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夢の中
しおりを挟むここはどこだ。
暗い、寒い。まるで暗闇の底だ。
何も見えない真っ暗な闇の中、シャオはたった一人佇んでいた。
ーーなんだ。ここは
辺りを見渡すと、ひとつだけ、明るい場所がある。
そこに足をつけると、べちゃり、という水に濡れた不快感のある音と濡れた感触がしシャオは思わず眉根を歪ませる。
「……」
不快感を感じたところで暗闇が晴れる。ここは、森だ。辺りには雪が降り積もっていた。
この雪は今シャオがいる屋敷の雪ではない。重く、水を大量に含んだ雪。溶けるとべちゃべちゃとうるさく、靴底を通り越す程になる。
この雪は、知っている。シャオの、故郷の雪だ。
ーーなぜ、私はここにいる。
なにか手がかりはないかと雪の中をシャオは歩いた。ゆっくりと覚束ない足取りで歩きながら、記憶を辿るように頭を働かせる。
動物もおらず、食べられる木の実やキノコすらもない森の中。故郷の村の大人たちが自分たちの食い扶持をどうにか保とうと採り尽くしてしまったのだ。
親のいない子供の自分には、先に採るなどできるはずもなく、極限状態の中シャオは大人が誰も採っていない毒キノコや毒草に手を伸ばした。
そうだ、この先には自分が根城にしていた洞窟がある。自然にできた洞窟で、子供一人が暮らすのがやっとの小さな洞窟。
そこに向かって足は進める。
そこに着くと、幼い頃の傷だらけの自分がいた。
小さな頃の自分は全身に出来た打撲傷を庇いながら、洞窟の中でうずくまっている。
洞窟を冷たい風が通り抜け、傷だらけの体を冷やす。雪も降っており、寒くて体が凍ってしまいそうな、そんな寒さだ。普通の感覚ならば子供がこんな場所にいればいずれ寒さでいきたえてしまうだろう。
ーー本当に、よく3度もこの冬を乗り越えたものだな。
シャオは、小さな頃の自分をみて、苦笑する。
小さな自分はそんなことはお構いなく、村から盗んできた肉を貪り食っていた。その様子はまさに人間というよりも、人間の形をした異物のようであった。
この時の自分は、何を思って生きてきたのだろう。自分自身のことなのに、この時のことをよく覚えていない。
「ッ」
肉を貪り食っていた自分が顔をあげた。薄汚れた感情のない瞳と目が合い、思わずシャオは息を飲む。
その小さな自分は立ち上がりゆっくりとこちらに向かってくる。細い木の枝のような足が、小さな音を立てながら、シャオに近づいてきたのをシャオは避けようと後退りをしようとする。
ーー嫌だ。こっちに来るな。
体が動かない。あの醜い過去の自分に触れたくない。見たくない。だが、いくら動かそうとしても体は動かない。声も出ない。
ーーやめろ、来るな。
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