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老人の知る真実
しおりを挟むユーリの後ろ姿を見送ったあと、コルドは扉を叩いた。
すぐに現れた老人はコルドを見て小さく呟いた。
「……きたか」
老人は何も言わずにコルドを小屋に招き入れ、椅子に座らせた。
老人の手には仕事をしている時にできたのか引っ掻いたような新しい擦り傷ができている。それをコルドはぼんやりと眺めた。
「座れ」
老人はテーブルと椅子を指さした。
以前座った時には何も置かれていない簡素なテーブルだったが、そこになにか置かれている。
それがあのずっとつけていた首飾だった時、コルドの目が大きく開かれた。
「――!」
コルドは思わずテーブルの上の首飾りを奪うように手に取った。
宝石の輝き、色を目に穴が開くほどにみる。
老人はそれを咎めることはせず、コルドの様子をじっと見つめていた。
「……違う」
これは父の首飾りではない。
宝石は同じだ、と思う。だが、細かい光の反射具合や細かい傷が似ても似つかないのだ。
コルドは首飾りをテーブルに置き直したのを見て老人が静かに問う。
「やはり、違うか。お前の父がつけていたものと」
「……」
「元は同じ石、同じ職人が作ったものだ。それでもお前がこれは違うというのだな」
老人がコルドをからかうとは思わない。
だが、何故ここに首飾りと同じものがある理由はわからない。
「……あなたなぜ、私をここに呼んだのですか?」
「ひとまず座れ。長い話になる。茶をいれてやる」
コルドは椅子に座った。しばらくすると老人が茶を出し、コルドと自身の前に置く。
茶を出した老人はしばらくの沈黙の後、静かに語り始めた。
「お前は、いくつになった?」
「……」
老人はコルドの目を真っ直ぐみた。
嘘を見抜こうとする鋭い目付きから父を思い出し、コルドは正直に言うことにした。
「……45になります」
「そうか」
老人は驚いた素振りもなく、茶を1口口に入れた。
コルドは便宜上、18と名乗っている。
ある時から成長が止まり、老けなくなっていたのた。
各地を旅していたコルドに対し誰も歳を疑うことをしていなかったのに、老人はコルドが歳を偽っていることを分かっていたのだ。
なぜ、知っていたのか。
「……貴方は」
「お前は、自分のことをどれだけ知っている?」
「……何も。ずっと父と各地を放浪していました。この力も、私がなぜ持っているのか分かりません」
コルドはそういって老人の手を触った。
擦り傷だらけの老人の手が見る影もない程綺麗になった様子を老人は他人事の様に眺めた。
その変わり、老人の傷がコルドの手に移り、痛々しい傷に変わる。
その様子にやや動揺した老人を落ち着かせるようにコルドは傷を撫ぜながら笑みを浮かべた。
「ご心配なく。水に流せばこの傷はなくなりますから」
「それは、生まれた頃から持っていたのか?」
「はい。父に禁じられていた力です」
このコルドだけが持っている力を、父は何もコルドに教えてはくれなかった。
老人はきれいになった手を触りながら言った。
「俺は、お前の知りたいことを知っている」
コルドの目が開いた。
長年自分の中にふさぎ込んできたものが今、開こうとしている。
「私の――?」
「お前の生まれを、俺は知っている」
「……本当、ですか?」
老人は深くうなずいた。
「……お前の父の名はなんという?」
「……グズ、と言います」
「それは、友の名だ。私の」
友、という名にコルドの目がさらに開く。
父は何もコルドに自分の事も教えてくれなかった。唯一、この城に勤めているのを昔、教えてくれたくらいだ。
「…………」
「グズ、は、元気か?」
「……3年前、亡くなりました」
「そうか」
老人の声と表情に傷ついた様子はなかった。
薄々わかっていたのだろう。
老人は茶を1口のみ、コルドに言った。
「俺とグズは同じ仕事場で働いていた。それがあの塔だ。俺が昼、グズは夜、あの塔であの人と一緒にいた。同じ仕事場で働く俺たちとまだ歩け、言葉を喋れていたあの人が友になったのは、必然だった」
「……」
「あの人がなぜあの塔にいたのかは分からない。俺より長く勤めていたグズならば知っているが、グズはその理由を教えることは無かった。3人でたわいのないことを喋る――、あの時が今思えば、幸せだった」
「……」
老人は懐かしむようにコルドを見た。
そこには長年胸にしまいこんできたものをやっと吐き出した喜びも感じられる。
「コルド、お前の顔はお前を産んだ両親によく似ている。瞳は父親似、髪は母親の瞳の色だな」
自分の瞳の色である黄色の瞳と濃い青の髪。
黒髪黒目の父と正反対であることから、母に似たのか、血が繋がっていないかのどちらかなのは分かっていた。
コルドは自分のであってきた中で黄色の瞳を持ち、群青の瞳の人物を思い出す。
出てきたのは、ファルの群青の瞳とマラジュの金の瞳だった。
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