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薬草探し
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木々を縫うように進む。5、6分ほど進むと、シャオは立ち止まった。
浮遊魔法を解除し、華麗に雪の上に降り立ったシャオと違い、ルカの体は無様に雪の中に埋まる。
「……」
一瞬死んだかと思い足先でルカをつつくと、弱々しくうめいたのを聞いて、シャオは冷たく言い放つ。
「ついたぞ」
「……は、はい」
青白い顔になりながら起き上がるルカを見て、シャオは眉を寄せる。
なんて弱さだろう。ありえない弱さだ。
「軟弱者め」
「……すみま、せん」
ルカの声は消え入りそうだった。
よろめきながらもなんとか立ち上がるルカにシャオは呆れた視線を送る。
――よくこれで、初めの時、私の攻撃から逃れたものだな……。
ルカが初めて屋敷に来た時、殺そうとするシャオから逃れたので魔法士兵並みの実力はあるのかと思ったが、実際は全く違った。
想像よりもかなり弱い。恐らくだが、あの時は必死だったので動けていただけなのだろう。
そう結論づけたシャオに対し、ルカは辺りを見渡している。
シャオとルカの目の前に人が数人入れるような洞窟があり、その洞窟にシャオはさっさと中に入っていく。その後を慌ててルカが追った。
「こ、ここですか?」
「ああ」
予め持ってきた火種で火を灯し、明かりをつける。洞窟は自然にできたもののようで、奥はそこまで長くないが、奥に行くとそれなりの広さのある空間がある。
外の雪と違い、ここには雪は入り込んでいない。寒風もなく、寧ろ温かさすらも感じる。もし外が吹雪になり、出れなくなってもここにいれば凍えることはなさそうだ。
洞窟をルカは感心した様子で辺りを見ていたが、その洞窟内に所狭しと生えている王宮にはない植物を見てルカの瞳が煌めく。
「これ……、薬草ですよね……?」
「ああ」
この洞窟の周囲一帯に様々な種類の植物が生えている。
どれもルカが見たことのないものばかりであろう。
その光景を見て、ルカはぽつりとつぶやいた。
「これ、もしかして、村の村長さんが言っていた洞窟ですか?」
ルカが言った村長、というのはシャオ達が住む屋敷に一番近い村の村長のことである。
生まれた時からこの土地で暮らしており、この土地にまつわる話に一番精通している人物だ。
「……だろうな」
ルカの言葉に肯定しながら、シャオは火を地面に置き、更に強める。
洞窟の全体が見え、多くの植物が生えているのが更に分かり、ルカの顔が喜びに満ちているのがわかった。
まるで子供のようなその表情をシャオは無視するが、ルカははしゃぎながらシャオにきく。
「シャオ様も聞いたのですか?」
「眉唾物だったがな」
そう言いながらシャオは薬草を採取するための道具を広げた。
この雪だけの地域に、なんでも万病に効く薬草が生えている洞窟があり、その洞窟に生えている植物を食べれば病が消えるという御伽噺めいた話をシャオはこの土地に来たばかりの時に聞いた。
この地域が何も無いのに王都になっているのも、屋敷が建てられたのもそれが遠因とはされているが、肝心の場所は話をした村長にも分からず、シャオは自力で見つけたのだ。
シャオはスコップや薬草採取用の袋を用意し、今だ洞窟内を眺めているルカに投げ渡す。
「突っ立っていないで薬草を採取しろ」
「え、で、でも……、何を採取すればいいか」
「適当に生えている草をとっておけ」
「適当って……」
「気にせずともここは小動物の餌の隠し場所だ。毎年大量の種がここに埋め込まれる。草は来年には生える。だから、残す必要はない」
「……」
顔の晴れないルカを無視し、シャオは薬草採取を始めた。
この洞窟はルカに説明した通り、この雪原に暮らす小動物たちの餌の保管庫だ。
だが、雪が溶けだしたころから始まる餌の保管は複数の場所で保管されるのと大量に餌を保管するために小動物が冬眠に入るころにはこのように初めに保管した木の実から芽が生えてしまうのだ。
それは毎年の事らしく、シャオが始めてこの洞窟に来た時には足の踏み場もないほどに草が生い茂っていた。
どうやら陽の当たる当たらないで薬の効果が違うらしいことはわかっているが、詳しいことはわからない。
「この草は、大体どれくらいの薬ができるのでしょう?」
「主の病を治すのには困らないくらいだ」
「それって、いったい何人分が、それに、元は何の木の実――」
「ぺちゃくちゃと喋っていないで薬草を採取しろ」
「アラン様から色々教えてやれって言われてませんでしたっけ!?」
「……知らん」
そもそも自分は人を教えるなどというのは向いていないのだ。
魔法も薬草も、やろうと思えばなんとなく出来てしまうので教えられることが少ない。
むしろなぜシャオのように出来ないのだとも思う。
王宮にはルカのような特別な訓練を受けていない平民の魔法士を育成するための役職があり、その授業風景を何度か目にしたことあるが、シャオには到底出来る気がしない。
「……これ少しだけ貰いますよ。自分でいろいろ調べてみます」
「好きにしろ」
そう言って、ルカは薬草の採取を始める。
薬草の特徴を観察しながら採取しているようだが、シャオにとってはただの意味の無い草もある。
持ち帰り選定する時にそれらを仕分ければよいので問題はないが、あのルカの様子を見るにかなりの時間がかかるだろう。
浮遊魔法を解除し、華麗に雪の上に降り立ったシャオと違い、ルカの体は無様に雪の中に埋まる。
「……」
一瞬死んだかと思い足先でルカをつつくと、弱々しくうめいたのを聞いて、シャオは冷たく言い放つ。
「ついたぞ」
「……は、はい」
青白い顔になりながら起き上がるルカを見て、シャオは眉を寄せる。
なんて弱さだろう。ありえない弱さだ。
「軟弱者め」
「……すみま、せん」
ルカの声は消え入りそうだった。
よろめきながらもなんとか立ち上がるルカにシャオは呆れた視線を送る。
――よくこれで、初めの時、私の攻撃から逃れたものだな……。
ルカが初めて屋敷に来た時、殺そうとするシャオから逃れたので魔法士兵並みの実力はあるのかと思ったが、実際は全く違った。
想像よりもかなり弱い。恐らくだが、あの時は必死だったので動けていただけなのだろう。
そう結論づけたシャオに対し、ルカは辺りを見渡している。
シャオとルカの目の前に人が数人入れるような洞窟があり、その洞窟にシャオはさっさと中に入っていく。その後を慌ててルカが追った。
「こ、ここですか?」
「ああ」
予め持ってきた火種で火を灯し、明かりをつける。洞窟は自然にできたもののようで、奥はそこまで長くないが、奥に行くとそれなりの広さのある空間がある。
外の雪と違い、ここには雪は入り込んでいない。寒風もなく、寧ろ温かさすらも感じる。もし外が吹雪になり、出れなくなってもここにいれば凍えることはなさそうだ。
洞窟をルカは感心した様子で辺りを見ていたが、その洞窟内に所狭しと生えている王宮にはない植物を見てルカの瞳が煌めく。
「これ……、薬草ですよね……?」
「ああ」
この洞窟の周囲一帯に様々な種類の植物が生えている。
どれもルカが見たことのないものばかりであろう。
その光景を見て、ルカはぽつりとつぶやいた。
「これ、もしかして、村の村長さんが言っていた洞窟ですか?」
ルカが言った村長、というのはシャオ達が住む屋敷に一番近い村の村長のことである。
生まれた時からこの土地で暮らしており、この土地にまつわる話に一番精通している人物だ。
「……だろうな」
ルカの言葉に肯定しながら、シャオは火を地面に置き、更に強める。
洞窟の全体が見え、多くの植物が生えているのが更に分かり、ルカの顔が喜びに満ちているのがわかった。
まるで子供のようなその表情をシャオは無視するが、ルカははしゃぎながらシャオにきく。
「シャオ様も聞いたのですか?」
「眉唾物だったがな」
そう言いながらシャオは薬草を採取するための道具を広げた。
この雪だけの地域に、なんでも万病に効く薬草が生えている洞窟があり、その洞窟に生えている植物を食べれば病が消えるという御伽噺めいた話をシャオはこの土地に来たばかりの時に聞いた。
この地域が何も無いのに王都になっているのも、屋敷が建てられたのもそれが遠因とはされているが、肝心の場所は話をした村長にも分からず、シャオは自力で見つけたのだ。
シャオはスコップや薬草採取用の袋を用意し、今だ洞窟内を眺めているルカに投げ渡す。
「突っ立っていないで薬草を採取しろ」
「え、で、でも……、何を採取すればいいか」
「適当に生えている草をとっておけ」
「適当って……」
「気にせずともここは小動物の餌の隠し場所だ。毎年大量の種がここに埋め込まれる。草は来年には生える。だから、残す必要はない」
「……」
顔の晴れないルカを無視し、シャオは薬草採取を始めた。
この洞窟はルカに説明した通り、この雪原に暮らす小動物たちの餌の保管庫だ。
だが、雪が溶けだしたころから始まる餌の保管は複数の場所で保管されるのと大量に餌を保管するために小動物が冬眠に入るころにはこのように初めに保管した木の実から芽が生えてしまうのだ。
それは毎年の事らしく、シャオが始めてこの洞窟に来た時には足の踏み場もないほどに草が生い茂っていた。
どうやら陽の当たる当たらないで薬の効果が違うらしいことはわかっているが、詳しいことはわからない。
「この草は、大体どれくらいの薬ができるのでしょう?」
「主の病を治すのには困らないくらいだ」
「それって、いったい何人分が、それに、元は何の木の実――」
「ぺちゃくちゃと喋っていないで薬草を採取しろ」
「アラン様から色々教えてやれって言われてませんでしたっけ!?」
「……知らん」
そもそも自分は人を教えるなどというのは向いていないのだ。
魔法も薬草も、やろうと思えばなんとなく出来てしまうので教えられることが少ない。
むしろなぜシャオのように出来ないのだとも思う。
王宮にはルカのような特別な訓練を受けていない平民の魔法士を育成するための役職があり、その授業風景を何度か目にしたことあるが、シャオには到底出来る気がしない。
「……これ少しだけ貰いますよ。自分でいろいろ調べてみます」
「好きにしろ」
そう言って、ルカは薬草の採取を始める。
薬草の特徴を観察しながら採取しているようだが、シャオにとってはただの意味の無い草もある。
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