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3章

真相

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らちが明かない話にコウは机に拳をたたきつけた。
 コウとアーサーは別室に移動し、ハクギンは引き続きアリスを見ている、 
 コウの本音としては一刻も早くアリスの容態をみたいのだ。
 しかしそれと同時に、コウの知らないアリスのことについて聞くのも重要だった。

「どうゆうことだ!」

 コウは声を荒らげた。
  アーサーの胸ぐらを掴み、目をそらさせないようにハッキリとアーサーを見る。

「なんで・・・、なんでアリスが!」
「・・あの実験体の名前、アリスって言うんだね」
「問題はそこじゃない! なんで、アリスが実験体になっているんだ!」

 コウの声は震えていた。
 それは紛うことなき怒りからくる声で、こんな声を出せたのかと思うほどだった。

「計画がそうだったからさ」

 アーサーはコウの怒声より随分小さな声でぽつりと答えた。

「もともと、キリュウ様、いや、アリスは隣国から連れてこられた実験体さ。君の血液を輸血していた」
「は…? 奴隷…? 輸血・・・!?」

コウの脳裏に定期的に受けていた採血が浮かんだ。
 実験のため、と確かにハクギンは言っていた。

「そう。君の健康状態を確認するのも理由の一つだけど、本当の目的は君の血液を実験に使うためのもの。君の魔法を無効化する理由が血液中の成分だとわかったから、それを輸血すれば魔法を無効化する人間が君以外につくれる。そうハクギン様が考えた」

 アーサーの声は変わらず、一定だった。
 出てくる言葉はコウには全く知らされていない内容だった。

「けど、最初に輸血を行った実験体はそのまま死んだ。その次も。何体か続けて、理論上は4人に1人だったけど、実験では10人のうち1人しか君の血液を耐えうる人間は現れなかった」

手が震えるのを感じた。 
 コウはそれがどれほど恐ろしいことか、日本にいた頃のテレビや漫画でそれがどうゆう状態になるのか、それが脳裏に鮮明に浮かんだ。
 輸血された血液型が違うとどうなるか。 
それを途方もない数の人間に試したのだ。
しかもコウ自身の血液で。
身体中の全てが総毛立つ。臓器が暴れだした。
コウはアーサーの胸ぐらを離し、床に突っ伏して迫り来る嘔吐感に耐える。
アーサーはそんなコウの様子を横目に見ながら、言葉を続けた。

「耐えうる人間でも、君のように魔法を無効化することは出来なかった。それだけでも君の量産は無理だとわかった。けど、僕らはあきらめなかった。隣国から途方もない人間を連れてきて、君の血液の様々な成分を抽出して摂取させた人間は全て失敗したーー、アリス以外は」

「アリスは君の血液中の成分を輸血し、実験を行ったら、ハクギン様の魔法を無効化をしたよ。けど、それは一時的なもので、すぐにそれは元に戻った。定期的に君の血液、しかもその1部の成分だけを輸血しないといけなかったんだ」

それを聞き終える前にコウの臓器は叫びをあげた。
口から出たものを必死で吐き出し、涙目になりながらコウはアーサーに掠れた声で言う。

「お、俺の血で人を・・・?」
「そうだよ。君の血で多くの人間が命を奪われた。その末に出来たのがアリスだ」

コウの体が震える。
自分の血がそんな用途に使われているなんで知る由もなかった。

「なんで・・・、アーサー」
「仕方なかったんだ。王都を守るためには」
「はっ・・・?」

 なぜ突然王都という言葉がでるのだ? 
 そんなもの、人命には関係ないだろう。

「カイラス様は、内乱を起こし、自分が王になるのが目的だった。そうすれば、王都にいる僕の家族に被害がでるだろ? だから・・・僕がカイラス様に提案した。強力な武器を量産しようって」
「・・・は?」
「その計画に必要なのは魔法を効かない人間。それが居ればこの国だけにとどまらず、全世界で影響力を持てる。だから、君が過去から呼ばれた。そこから君の身体を調べ上げて量産するのが目的だったけど…、体の進化は今の技術では戻せないという結果が出た以上、王都がクーデターによって壊されるのは明白だ。それに」
「ちょ、ちょっと待て!」

 コウはアーサーの話を遮った。
 ここにきて初めて聞く話ばかりで頭が追いつかない。
 頭を整理しようとコウはアーサーに聞く。

「な、なにをいっているんだ…? この世界は俺がいた世界なわけないだろ…? 過去? どうゆうことだ?」

 アーサーは小さな溜息をはいた。
 薄笑いをしながらコウに言う。

「…君が生きていた時代より50年ほどあとの時かな。魔法を持つ人々が現れ、争いがおこった。そのせいで、君の時代の技術はほとんどなくなった。君が前言っていた車も、飛行機もすべて」
「ありえないだろ! 俺の世界には魔法なんてものはなかった!」
「そうだね。証明できるものがあるといいんだけど、もうこの世界には映像なんてものもないから、すべて書物に載っているだけだ。けど、それが事実」
「アーサー! いい加減にしろ! 言っていいことと悪いことが――」
「ねぇ」

 コウの怒声をアーサーの冷静な声が止めた。

「ねえ、ユーバ山脈ってどこか聞いたことない?」
「ない! なんでそんなこと」
「本当に? ハクギン様の時空装置は時間は指定できても場所までは指定できなかったはずだよ。君の周りでもその名前に近い物があったはずだ」

 アーサーの言葉に、コウの目は開かれた。
 そうだ。確かに似ていると思ったのだ。
 けど、そんなはずないと思い込んでいた。
 しかし、もしそれがそうなら――。

 コウの表情がかたまったことに、アーサーは気がついたようだった。
 そして、アーサーはゆっくりとコウに語り掛ける。

「輸場山脈っていうんだろ、君の時代では。過去山脈の地域からの輸送の要になったか
ら。もう使われたトンネルはもうないけど。名前だけはこうして残ってる。過去の遺物さ。驚いたかい? コウ、未来はこんな不幸になっていたことに」

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