30 / 109
夢の中
しおりを挟むここはどこだ。
暗い、寒い。まるで暗闇の底だ。
何も見えない真っ暗な闇の中、シャオはたった一人佇んでいた。
ーーなんだ。ここは
辺りを見渡すと、ひとつだけ、明るい場所がある。
そこに足をつけると、べちゃり、という水に濡れた不快感のある音と濡れた感触がしシャオは思わず眉根を歪ませる。
「……」
不快感を感じたところで暗闇が晴れる。ここは、森だ。辺りには雪が降り積もっていた。
この雪は今シャオがいる屋敷の雪ではない。重く、水を大量に含んだ雪。溶けるとべちゃべちゃとうるさく、靴底を通り越す程になる。
この雪は、知っている。シャオの、故郷の雪だ。
ーーなぜ、私はここにいる。
なにか手がかりはないかと雪の中をシャオは歩いた。ゆっくりと覚束ない足取りで歩きながら、記憶を辿るように頭を働かせる。
動物もおらず、食べられる木の実やキノコすらもない森の中。故郷の村の大人たちが自分たちの食い扶持をどうにか保とうと採り尽くしてしまったのだ。
親のいない子供の自分には、先に採るなどできるはずもなく、極限状態の中シャオは大人が誰も採っていない毒キノコや毒草に手を伸ばした。
そうだ、この先には自分が根城にしていた洞窟がある。自然にできた洞窟で、子供一人が暮らすのがやっとの小さな洞窟。
そこに向かって足は進める。
そこに着くと、幼い頃の傷だらけの自分がいた。
小さな頃の自分は全身に出来た打撲傷を庇いながら、洞窟の中でうずくまっている。
洞窟を冷たい風が通り抜け、傷だらけの体を冷やす。雪も降っており、寒くて体が凍ってしまいそうな、そんな寒さだ。普通の感覚ならば子供がこんな場所にいればいずれ寒さでいきたえてしまうだろう。
ーー本当に、よく3度もこの冬を乗り越えたものだな。
シャオは、小さな頃の自分をみて、苦笑する。
小さな自分はそんなことはお構いなく、村から盗んできた肉を貪り食っていた。その様子はまさに人間というよりも、人間の形をした異物のようであった。
この時の自分は、何を思って生きてきたのだろう。自分自身のことなのに、この時のことをよく覚えていない。
「ッ」
肉を貪り食っていた自分が顔をあげた。薄汚れた感情のない瞳と目が合い、思わずシャオは息を飲む。
その小さな自分は立ち上がりゆっくりとこちらに向かってくる。細い木の枝のような足が、小さな音を立てながら、シャオに近づいてきたのをシャオは避けようと後退りをしようとする。
ーー嫌だ。こっちに来るな。
体が動かない。あの醜い過去の自分に触れたくない。見たくない。だが、いくら動かそうとしても体は動かない。声も出ない。
ーーやめろ、来るな。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

遊び人王子と捨てられ王子が通じ合うまで
地図
BL
ある島国の王宮で孤立していた王族の青年が、遊び人で有名な大国の王子の婚約者になる話です。言葉が通じない二人が徐々に心を通わせていきます。
カガニア国の十番目の王子アレムは、亡くなった母が庶民だったことにより王宮内で孤立している。更に異母兄からは日常的に暴行を受けていた。そんな折、ネイバリー国の第三王子ウィルエルと婚約するよう大臣から言いつけられる。ウィルエルは来るもの拒まずの遊び人で、手をつけられなくなる前に男と結婚させられようとしているらしい。
不安だらけでネイバリーへ来たアレムだったが、なんと通訳はさっさと帰国してしまった。ウィルエルはぐいぐい迫ってくるが、言葉がさっぱり分からない。とにかく迷惑にならないよう生活したい、でも結婚に持ち込まなければと奮闘するアレムと、アレムが見せる様々な一面に夢中になっていくウィルエル。結婚に反対する勢力や異母兄の悪意に晒されながら、二人が言葉と心の壁を乗り越えて結ばれるまでの話です。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる