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母の死
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母が死んだ。
突然の事だった。
いつの間にやら図体も貫禄も出た弟夫婦の言葉に甘え葬儀の後、私は家に戻った。
私は長女なのに、本当に情けない。
けど私がやる、と言える気力もなく、家に帰ったあとも子供のことも家のことも、夫に任せ切りになってしまった。
私は木偶の坊のようにベッドに沈んでいる。
「…………」
思い返すのは元気だった母。
父を早くに亡くし、女手1つで私も弟を育ててくれた。
働いてばかりでカサカサだった手がもう懐かしい。
『あんた作文賞とったんだってね!寿司行こう!』
『やだ! ステーキがいい』
『もうあんたって子は』
母は祝い事があると必ず私たちを寿司に誘ったけど生魚が嫌いな私は嫌がり、結局子供が喜びそうなステーキ屋に連れて行ってくれた。
あの頃の自分を殴りたい。
寿司だって食べれるメニューはあった。お金を出すのは私だからと、好き嫌いはいけないと無理やり連れて行ってくれてもよかったのに。
子供も大きくなってようやく母に親孝行が出来ると思った。弟と相談して旅行の計画をたてていたのに。
「…うっ…あっ…」
枯れ尽くしたと思っていた涙がまだ溢れてくる。
私は、母に何一つ恩返しが出来なかった。
こんな娘で、ごめんなさい。
言いたくても、もう母はこの世に居ないのだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
「…お母さん」
いつの間にやら寝ていたのだろう。
目が腫れているのが鏡を見なくても分かった。
私の名を呼んだのは旦那だった。
申し訳なさそうに旦那は私に言う。
「スープ買ってきたんだ。もし食べれそうだったら食べて」
旦那も心配している。
立ち直ければ。
「……うん」
私はベッドから起き上がった。
リビングに行くと、子供たちはご飯を食べていた
いつもの私の席にはスーパーで買うような野菜が多く入っているスープ。
湯気がたっており、暖かそうだった。
私は席につき、スープを私は少しづつ口に入れる。
子供たちはそれぞれ好きなものを買ったようだ。
私を案じてか静かに食べる子供たちを横目に見た。
長女は寿司セット、長男はうどん。旦那はステーキ丼。
「…あ」
母との会話で、思い出したことがあった。
『回転寿司ならあんた達が好きなステーキ寿司もあるし、うどんもあるからそこ行きましょ!』
『ばあばの好きなものが好きなんていい孫だよ』
『亡くなったおじいちゃんはうどんが好きでねぇ、デートの時はいつもうどんだったわ』
『好きな物が一緒の夫婦は上手くいくわよ』
………そうだ。
「お母さん! どうしたの!?」
「……あっ」
長女が叫ぶように私の名を呼んだ。
私は泣いていた。
慌てふためく旦那と子供たちにかまわず私は泣いた。
ひとしきり泣いた後、心配そうな3人を見て私は言った。
「あんた達、私がいないから好きなもの買ってきたんでしょ」
3人はばつの悪そうな顔をして、そして私の笑顔をつられて笑った。
突然の事だった。
いつの間にやら図体も貫禄も出た弟夫婦の言葉に甘え葬儀の後、私は家に戻った。
私は長女なのに、本当に情けない。
けど私がやる、と言える気力もなく、家に帰ったあとも子供のことも家のことも、夫に任せ切りになってしまった。
私は木偶の坊のようにベッドに沈んでいる。
「…………」
思い返すのは元気だった母。
父を早くに亡くし、女手1つで私も弟を育ててくれた。
働いてばかりでカサカサだった手がもう懐かしい。
『あんた作文賞とったんだってね!寿司行こう!』
『やだ! ステーキがいい』
『もうあんたって子は』
母は祝い事があると必ず私たちを寿司に誘ったけど生魚が嫌いな私は嫌がり、結局子供が喜びそうなステーキ屋に連れて行ってくれた。
あの頃の自分を殴りたい。
寿司だって食べれるメニューはあった。お金を出すのは私だからと、好き嫌いはいけないと無理やり連れて行ってくれてもよかったのに。
子供も大きくなってようやく母に親孝行が出来ると思った。弟と相談して旅行の計画をたてていたのに。
「…うっ…あっ…」
枯れ尽くしたと思っていた涙がまだ溢れてくる。
私は、母に何一つ恩返しが出来なかった。
こんな娘で、ごめんなさい。
言いたくても、もう母はこの世に居ないのだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
「…お母さん」
いつの間にやら寝ていたのだろう。
目が腫れているのが鏡を見なくても分かった。
私の名を呼んだのは旦那だった。
申し訳なさそうに旦那は私に言う。
「スープ買ってきたんだ。もし食べれそうだったら食べて」
旦那も心配している。
立ち直ければ。
「……うん」
私はベッドから起き上がった。
リビングに行くと、子供たちはご飯を食べていた
いつもの私の席にはスーパーで買うような野菜が多く入っているスープ。
湯気がたっており、暖かそうだった。
私は席につき、スープを私は少しづつ口に入れる。
子供たちはそれぞれ好きなものを買ったようだ。
私を案じてか静かに食べる子供たちを横目に見た。
長女は寿司セット、長男はうどん。旦那はステーキ丼。
「…あ」
母との会話で、思い出したことがあった。
『回転寿司ならあんた達が好きなステーキ寿司もあるし、うどんもあるからそこ行きましょ!』
『ばあばの好きなものが好きなんていい孫だよ』
『亡くなったおじいちゃんはうどんが好きでねぇ、デートの時はいつもうどんだったわ』
『好きな物が一緒の夫婦は上手くいくわよ』
………そうだ。
「お母さん! どうしたの!?」
「……あっ」
長女が叫ぶように私の名を呼んだ。
私は泣いていた。
慌てふためく旦那と子供たちにかまわず私は泣いた。
ひとしきり泣いた後、心配そうな3人を見て私は言った。
「あんた達、私がいないから好きなもの買ってきたんでしょ」
3人はばつの悪そうな顔をして、そして私の笑顔をつられて笑った。
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