華は塔上に咲く

ブリリアント・ちむすぶ

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首飾り

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 だが、今のコルドにはそんなことはどうでもよかった。

「お願い致します。どうか、その首飾りを私に返してください」
「返せ? 王である俺に言っているのか?」
「これは、私の命より大事な物です」
「ならぬな」
 「なぜ!」

 叫ぶコルドをマラジュは見下ろす。
 その視線は以前感じた違和感のある目ではなく、感情のある人間そのもののように感じた。
コルドはそれに気が付き、自分がマラジュに遊ばれている遊戯盤だと分かった。
 コルドの王に対する目が変わったのにマラジュは気がついたのだろう。マラジュは不快さを表すように声を低めた。

「また、そのような目をするのか。お前は」
「……もし、この目が不愉快だというのであれば、この目を抉りとってください。ですから、その首飾りを」
「それほどまで、これは大切な物なのか?」

コルドの真っ直ぐな目をマラジュはしばらく見つめた。
 コルドの表情を楽しんだ後、マラジュはファルの首から首飾りをとり、見せつけた。

「これはしばらく俺が預かる」

 一瞬、マラジュの言っている意味がわからずコルド時は止まる。
 意味を理解した時、コルドの怒りはマラジュに向かっていた。

「なぜ……!」
「借りるだけだ。心配するな」
「これは父の物です!」
「お前の父は、昔城に勤めていた。そう言っていたな?」

 藪から棒になにを言っているのだろう。
 確かにマラジュと初めて会った際、そのようなことを話したことがある。それでも昔の話だ。
 それに、元はと言えばコルドを生んだ時に亡くなった母親のものだとコルドは聴いていた。 
 その時、コルドの中にある疑念が生まれた。

「……まさか」
「お前の考えた通りだ。この首飾りはもともとこの城のものだった。それをお前の父親が盗んだ。そう考えたことはないのか?」
「父はそんなことをする人間ではありません!」

 コルドは思わず叫んだ。コルドだけならまだしも父の事を愚弄するのはさすがのコルドも我慢ならなかった。
 父は物を盗むような人間ではない。だが、思い返せば父から母のことについては共にいて手で数えられるほどしか聞いたことがない。
 コルドの脳裏に嫌な考えがよぎる。考えが顔に出たコルドを見てマラジュは言葉を続けた。

「安心しろ。これが城の物ではないとわかったらお前に返す」
「……これは、父のものです」

 力なく答えたコルドの必死の言葉をマラジュは返すことはしなかった。
 首飾りを返して貰えない、そう絶望し項垂れたコルドの体が軽くなるのを感じる。
 息苦しさが無くなり、マラジュによって抑えられていた力が解かれたのだとわかり、コルドはゆっくりと顔を上げた。
 視線の先にはマラジュとファルがいる。
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