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3章
資料室にて
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「…えーと」
コウは資料室の中で資料を眺めていた。
さまざまな難しい資料があり、文章は難解を極め、正直コウの読める物は少ない。
しかし、その中で簡単そうな「地図」の本を取り出す。
簡単な文字を読みながら目的の項目を読み続ける。
「あった」
コウが探していたのはユーバ大陸の地図だ。
今から約50年ほど前に隣国に占領された大陸であり、コウがいまいるユーバ要塞もその東側にあたる。
しかし、40年前、王都がある本土から、ユーバ山脈がそびえたつ西側を奪還でき、そこからユーバ大陸を完全に奪還すべくユーバ要塞が建てられた、らしい。
そこから30年前の休戦が続き現在まで至るが、奪還は難しいというのがアーサーの弁だ。
「コーウ!」
「うわっ!」
背中を勢いよくはたかれ、予期していなかったコウはモロに喰らう。
はたいた張本人のアーサーは変わらない笑顔をコウに見せた。
「なんだよ、アーサー」
「君が何度も呼んでも答えないからじゃないか。珍しいね。君がここにいるなんて」
「えーと、まあな」
「もしかして、キリュウ様の事かい?」
「…………」
「そうなんだね!」
「アーハイハイ」
アーサーの声がうれしそうに跳ねる。
それをやりすごし、コウはパラパラと目的の地図が書かれたページを探す。
アーサーも興味深そうにコウのめくるページを読む。
「読めるかい? コウ」
「俺だって文字くらいは読める」
「読まないだけなんでしょ?」
「…まあな」
アーサーは地図帳に手を伸ばしパラパラとページをめくる。
どこのページにコウが見たいものがあるかわかっているようだった。
「見たいのこれでしょ。ユーバ大陸」
「ああ、すまない」
「それでキリュウ様とユーバ大陸に何か関係あるんだ?」
「えーと、アリス…、いやキリュウ様がこの地図に反応してな」
「へぇ、じゃあ山を越えたあたりの出身なのかな?」
「たぶんな。指をさしたのはこのあたりだから」
コウはユーバ大陸の上方より少し上を指さす。
アリスに見せた子供用の地図でアリスがここを指さしたのだ。
その細かい場所が知りたいので、こうやって見ているのだが…。
「うちの領土じゃないね」
「じゃあキリュウ様は隣国出身ってことか。でも言葉が全然違うんだな」
「というより30年間ほとんど交流がないからね。ユーバ大陸は隣国と領土争いが激しいから似てるけど結構違うよ」
「そうなのか。なにかこのあたりの詳しい資料とかないのか? その、俺の読める範囲で」
「コウが読めるのだと絵本ぐらいしかないよ。けど僕が代わりに説明してあげる」
からかうようにわらってアーサーは何点か資料となる本を本棚から抜き取る。
そのうち一番大きな本をアーサーは開き、コウに見せた。
「ここがユーバ山脈を越えて一番近い町だってさ。寒いけど四季もあるし、それなりに食べ物もたくさんとれるみたい」
「へぇ…、キリュウ様も結構好き嫌いないみたいだしな」
細かく描かれた挿絵をコウは興味深そうにみた。
アリスの育った土地は肥沃な土地のようだった。
大きな畑で作業する人々の中にアリスもいたのだろうか。
「ここの人たちは寒さに強いからね。僕なんて寒がりで夏でも半そでなんか着れないよ」
「だから風邪ひきやすいんだよ」
「否定しないけど、それはコウが健康すぎるだけだからね! 一年を通して風邪にもならないなんておかしいよ!」
「そうか? 俺から見ればみんな不健康に見えるけど。あ、ハクギンは別だ」
「ハクギン様は本当に別」
そう軽口を言い合いながら、アーサーは次に服の挿絵が描いてあるページを見せた。
日本でいう着物のような袖が長い服に、毛皮を纏ったズボン、柄はさまざまでストライプのものもあれば円がたくさん描かれているものもあった。
「一応これがユーバ大陸の人々の民族衣装」
「へぇ」
「一応コレ、僕らの先祖が着ているのと似ているんだ」
「俺の故郷の日本でも同じのを着ているぞ」
「へぇ…」
「興味ないのか?」
「前も聞いたな、と思ってね」
「そうだったか?」
コウは手帳に簡単にメモをとった。
民族衣装も大体の特徴を見て描く。
「キリュウ様に見せるの?」
「そうだな」
「辞めといたほうがいいよ」
「えっ」
コウは驚いてペンの動きを止めた。
アーサーからここまではっきりと言われたのはなかなかなかったからだ。
「キリュウ様はもう故郷にはもどれないからね。その故郷に関する絵を見せるなんて酷じゃない?」
「…そうなのか」
「前も言ったけど、男娼とか女娼って主人を選べない存在だろ。だからああゆう存在って売られた、とかなんだよね」
「あっ…」
コウはアーサーに言われた男娼のことについて思い出した。
男娼という職業は主人を変えながら良い位の主人に就くを繰り返して行くのが普通なのだ。
そんな奴隷のような身分になったのは深い理由があるのだろう。
敵対関係の隣国からわざわざ来るのはそうゆうことなのだ。
アリスが言っていたウサギという人物も元の主人なのだろうか。
もしそうだとしたら、アリスが忘れられなくて泣くほどによい主人だったのだろう。
「…そうだな、キリュウ様に見せるのはやめておくよ」
コウは書きかけの手帳を閉じた。
「けど、キリュウ様は男娼としては幸せ思うよ。王族のカイラス様やコウの物になるならひどいことはされないだろうし」
「そうだな…」
「で、キリュウ様とはどこまで行ったんだい?」
「だから言わないって! ほら、時間だ時間! 夕飯食べに行こう」
質問攻めを繰り返すアーサーをやり過ごし、コウは片付けを始める。
グチグチというアーサーを無視し、コウは資料室をでた。
コウは資料室の中で資料を眺めていた。
さまざまな難しい資料があり、文章は難解を極め、正直コウの読める物は少ない。
しかし、その中で簡単そうな「地図」の本を取り出す。
簡単な文字を読みながら目的の項目を読み続ける。
「あった」
コウが探していたのはユーバ大陸の地図だ。
今から約50年ほど前に隣国に占領された大陸であり、コウがいまいるユーバ要塞もその東側にあたる。
しかし、40年前、王都がある本土から、ユーバ山脈がそびえたつ西側を奪還でき、そこからユーバ大陸を完全に奪還すべくユーバ要塞が建てられた、らしい。
そこから30年前の休戦が続き現在まで至るが、奪還は難しいというのがアーサーの弁だ。
「コーウ!」
「うわっ!」
背中を勢いよくはたかれ、予期していなかったコウはモロに喰らう。
はたいた張本人のアーサーは変わらない笑顔をコウに見せた。
「なんだよ、アーサー」
「君が何度も呼んでも答えないからじゃないか。珍しいね。君がここにいるなんて」
「えーと、まあな」
「もしかして、キリュウ様の事かい?」
「…………」
「そうなんだね!」
「アーハイハイ」
アーサーの声がうれしそうに跳ねる。
それをやりすごし、コウはパラパラと目的の地図が書かれたページを探す。
アーサーも興味深そうにコウのめくるページを読む。
「読めるかい? コウ」
「俺だって文字くらいは読める」
「読まないだけなんでしょ?」
「…まあな」
アーサーは地図帳に手を伸ばしパラパラとページをめくる。
どこのページにコウが見たいものがあるかわかっているようだった。
「見たいのこれでしょ。ユーバ大陸」
「ああ、すまない」
「それでキリュウ様とユーバ大陸に何か関係あるんだ?」
「えーと、アリス…、いやキリュウ様がこの地図に反応してな」
「へぇ、じゃあ山を越えたあたりの出身なのかな?」
「たぶんな。指をさしたのはこのあたりだから」
コウはユーバ大陸の上方より少し上を指さす。
アリスに見せた子供用の地図でアリスがここを指さしたのだ。
その細かい場所が知りたいので、こうやって見ているのだが…。
「うちの領土じゃないね」
「じゃあキリュウ様は隣国出身ってことか。でも言葉が全然違うんだな」
「というより30年間ほとんど交流がないからね。ユーバ大陸は隣国と領土争いが激しいから似てるけど結構違うよ」
「そうなのか。なにかこのあたりの詳しい資料とかないのか? その、俺の読める範囲で」
「コウが読めるのだと絵本ぐらいしかないよ。けど僕が代わりに説明してあげる」
からかうようにわらってアーサーは何点か資料となる本を本棚から抜き取る。
そのうち一番大きな本をアーサーは開き、コウに見せた。
「ここがユーバ山脈を越えて一番近い町だってさ。寒いけど四季もあるし、それなりに食べ物もたくさんとれるみたい」
「へぇ…、キリュウ様も結構好き嫌いないみたいだしな」
細かく描かれた挿絵をコウは興味深そうにみた。
アリスの育った土地は肥沃な土地のようだった。
大きな畑で作業する人々の中にアリスもいたのだろうか。
「ここの人たちは寒さに強いからね。僕なんて寒がりで夏でも半そでなんか着れないよ」
「だから風邪ひきやすいんだよ」
「否定しないけど、それはコウが健康すぎるだけだからね! 一年を通して風邪にもならないなんておかしいよ!」
「そうか? 俺から見ればみんな不健康に見えるけど。あ、ハクギンは別だ」
「ハクギン様は本当に別」
そう軽口を言い合いながら、アーサーは次に服の挿絵が描いてあるページを見せた。
日本でいう着物のような袖が長い服に、毛皮を纏ったズボン、柄はさまざまでストライプのものもあれば円がたくさん描かれているものもあった。
「一応これがユーバ大陸の人々の民族衣装」
「へぇ」
「一応コレ、僕らの先祖が着ているのと似ているんだ」
「俺の故郷の日本でも同じのを着ているぞ」
「へぇ…」
「興味ないのか?」
「前も聞いたな、と思ってね」
「そうだったか?」
コウは手帳に簡単にメモをとった。
民族衣装も大体の特徴を見て描く。
「キリュウ様に見せるの?」
「そうだな」
「辞めといたほうがいいよ」
「えっ」
コウは驚いてペンの動きを止めた。
アーサーからここまではっきりと言われたのはなかなかなかったからだ。
「キリュウ様はもう故郷にはもどれないからね。その故郷に関する絵を見せるなんて酷じゃない?」
「…そうなのか」
「前も言ったけど、男娼とか女娼って主人を選べない存在だろ。だからああゆう存在って売られた、とかなんだよね」
「あっ…」
コウはアーサーに言われた男娼のことについて思い出した。
男娼という職業は主人を変えながら良い位の主人に就くを繰り返して行くのが普通なのだ。
そんな奴隷のような身分になったのは深い理由があるのだろう。
敵対関係の隣国からわざわざ来るのはそうゆうことなのだ。
アリスが言っていたウサギという人物も元の主人なのだろうか。
もしそうだとしたら、アリスが忘れられなくて泣くほどによい主人だったのだろう。
「…そうだな、キリュウ様に見せるのはやめておくよ」
コウは書きかけの手帳を閉じた。
「けど、キリュウ様は男娼としては幸せ思うよ。王族のカイラス様やコウの物になるならひどいことはされないだろうし」
「そうだな…」
「で、キリュウ様とはどこまで行ったんだい?」
「だから言わないって! ほら、時間だ時間! 夕飯食べに行こう」
質問攻めを繰り返すアーサーをやり過ごし、コウは片付けを始める。
グチグチというアーサーを無視し、コウは資料室をでた。
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