召喚先で恋をするのはまちがっているかもしれない

3章

逃亡

コウにとって夜間、アリスの元に会いにく事は難しいことではなかった。
簡単な事だ。上官が住むエリアの見張りの兵士を倒せばいいことなのだ。
体力は圧倒的にコウが上で、魔法が効かないということであっては負けるわけが無いのだ。
なぜ気が付かなかったのだろう。
こんなことならさっさと逃げるべきだった。
 こんな場所にもうコウは居られない。

「………」

 念の為、周りを確認する。
 アリスの部屋の周りは誰もいない。
 夜も明け、もうすぐ太陽が登るだろう。
コウはゆっくりとアリスの部屋のドアを開けた。
 
「アリス」

 アリスの顔は暗い夜の中でもその白さがわかった。
 このまま実験体のままではいずれ死んでしまうだろう。
だから、アリスを連れ出して逃げるのだ。

「…ん、コウ…？」

 気配でアリスは起きた。
 なぜここにコウがいるのか分かっていないようだった。
 コウはアリスの体をシーツごと横抱きする。

 軽い。

 同い年くらいのアーサーですらもう少しあるだろう。

「アリス、行こう」
「コウ…？」

  アリスの疑問をそのままにしてコウはアリスを抱いたままドアに向かう。
 そして、ドアを開けた時にアリスは察したようだった。

 嫌そうに身を捩るアリスをコウは抑えた。

「アリス！」

 小声でアリスに注意し、抱く力を込める。
 驚いたような声を上げたアリスは一旦落ち着いたように見えた

いつもは吹雪なのに、今は落ち着いている。
走りやすく、見渡しもよい。
　いまがチャンスだ。

「アリス！」

　暴れるアリスをコウは無理やり横抱きして走り出した。
　もっと勉強させればコウの想いがわかるのに、わからないせいでアリスはコウの奇行に混乱しているようだった。