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帰路
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「アラン様が?」
「ああ。私は主のおかげで今ここにいる」
シャオはそう言いながら小さく微笑んだ。
そこにはルカに見せていたような歪んだ表情では無く、心からの幸せを噛み締めているような、そんな心の底からの感情がシャオの顔からは漏れ出している。
「私はここから遠く離れた寒村で生まれで、幼い時に親を病で亡くしたんだ」
「……」
ルカの瞳が少しだけ揺れた。
だが、直ぐにそれは収まり、シャオの話の続きを黙って待った。
「なにせ人1人の食料の余裕が無いほどの寒村だからな。親もいなくなった子供に村の人間は冷たかった。誰もが私を汚らわしいと言い、鬱憤を私にぶつけた」
その時のことは、たまに夢に見る。
笑いながら自分を蹴り飛ばす村長、石を投げる友達。
寒空の中、冷水をかける大人。
蛮族に襲われ、食料は無いかつ、遠征のおかげで働き手を失った村は貧しく、その日食べる物にも困っていた。
だからこそ、誰も後ろ盾のない子供のシャオを村の人間は虐げたのだ。
「村に居られなくなった私は、村の近くの森に住むことにした。近くの洞窟で雨風をしのぎ、はえている草を食べる生活を3年間続けた」
「く、草を!? それに3年って……!」
「5才の子供が森の中で口に入れられそうなものはそれしか思いつかなかった」
「……」
さらりと語られる言葉にルカは絶句している。
今まで貴族階級で、国内きっての魔法の天才と言われた魔法士の口から出てくるとは思わない過去である。
「それから3年、私は森で暮らした。時折村にでて食べられそうなものをくすねたりはしたが、主に木の実や山菜が中心だったな」
「……お腹、減らなかったんですか?」
「もう覚えていない」
ルカの問いにシャオは興味なさげに答えた。
正直、あの3年間の記憶は曖昧だ。寒さをしのぎながら摘んだ草を食べ、時折村の食べ物をくすねる。バレたら死を覚悟するほどの折檻が待っておりそこから命からがら逃げ出すことを繰り返してきた。
その繰り返しで3年間も森をさまよっていたことすらアランに拾われたあとに気がついたほどだ。
自分でもよく死ななかったと思う。
「主が村に来たのは偶然だった。遠征から王宮に戻る道で、村に立ち寄ったのだ」
無論シャオは村に王族がくることなぞ知る由もなかった。
むしろ、いつもより村がざわついているのを察し、近づかないようにいつもいる洞窟に身を縮こまらせていた。
「森を散策していた主が、洞窟にいた私を見つけた」
初めてアランを見た時のことは今でも鮮明に思い出すことが出来る。
突然現れたこの世の人間とは思えないアランの美しさ。最初は火の神の遣いなのかとも思った。
「最初は主も、私の薄汚れた姿をみて顔を顰めていた。だが、私に魔石を握らせてくれたんだ」
「……どれくらい、光ったんですか?」
「昼間だったが、あまりの明るさに全員が目を瞑るほどだった」
「……シャオ様なら、ありえない話では無いですね」
魔石とは自然に作られる魔素が含まれた石のことだ。
魔法士の素質があるものがそれを握れば、石の魔素が反応し、石が発光する。
魔法士になれるかなれないかはこの石が光るかどうかで決まるのだが、光ると言ってもせいぜい淡い光が灯る程度のもの。
なのに、シャオは幼い記憶ながらも昼間に魔石を握り、眩いばかりの閃光を放ったのだ。
それだけでシャオの実力が如何程のものか、同じ魔法士のルカならわかるはず。
「そこから、私は主の忠臣になった。主は、幼くか弱い私を救ってくださったのだ」
3年間、森の中をさまよっていた浮浪児のような自分を拾い、育ててくれたのだ。
もしアランがシャオを見つけ出してくれなければ、いずれシャオはあの森の中誰の目にも見えずに野垂れ死んでしまっただろう。
「私は、主に報いらねばならない」
シャオの昔話をルカは黙って聞いている。
だが、ルカの表情は暗いのが気になったが、シャオは構わず言葉を続けた。
「だから、私は主の為に尽くすと決めた。たとえ、主のために手を汚そうが私は構わない」
アランと出会ったころから、ずっとアランのために生きていたのだ。今更その信念を変える気はない。
「私は、主のためなら死んでも構わない」
シャオの一見狂気染みた言葉。
だが、ルカはそれが本心であることを言葉の強さから理解しているだろう。
噛み締めるように頷いたあと、ルカはポツリと呟いた。
「僕も、です。僕も、故郷のためなら何でも出来ます」
ルカの決意ある言葉を呆れ混じりに笑う。
こいつはシャオの言葉を聞いてもアランの尊さを分からなかったのだろうか。
「あの主の美しさをもってしても貴様は故郷が大切と言うのか」
「僕は、故郷のために魔法士になりましたから。いずれ故郷がある領土で魔法士として働くのが夢です」
故郷。シャオにとっての故郷とは自分を虐げる者たちがいる場所。そんな場所に帰りたいとは全く思わない。
だから、ルカの気持ちは理解できない。
シャオの気持ちを知ってか知らずか、ルカはつぶやくようにシャオに聞く。
「シャオ様、どうしてそんな話を僕に?」
「……さあな」
そろそろ、屋敷に着く。
アランのことを考えながら、シャオは魔素を操った。
「ああ。私は主のおかげで今ここにいる」
シャオはそう言いながら小さく微笑んだ。
そこにはルカに見せていたような歪んだ表情では無く、心からの幸せを噛み締めているような、そんな心の底からの感情がシャオの顔からは漏れ出している。
「私はここから遠く離れた寒村で生まれで、幼い時に親を病で亡くしたんだ」
「……」
ルカの瞳が少しだけ揺れた。
だが、直ぐにそれは収まり、シャオの話の続きを黙って待った。
「なにせ人1人の食料の余裕が無いほどの寒村だからな。親もいなくなった子供に村の人間は冷たかった。誰もが私を汚らわしいと言い、鬱憤を私にぶつけた」
その時のことは、たまに夢に見る。
笑いながら自分を蹴り飛ばす村長、石を投げる友達。
寒空の中、冷水をかける大人。
蛮族に襲われ、食料は無いかつ、遠征のおかげで働き手を失った村は貧しく、その日食べる物にも困っていた。
だからこそ、誰も後ろ盾のない子供のシャオを村の人間は虐げたのだ。
「村に居られなくなった私は、村の近くの森に住むことにした。近くの洞窟で雨風をしのぎ、はえている草を食べる生活を3年間続けた」
「く、草を!? それに3年って……!」
「5才の子供が森の中で口に入れられそうなものはそれしか思いつかなかった」
「……」
さらりと語られる言葉にルカは絶句している。
今まで貴族階級で、国内きっての魔法の天才と言われた魔法士の口から出てくるとは思わない過去である。
「それから3年、私は森で暮らした。時折村にでて食べられそうなものをくすねたりはしたが、主に木の実や山菜が中心だったな」
「……お腹、減らなかったんですか?」
「もう覚えていない」
ルカの問いにシャオは興味なさげに答えた。
正直、あの3年間の記憶は曖昧だ。寒さをしのぎながら摘んだ草を食べ、時折村の食べ物をくすねる。バレたら死を覚悟するほどの折檻が待っておりそこから命からがら逃げ出すことを繰り返してきた。
その繰り返しで3年間も森をさまよっていたことすらアランに拾われたあとに気がついたほどだ。
自分でもよく死ななかったと思う。
「主が村に来たのは偶然だった。遠征から王宮に戻る道で、村に立ち寄ったのだ」
無論シャオは村に王族がくることなぞ知る由もなかった。
むしろ、いつもより村がざわついているのを察し、近づかないようにいつもいる洞窟に身を縮こまらせていた。
「森を散策していた主が、洞窟にいた私を見つけた」
初めてアランを見た時のことは今でも鮮明に思い出すことが出来る。
突然現れたこの世の人間とは思えないアランの美しさ。最初は火の神の遣いなのかとも思った。
「最初は主も、私の薄汚れた姿をみて顔を顰めていた。だが、私に魔石を握らせてくれたんだ」
「……どれくらい、光ったんですか?」
「昼間だったが、あまりの明るさに全員が目を瞑るほどだった」
「……シャオ様なら、ありえない話では無いですね」
魔石とは自然に作られる魔素が含まれた石のことだ。
魔法士の素質があるものがそれを握れば、石の魔素が反応し、石が発光する。
魔法士になれるかなれないかはこの石が光るかどうかで決まるのだが、光ると言ってもせいぜい淡い光が灯る程度のもの。
なのに、シャオは幼い記憶ながらも昼間に魔石を握り、眩いばかりの閃光を放ったのだ。
それだけでシャオの実力が如何程のものか、同じ魔法士のルカならわかるはず。
「そこから、私は主の忠臣になった。主は、幼くか弱い私を救ってくださったのだ」
3年間、森の中をさまよっていた浮浪児のような自分を拾い、育ててくれたのだ。
もしアランがシャオを見つけ出してくれなければ、いずれシャオはあの森の中誰の目にも見えずに野垂れ死んでしまっただろう。
「私は、主に報いらねばならない」
シャオの昔話をルカは黙って聞いている。
だが、ルカの表情は暗いのが気になったが、シャオは構わず言葉を続けた。
「だから、私は主の為に尽くすと決めた。たとえ、主のために手を汚そうが私は構わない」
アランと出会ったころから、ずっとアランのために生きていたのだ。今更その信念を変える気はない。
「私は、主のためなら死んでも構わない」
シャオの一見狂気染みた言葉。
だが、ルカはそれが本心であることを言葉の強さから理解しているだろう。
噛み締めるように頷いたあと、ルカはポツリと呟いた。
「僕も、です。僕も、故郷のためなら何でも出来ます」
ルカの決意ある言葉を呆れ混じりに笑う。
こいつはシャオの言葉を聞いてもアランの尊さを分からなかったのだろうか。
「あの主の美しさをもってしても貴様は故郷が大切と言うのか」
「僕は、故郷のために魔法士になりましたから。いずれ故郷がある領土で魔法士として働くのが夢です」
故郷。シャオにとっての故郷とは自分を虐げる者たちがいる場所。そんな場所に帰りたいとは全く思わない。
だから、ルカの気持ちは理解できない。
シャオの気持ちを知ってか知らずか、ルカはつぶやくようにシャオに聞く。
「シャオ様、どうしてそんな話を僕に?」
「……さあな」
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