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3章
健康診断
しおりを挟む「身長173㎝、体重61.5キロ…。少し、痩せたんじゃない?」
アーサーはコウの身長体重をノートに記録しながらつぶやいた。
一週間とすこしばかり来ていないだけで少し懐かしく感じる研究室でコウは早速ハクギンに魔法弾を投げつけられるから始まり、お決まりの定期健診が始まった。
もちろん車も電車もないこの世界にコウの身体を足からつま先まで検査できるようなレントゲンなどというものはない。
細かい症状はわからないものも多く、ある程度数値で測れるものをはかってからハクギンがコウの身体を触診するのが常である。
「最近毎日血を抜かれているからな…、なにか異常でも見つかりました?」
コウは嫌味をいうようにハクギンを見た。
アリスが来る一か月以上前からコウは定期的に血をそれなりの量を抜かれており、症状はないが貧血を心配するほどだった。
ハクギンはコウの嫌味にも特に表情も変わらずいつもの機械的な調子で答えた。
「身長体重とともにどちらも適正範囲内。血液は検査目的ではなく、実験目的なので精密な検査は行っていない。しかし、数値は正常。採取する量も問題ない」
「あーはいはい、そうですか。んで、俺の血、何に使っているのです?」
「実験だ」
「どんな実験なんです?」
「答える必要はない」
「はいはい…ひぃ!」
コウは思わず叫んだ。
触診のためコウに触ったハクギンの手がコウが縮む程に冷たかった。
なんどもこの触診検査はされているが慣れる気はしない。
「あの・・・、いつも言っているとは思うのですが、手袋かなにかしてくれせんか」
「布が邪魔になる」
「はいはい・・・、ひぃぃ、冷たいぃぃぃ」
コウの叫びもハクギンは無視しコウの体を診ていく。
終わったあとのコウは随分ぐったりとし、アーサーから貰った暖かいお茶で心を休ませた。
「コウ、次は採血だけど、大丈夫?」
「ん、大丈夫だ」
コウはそうやって左腕を出した。
アーサーは採血する場所の当たりをヒモで抑え、消毒用のアルコールを塗る。
だが、慣れた行為のはずなのに、手が僅かに震えていた。
緊張しているのであろう。
コウは少しでもアーサーの緊張を減らしたくて、いつも通りに話した。
「アーサーは子供の頃注射器見るタイプだったか?」
「そんな血を採るなんてほとんどしないよ・・・」
「へぇ、そうなのか」
「ここに来てから君が初めてだ・・・、未だに採りすぎて死んじゃうじゃないかって不安になる。コウが注射器を見て驚かなかったの、本当にすごいよ…」
「俺のいた世界では定期的にみんなしているんだ。とはいっても俺も血は苦手だけど」
「僕、コウのいた世界にいなくて本当によかった…」
コウはからからかうように笑った。
アーサーのこうゆうところが年相応に見えるのでとても安心する。
その隣の太い注射器を持つハクギンの存在を除けば…。
そのままコウの左腕を軽く抑え、注射器を構えた。
「始めるぞ」
「いっ!」
行き着く暇もなくコウの腕に注射器が刺され血が抜き取られていく。
しびれるような痛みを目を閉じながら我慢する
「ひいぃ」
アーサーの生々しい声が聞こえた。
感情を無にして耐える、
じっと耐えていると、抜かれる感触。
柔らかいものがコウの腕にあてられる。
「終了だ」
「……はい」
ハクギンが持っている注射器にはたんまりとコウの赤い血が入っている。
えずきそうになるのをコウは必死に抑えた。
ハクギンは手際よく血を専用の容器に移し、保管庫に入れる。
コウとアーサーは目に入れたくないから目をふさいだりそらしているというのに、ハクギンは表情を変えずに手際よく作業を行う。
こうでもしないと研究者になれないのだろうか。
「コウ、体調は大丈夫かい?」
「問題ないよ。アーサー」
「めまいが起こる可能性がある。休め」
「わかっていますって」
コウはハクギンに促され、ベッドに沈んだ。
そのまま残っている茶を飲む。
ぬるくはなっているが暖かさが身に沁みる。
心まで温まる。
「コウ」
「はい」
「キリュウ様のことについて、何点か確認することがある」
「あー、なんですか?」
「キリュウ様との性交はどうだった?」
ブブーーー!
コウは飲んでいた茶を噴出した。
「はっ…えっ」
「昨日性交をしただろう」
「性こ…! な、なに言っているんですか?」
ゲホゲホと器官に入った茶をコウは吐き出しながらハクギンに叫んだ。
隣のアーサーなんて完全に固まっているというのに。
「コウ…」
「ア、アーサー、違うんだ…」
「不潔だ!!!」
「アーサー…」
「なんで僕に言わずにそんなことしたんだ! 非情だ!」
「ちがう! 違うって!」
目頭が熱くなるのを感じる。
頭が急な衝撃のせいで故障をしたのだろう。
「不潔か…」
ハクギンは少し考えたように言った。
「フェラチオは不潔に入るのか?」
「……はっ?」
ハクギンの思わぬ言葉にコウは思わず聞き返した。
ハクギンの口から出たのは、衝撃的な言葉だった。
「コウとキリュウ様が行っていたのは男性器を口に入れるフェラチオだが」
「ーーーーーーー!!」
コウは言葉にならない悲鳴を上げた。
なぜ、そんなことをハクギンは知っているのだ。
というよりこんなことを人がいる場で言うのはやめてくれ。
やめろ、やめてくれ
「それに、男性器の挿入はなかったが、なぜしなかった?」
これはコウもアーサーもさすがに固まった。
互いに口をあんぐりとあけた姿をハクギンは不思議そうに見た。
「なぜだ?」
「・・・・・・…………そのえっと・・・」
「なぜだ? そのまま二人で寝たのはなぜだ?」
「・・・殺してください」
今ほど自分が魔法が効かない体質を恨んだことはない。
死にたい。
いっそのこと殺してくれ。
自身の情事をばらされ、かつそのことの質問攻めに耐えられるほどコウの心は鋼ではなかった。
「なぜ殺す必要がある? なぜ」
「ハクギン様、もうやめてください!」
ハクギンの追求を辞めさせたのはアーサーだった。
同じ男として同情するような、憐れみに満ちた声がとても辛い。
「なら話を変えよう。なぜ・・・、」
「もう、やめてくださいってば!」
コウは叫ぶように懇願した。
目頭が熱い。
涙が出そうだ。
「心拍数が上がっているな。興奮しているのか?」
「心拍数もわかるんですか・・・、あなた一体どうやってわかるんですか・・・?」
コウは呆れながらハクギンにいう。
ハクギンは簡単にいうとデリカシーがない。
だからこそ、研究者をやれているのかもしれない。
「では、一つだけ聞こう」
「…どんなとどめを刺す気なのですか…?」
涙をすんでのところで止めながらコウは銃を撃たれる覚悟をした。
「お前とキリュウ様の関係は『愛し合っている』のか?」
「…………」
思わずハクギンの顔を見た。
数秒間眺め続けたがハクギンから言葉が発することはなかった。
「…えーと」
コウは頭をかいた。
アーサーに助けを求めるように目線を送ったが、アーサーもそれは同じで助け舟は期待できない様子だった。
「あ、愛…ですか」
「そうだ」
「…………えーと」
「コウ、このときのハクギン様はなにか答えないと帰してもらえないよ」
アーサーがさりげなくいった。
そんなことくらいコウも三年の付き合いでよく知っていた。
コウは数秒間悩んでもハクギンが一言もしゃべらずコウの言葉を待ち続けたのを確認してからゆっくりと口を開いた。
「………愛してます」
「そうか」
ハクギンの返答は簡潔だった。
心に決めるまでの時間をコウは返してもらいたくなった。
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