召喚先で恋をするのはまちがっているかもしれない

ブリリアント・ちむすぶ

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3章

ハクギン

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「隣国にいくのか?」

 冷たい、無機質な声だ。
 あたりに人の気配がいなかったのに、どうやって現れたのだろう。
 長い銀髪と白い肌がこの雪景色によく合う。
 この雪山の神だといっても違和感がないほどに。

「…ハクギン」

 コウは振り返り、うなるようにハクギンの名を呼んだ。

「要塞に戻れ。実験がまだ残っている」
「…このままだと、アリスの身に危険が及びます。それに、俺は耐えられない。だから、俺は隣国に行きます」
「アリス、というのはその実験体の名か?」
「実験体じゃない! アリスだ」

 コウは再度アリスを抱く腕の力を込めた。 
 このまま離したらもう一生アリスには会うことはないだろうとコウは確信していた。
 だからコウはアリスを抱く腕を話すわけにはいかないのだ。

「…どうしてもとめるという事であれば、俺は抵抗します。抵抗して、逃げ切って、アリスを故郷まで送り届けます」
「届けてどうするのだ? お前はその実験体に性的欲求を求めていた。それが出来なくなる。いいのか?」
「いいです。アリスが幸せなら」
「その幸せにお前が入っていなくてもか?」
「はい」
「『理解』ができないな。まだ研究が必要になる」
「ハクギン、アーサーがこの世界は俺のいた世界よりずっと未来の世界だと言っていました。それは本当ですか?」
「ずっと、という定義が不明だが、お前のいた世界より255年後という事は真実だ」
「…あなた、他と違う。考え方、見た目、そして知識…。実際の年齢よりずっと年上のようだ」

 ハクギンの顔は変わらない。
 今までコウが何を言っても変わらない表情のように、かわらないのだ。
 まるで、機械のように…。

「あなたは、機械なのですか?」
「そうだ」

 コウの意を決して発した問いのわりにハクギンは即座に答えた。

「150年前に私はここに製造された。それから、ずっとこの世界にいる」
「なぜ、技術とかが、俺のいた時代よりも後退して言うんでしょうか?」
「戦争が起こった。魔法を使うものと、使わないものとのだ。それで、ほとんどのお前の時代の技術は潰えた」
「…そうですか」

 思えば、ずっと不可解な点はたくさんあった。
 しかし、今まで気が付かなかったのは魔法というコウにとっては摩訶不思議な存在があったからそれをコウが気が付くことはなかった。

「もう一つ、質問があります。俺はこの世界、いや、時代の人と比べて力がある、といわれています。しかし、俺のいた時代では俺は標準、もしくは下の力でした。なぜこの時代の人々の力は弱いのですか?」
「病だからだ」

 一瞬冗談を言っているのかと思ったが、ハクギンは言葉をつづけた。

「免疫不全ウイルスの一種の副作用だ。筋肉量がお前のいた時代より約40パーセント落ち、免疫もない。その代わり、人類は「魔法」を手に入れた」
「なんらかの原因で病気になり、その副作用と効能が体力の低下と魔法ということですか?」
「そうゆうことになるな」

 コウはアーサーに教えてもらった昔話を思い出した。
 ある日人類は滅亡の危機になったこと、それを救った救世主がいるということ。
 そして救世主は人類で初めて魔法を使用し、人々を導いたと。
 おとぎ話だと思って聞いていたが、ハクギンの話を聞くとうなずける部分が多くある。

「ではなぜ、俺を――」

 そういいかけた時、強い風が吹いた。
 思わず体制を崩すがなんとか持ちこたえる。
 山の気候は変わりやすい。
 正直聞きたいことは山ほどあったが、そんな暇もないようだった。
 コウはハクギンが行動を映す前にアリスに気を使いながら洞窟に入った。
 ちらりとハクギンの方を振り向くと、ハクギンは変わらず突っ立っており、少々不気味にも感じたが、追ってくる意思がないと判断しコウは走った。

 どれくらい走ればいいのかわからないが、コウの元の時代にいた記憶だと一日はかからないはずだった。
 洞窟の中は元トンネルということあって道が舗装され走るのには苦労しなかった。
 外のように寒くもない。
 休み休み行けば隣国にはつくだろう。

「コウ!」

 アリスが叫ぶようにコウの名を呼ぶ。
 安心させるように腕の力を込めた。
 それでもアリスのコウを呼ぶ声は止まらず、不審に思ったコウは立ち止まる。

「…!」
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