追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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目覚めの悪い朝

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「お待たせいたしました」
 
 扉を開けるとアランは既に紅茶を飲み終え、自室に備え付けられた椅子に座り、カーテンを開け窓の外の景色を眺めていた。
 つられて窓の外を見ると、昨日の吹雪が嘘のように空は晴れ渡り、雪原が昇りかけた太陽の光を浴びて輝いている。
 昨日の吹雪の具合を見るに数日は晴れることはないと思っていたのに、珍しいことだ。きっとアランも同じ気持ちで見ているのだろう。
 景色を眺めているアランを邪魔しないよう、シャオはなるべく音を立てぬように机に朝食を置いた。
 アランは静かに置かれた朝食を見下ろす。パンと目玉焼きとベーコン。王宮に居た時から食べている馴染みの朝食である。
 だが、アランは出てきた朝食を見て不思議そうに呟いた。

「スープはどうした?」
「……すべて、飲んでしまったそうです」
 
 もう少しまともな嘘をつくべきだと自分自身で思いながらもシャオは平然を装いアランの既に空になったカップに新しい紅茶をいれた。
 紅茶をいれつつアランの方を見ると、少しだけ残念そうな顔をしたアランと目が合いシャオの内心は穏やかではない気分になる。
 やはり、アランはあのスープを飲みたかったのだろう。
 だが、得体の知れないものが入っているかもしれないスープを主に飲ませる訳には行かないと言い聞かせ無表情でパンを食べるアランを見つめ続けた。
 皿に置かれた食事が空になった時だった。

「シャオ、頼みたいことがある」
「はい、なんでしょう?」
「ネズミをとってこい」
「……は?」

 唐突な命令に思わず声が裏返った。
 思考が停止しかけたが、アランは至って真面目な表情でシャオを見ている。

「ネ、ネズミですか?」

 なんでもない表情で頷くアランを見て、シャオは今度こそ頭が真っ白になる。
 何故、ネズミが必要なのかわからず困惑するが主の命令ならば従うしかない。
 シャオは頭を下げ、主の命令を受け入れる。

「かしこまりました。ネズミを捕まれておきます。1匹でよろしいですか?」
「100匹」
「100ーーッ!」

 あまりの桁数に言葉を失う。
 ネズミなど普段ならば屋根裏部屋や人気のない部屋におり、王宮でも人の出入りがない倉庫などにはよく見かける存在だ。
 この屋敷にも寒さを凌ぐためかネズミは多く存在したが、つい先日、シャオは屋敷に蔓延るネズミを全て駆逐すべくネズミ用の強力な毒餌を屋敷内の至る所に撒いてしまっていた。
 そのため、屋敷内にネズミがほぼ居なくなってしまい、ここ半月はネズミなど全く見かけない存在となっていたのだ。
 もちろん探せば毒餌から逃れたネズミが数匹だが見つかるだろう。だが、どう考えても100匹などいるわけが無い。

 ーー外に出て野生のネズミを探すか? いや、それよりも1番近い村に行ったほうが……、だが、行くのにどんなに急いでも3時間はかかる。

 その間、ルカとアランの間に何かあったらどうするのだ。
  
「ルカも居る事だ。2人で協力しあえ」
「……いえ、私にお任せ下さい」
 
 これは主アランから直々に承った命令だ。ルカなどに渡すつもりがない。
 この命令はシャオ1人の力で行わなければならないのである。

 ――完璧にこなし、昨日の挽回をするッ!

 昨日の忠臣あるまじき行動の挽回にはそれしかない。
 アランにシャオのことを認めさせるのだ。
 シャオの決意に満ちた表情とは裏腹に、アランの瞳はどこか遠くを見ていたことにシャオは気づくことはなかった。
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