召喚先で恋をするのはまちがっているかもしれない

ブリリアント・ちむすぶ

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1章

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朝、朝食を食べたコウは手紙通りに朝一で上司の研究室に向かう。

「魔法ならなにかテレパシーとか送ってくれればいいのに手紙とかへんなところでアナログなんだよなぁ・・・」

コウがぶつぶつと一人ごとを言いながら、短く切られた黒髪をぐちゃぐちゃとかいた。

ああ、気が重い。

それは、件の手紙の上司がとんでもないパワーハラスメント野郎であるからで、もしそれが日本なら一瞬で労働基準法に引っかかり、裁判にかけられ、コウはその慰謝料で大金持ちになるほどである。
 しかし、この世界はどうやら上司の無茶すぎる無茶ぶりをハイハイと笑顔で受け入れなければならない。
 そんなパワーハラスメントな職場がこの国の重要部である国立の研究所で行われているのを察するにとんでもないところに来てしまったと思うのだ。
 先日なんて今朝見ていた演習場のど真ん中に立たされ、寒さに震えながら2時間放置された。
いくら冬ではないといっても何度か三途の川が見えたほどだった。
思い出すと涙が出てきそうになる。

「あぁ、労働基準法でしょっぴいてやりたい・・・」
「なんだい? そのロードーなんとかってやつは? 」

鬱々としていたコウの目の前に人が落ちてきた。
 いや、正確にいうと「空中魔法で浮遊中にコウの独り言を聞いて気になって空中魔法を解除して降りてきた」というのが正しいがそんなことが三年も経てばコウも慣れ切ってしまい、日常の一部になっている。
 つくづく慣れってこわい、とコウは憂鬱な頭で思う。

「おはよう、アーサー・・・、俺のいた国の世界の話だよ」
「おはようコウ、君からはその国の悪口しか聞かなかったけど、そんなにいいものなのかい?」
「うーんと、簡単にいうと労働者、つまり俺とか給仕のミデルさん、あとアーサーみたいな雇われている人に対しての権利だな」
「どんな権利があるんだ?」
「休みをとる権利とか、仕事を辞める権利だったり、命に関わることを拒否する権利とか―、」
「あはは、なら俺も欲しいかも。まったく王都は王の代替わりで一か月のお祭りだっていうのにこっちはなーんにも変わらないんだから」
「へぇ…、祭ってこっちではなにをするんだ?」
「いつもは儀式を行ってからは出店がでて皆飲んだり踊ったりなんだけど、今回はそれが一か月だからね。かなりの盛り上がりになると思うよ」
「一か月全部どんちゃん騒ぎか、うらやましいな」
「王族はなにかしらの儀式があるから忙しいんだけどね。うちの司令官の他にも何人か行くんじゃないかな? ま、僕たちには関係ない話だけどね」 

 アーサーの笑みと同時にカールの栗毛も同時に揺れる。
 この白衣をきた真面目そうな巻き毛でメガネでソバカスのひょろながい青年はコウの上司にあたる。
年齢はコウより5歳若い18だ。出会った頃はまだあどけなさの残る15歳の少年だったが、ずいぶん身長も伸びた。
この世界にきたコウの世話係をしていた縁でコウと親密な関係を紡いでいた。 
もちろんそれは上司と部下としての関係であり、恋愛方面の関係ではない。
しかし、コウのこの世界の一番の理解者と言っても過言ではないだろう。
 アーサーがみた小説の話など世間話をしつつ歩く事10分、アーサーはすでに歩き疲れて浮遊魔法をコウの目線の高さに合わせて発動していた。
コウも運ぼうかとアーサーに言われたが朝食の腹ごなしの運動をしたいコウはそのまま歩く。
 顔色を変えずに歩き続けるコウにアーサーは関心しながら言う。

「コウはすごいねぇ。そんなに歩くなんて…」
「俺のいた世界では結構普通だけどな、アーサーたちが体力なさすぎなんだよ」
「うへぇ、嘘でしょ。軍属の人たちでもコウの体力にはかなわないよ」
「アーサーも運動しておいたほうがいいんじゃないのか? 研究のひらめきには運動も大切だって俺のいた世界には――」
「ねぇ! コウ、君がいた世界はこうゆう風にみんな歩いていたのかい?」
「・・・別に全てが歩きってわけじゃないぞ。例えば車や飛行機や自転車みたいな・・・」
「クルマ、ヒコウキ、 ジテンシャ?」

 アーサーはコウの言葉を確認するように繰り返してから首をかしげた。
 この魔法が主体の世界にはコウがいた世界のように機械技術が発達していない。
アーサーのような魔術師は魔法で移動ができるが、何時間も飛び続けられる訳では無いし、魔法が使えない非魔術師達は馬車や、魔術師に安くはない金を払い、連れてってもらうしかないのだが、それより自動車で行った方が早くつく程だろう。
それが当たり前な世界にいるアーサーに鉄の塊が動くなんて信じられない話だろう。
驚く顔を想像しながらコウは意気揚々と説明を始めた。

「えーと、まず車っていうのが…」

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