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2章

名は?

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換えのシーツを替え終わる頃には、キリュウは昼食を済ませ、近くのテーブル椅子に腰掛けながら、コウの様子を見学していた。 
キリュウは逃げ出すこともなく、手の傷はそこまで深くなく、包帯を見るに血はもう出ていない。

「シーツ換え終わりましたよ。キリュウ様」
「・・・・・・ス」 
「なんですか?」
「アリス 」
「アリス・・・?」

キリュウは大きくうなづいた。
 そして人差し指を自らに向ける。
これは、『自分の名前はアリスだ』と言っているのだろうか。
 アリスという名前ということは、とコウはキリュウの顔をまじまじと見た。
確かに線は細いがキリュウはれっきとした男だ。体格も華奢な女性よりしっかりしている。

「えっ・・・と」
「アリス」
「アリス・・・?」

コウは確認するようにキリュウを指さした。
さされたアリスは、また縦に大きく頷いた。
キリュウ、いや、アリスと呼ぶべきだろう。
アリスは、少し口角を上げた。まさかアリスが本当に名前ということなのだろう。

「アリス、様・・・」
「アリス」
「アリス・・・」

アリスはやわらかく微笑んだ。
同性なのに、ドキッとしてしまう。
さすがは王族の男娼なのだろうか…?

「えっと、アリス、これを」

コウが渡したのは1冊の絵本。
コウがようやくこの世界の言葉がわかり始めた頃、アーサーがコウの言葉の勉強に、とコウに与えたものだった。
アリスは本を受け取ると興味深そうにページをめくる。
アリスがこの世界の人間なのか、コウと同じ異世界から来た人間なのかわからないが、言葉を覚えるにはまず簡単な絵本から入るのがいいだろうとコウは自室から持ってきたのだ。

「この絵本は、この世界の救世主のことが載っています」
「・・・・・・・・・」
「えっと・・・」

言葉を教えるの、どうしたらいいんだ・・・?

コウは自分のときを思い出す。
アリスはページを1枚1枚じっくりと見入るように絵本を見ているがとてもつまらなそうだ。
最後のページまでめくると、『何をしたかったのだ?』、という顔でアリスはこちらを見てくる。 
心が痛い。
アリスはどうやら簡単な言葉でもわからないようだった。
コウはアリスから返された絵本をもちしばらくアーサーが自分にどう教えてくれたのか思い出していた。

「えっと・・・」

コウは空いている椅子に座り、アリスの前にその絵本を広げた。
文字を読むのはまだ苦手だが、絵本くらいならなんとかなるだろう。

「この世界は約500年前、ある危機が訪れました」

コウが急に喋りだし、様子を伺っていたアリスだが、これが絵本を音読しているのだ、とアリスはすぐに理解してくれた。
コウは指で今喋っている所をなぞりながらアリスに向けて音読する。

「世界が闇に覆われそうになったのです。皆、倒れて行きました。それを救ったのはアラン。アランは絶望にいた人々の孤独を救いました。だから、彼は指導者と呼ばれているのです」
 確か、アーサーも同じことをしてくれた、とコウは思い出しながら絵本をめくっていった。
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