映していると聞いたことがある。
シャオの深層心理は、アランとあんなに破廉恥なことをしたいと思っていたのだろうか。
自分が？ アランに？
あの神よりも美しく、神聖で、清らかで、汚してはいけない主に？

「う、わ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ！！！」

シャオは自室の窓を開け、飛び込むように外に出た。
そのまま高く高く飛び上がり屋敷が豆粒ほどの大きさになるまで飛び上がった後シャオは特大の魔法弾を生成し、何も無い雪原に向かって発射した。
屋敷から半径5キロ以内にある雪原が、魔法弾によって半円に抉れる。
辺りには雪と爆風で舞い上がった雪が舞い散り、朝日に照らされた白銀の景色の中で、シャオが生み出した赤い炎が揺らめいていた。
その炎の勢いはまだ衰えず、それどころか次第に膨らんで先程よりも大きな魔法弾を生成した。
やがて、雪原も土しか見えない穴ぼこだらけのクレーターになり、ようやくシャオは攻撃を止めた。
頭を冷やすかのようにゆっくりと屋敷に戻る。
自分が出た自室の窓から屋敷に戻った途端、血相を変えたルカが駆け寄ってきた。