母の死

ブリリアント・ちむすぶ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

母の死

しおりを挟む
母が死んだ。
突然の事だった。

いつの間にやら図体も貫禄も出た弟夫婦の言葉に甘え葬儀の後、私は家に戻った。

私は長女なのに、本当に情けない。

けど私がやる、と言える気力もなく、家に帰ったあとも子供のことも家のことも、夫に任せ切りになってしまった。
私は木偶の坊のようにベッドに沈んでいる。

「…………」

 思い返すのは元気だった母。
父を早くに亡くし、女手1つで私も弟を育ててくれた。
働いてばかりでカサカサだった手がもう懐かしい。

『あんた作文賞とったんだってね!寿司行こう!』
『やだ! ステーキがいい』
『もうあんたって子は』

 母は祝い事があると必ず私たちを寿司に誘ったけど生魚が嫌いな私は嫌がり、結局子供が喜びそうなステーキ屋に連れて行ってくれた。
あの頃の自分を殴りたい。
寿司だって食べれるメニューはあった。お金を出すのは私だからと、好き嫌いはいけないと無理やり連れて行ってくれてもよかったのに。
子供も大きくなってようやく母に親孝行が出来ると思った。弟と相談して旅行の計画をたてていたのに。

「…うっ…あっ…」

 枯れ尽くしたと思っていた涙がまだ溢れてくる。
 私は、母に何一つ恩返しが出来なかった。
こんな娘で、ごめんなさい。
言いたくても、もう母はこの世に居ないのだ。


ーーーーーーーーーーーーーー

「…お母さん」

 いつの間にやら寝ていたのだろう。
 目が腫れているのが鏡を見なくても分かった。
 私の名を呼んだのは旦那だった。
申し訳なさそうに旦那は私に言う。

「スープ買ってきたんだ。もし食べれそうだったら食べて」

旦那も心配している。
立ち直ければ。

「……うん」

私はベッドから起き上がった。
リビングに行くと、子供たちはご飯を食べていた
いつもの私の席にはスーパーで買うような野菜が多く入っているスープ。
湯気がたっており、暖かそうだった。
私は席につき、スープを私は少しづつ口に入れる。

子供たちはそれぞれ好きなものを買ったようだ。
私を案じてか静かに食べる子供たちを横目に見た。
長女は寿司セット、長男はうどん。旦那はステーキ丼。

「…あ」
 
母との会話で、思い出したことがあった。

『回転寿司ならあんた達が好きなステーキ寿司もあるし、うどんもあるからそこ行きましょ!』
『ばあばの好きなものが好きなんていい孫だよ』
『亡くなったおじいちゃんはうどんが好きでねぇ、デートの時はいつもうどんだったわ』
『好きな物が一緒の夫婦は上手くいくわよ』

………そうだ。

「お母さん! どうしたの!?」
「……あっ」

長女が叫ぶように私の名を呼んだ。
私は泣いていた。

慌てふためく旦那と子供たちにかまわず私は泣いた。
ひとしきり泣いた後、心配そうな3人を見て私は言った。

「あんた達、私がいないから好きなもの買ってきたんでしょ」

3人はばつの悪そうな顔をして、そして私の笑顔をつられて笑った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

★【完結】ドッペルゲンガー(作品230718)

菊池昭仁
現代文学
自分の中に内在する 自分たちとの対話

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

生きてたまるか

黒白さん
現代文学
20××年4月×日、人類は消え、世界は終わった。 滅びのその日に、東京の真ん中で、ただひとり生き残っていた僕がしたことは、デパートで高級食材を漁り、食べ続けただけ。それだけ。 好きなことをやりたい放題。誰にも怒られない。何をしてもいい。何もしなくてもいい。 初めて明日がちょっとだけ待ち遠しくなっていた。 でも、死にたい……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...