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食事

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 執務室に入ると机に座り、難しい顔をしているアランがいた。
 食事を持ってきたシャオに見向きもせず、無表情ながら夢中でペンを走らせて居る姿。
 シャオが食事を持ってきたことにも気づいていないのだ。
 おそらく、ルカに腹が減ったと伝え食事を作らせている間に考え事に熱中し空腹などどうでも良くなってしまった、というところだろう。
 この集中状態のアランに食事をさせるのは苦労する。が、1度腹を空かしているならば体は食事を求めているはず。
 だから、いつもよりシャオは声を張り上げ机の横に食事を置いた。

「夕食になります」
「……」

 シャオの姿に気づいたアランは視線だけを食事に向ける。
 少しだけ迷惑そうな顔をしたが、食事の配膳がシャオだとわかると小さくため息をつき、書いていた紙を脇に置いた。
 いくら忠臣のシャオでも食事に関しては譲らないということはアランもよく分かっているからだ。
 シャオは薬草茶をカップにいれつつ、アランが食事を始めるのを待っている。

「どうぞ」
「……」

 アランは不満気な顔のままスプーンを手に取りスープを口に入れた。
 そのアランの無駄のない完璧な食事の作法を見るだけでシャオの心疲がとれる。
 さすが、元王族ということもあり、華麗な食事風景だ。
 シャオだけしかいなくとも王族の血の一滴一滴がアランの高貴さを演出しているのだ。
 アランの食事に合わせて動く骨ばった男性的な手。その手を見るだけでもシャオは幸福だ。病になって痩せてもそれは変わらなく美しい。
 それが昨日、自分の口内を掻き回ったことを思い出し、思わず顔が赤くなるのを感じる。
 
ーー何を考えているんだ私は……!

 慌てて首を振り、邪念を払うように軽く頭を振る。
 そんな様子を知ってか知らずか、アランは無表情でスープを口に運び続けていた。
 食事が全て空になり、薬も全て飲み終えたアランはようやく一息ついたような表情を見せた。だが、食べ終わった表情を見るに執務室でやりたいことがあるのだろうというのが察せられた。
 シャオは食器を下げ、一礼をし退出しようとするシャオをアランが呼び止めた。

「シャオ」
「はい」
「明日は何をする?」
「……薬草をとりに行く予定です。2時間程屋敷を出ますが、なにかありましたらルカさんに言うのではなく鈴を鳴らしてください」

 ルカにもう下手な真似をさせないよう、シャオの外出の時はルカを部屋に閉じこめることに決めた。
 アランの視界にルカを入れたくない。最悪、アランに眠りを誘発する紅茶を使うことも頭の隅で検討する。
 
「……薬草か」

 アランの顔が少しだけ、伏せられる。
 何かを考えるような仕草を見せるアランにシャオは首を傾げる。
 アランの治療をするための薬草を取りにいくのはいつもの事だ。
 しかも、村の老人たちの話ではそろそろ大雪が降る頃らしい。下手すれば数週間は雪が降り続けるため、予定よりも早めにとったほうがいいだろう。
 薬草が無くなれば困るのは自分だということはアランも分かっているはず。それなのにどうしたのか。

「どうかされましたか?」
「ルカも連れていけ」
「……は?」
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