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2章
仕事場にて
しおりを挟む「じゃあ僕行くけど…コウ」
「…なんだよ、アーサー」
「禁断の関係って…、いいよね」
「いやいやいやいや。ないから」
「えーーー!」
「あるわけないだろ! 王族の男娼に手を出すなんて!」
「えーー! じゃあじゃあコウ!もし進展あったら僕には教えてね?」
「アーサーは俺を何だと思っているんだ…?」
アーサーとの関係にひびが入りかけた後、コウはにやついているアーサーと別れ、キリュウの部屋に向かっていた。
カイラス達は昨日、王都に向かって出発し、ほかの兵士たちも何人か付いていったせいで、いつもより人の少なくなった要塞内はどこか寂しさを感じさせる
そのせいかいつも寒い要塞内がさらに寒く感じた。
コウは肩をさすりながらぽつりと飛ぶやいた。
「寒い……」
一年中雪が降るこの要塞は日中でも廊下は寒い。
夜も外の防寒具とそう遜色ない格好をしなくては寒くて歩けないほどだった。
いつもは人通りのいい道しか使わないため、人気のない廊下がこんなに寒いとは思わなかった。
昼食と一緒に一応羽織る物や、暖かい飲み物を持参したが、人ひとり通らない
毎日の日課だったハクギンの魔法弾攻撃からは解放されたが、今度は暇が敵になろうとは。
あの魔法弾攻撃を懐かしく思ったら負けだと思い、持参した本を広げ、苦手な読書に勤しむことしているが、すぐに頭の中を支配するのがドアの向こうにいるキリュウの存在だった。
「孤独、だろうなぁ…」
コウはぽつり、と独り言をいう。
カイラスから言われたキリュウに対して男娼としかしか思っていない態度、コウには奴隷のような扱いのように見えた。
それでも男娼としてはかなりキリュウは待遇のいいほうらしい。
確かに上官クラスのエリア内の部屋の一室を貰えているのは恵まれているだろう、しかし、いつでも求められたら体を広げなくてはいけないのは酷ではないのか、と思ってしまう。
「郷に入れば郷に従えなんだろうけどな…」
ああ、そう独り言を言ったらいつもはアーサーが「なんだい、その言葉は?」と好奇心旺盛に聞いてくれるだろう。
しかし、今現在、アーサーもいなければ、一か月の人不足なので人っ子一人通りはしないのである。
もちろんキリュウの部屋に入ってはいい、とはいわれているが、キリュウに同情してしまい、苦しくなるのは自分だというのをコウは理解していた。
だからこそ、コウはキリュウと会おうとは思わないのだ。
『理由はわかったけどさ、キリュウ様は選んでカイラス様の男娼になったわけだろ? なぜ同情する必要があるんだい?』
コウはアーサーから言われた言葉を思い返した。
キリュウは様々な原因があるにしても、自身で選んで男娼という職業についている。
しかも王族付きの男娼という男娼の中でも恵まれた地位で。
それに対して手を出す出さないの自由はあるが、コウがキリュウに同情する要因など一つもないというのがアーサーの意見なのである。
コウが日本にまだいた時、帰国子女のクラスメイトが文化の隔たりを感じてしまうのは食や生活スタイルではなく、周りは難無くしているのに、どうしても受け入れられないことが出た時だ、と話していた。
その時、コウは他人ごとのように聞いていたが、今となってはその意味が痛いほどわかる。
アーサーとの付き合いはコウがこの世界にきたときからなのでどうしても分かり合えない部分がつらい。
召喚されたことでコウはこの世界に来てしまい、そしてそのままハクギンの実験体になった。
最初の一年はなにもわからず、コウ自体アーサーをはじめこの世界の人々と会話ができるようになったのは二年ほど前の話である。
なにをしゃべっているのかわからず、今まで見たことがない魔法という存在、そしてコウの魔法が効かない体質はハクギンにずいぶん珍しがられ、言葉もわからずわけのわからないまま魔法弾を投げつけられ、さまざまな実験体になっていたのである。
正直恐怖で何度も逃げ出したが、ユーバ山脈の吹雪が邪魔をした。
そのコウの身の上を案じて言葉を教えてくれたのがアーサーなのだ。
そして言葉の意味が分かるようになり、魔法弾を投げつけられていた意味や自分のこの世界のことを知ることができたのが来てから1年が過ぎた頃だったのだ。
アーサーはこの世界のコウの育ての親みたいなものだ。
そのアーサーと分かり合えない寂しさをコウは感じた。
「…、昼食の時間かな」
考え事を振り払うようにコウは荷物からキリュウ用の昼食をだした。
一応冷めても食べれるメニューだが、待っている間に冷めてしまった。
一度厨房に戻り、温めなおそうかと考えていた時、キリュウのいる部屋からガラスの割れる音がした。
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