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第1章:冒険者エヴァン、悪魔と出会う
6.諍い
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「た、確かに竜骨のダンジョンに這竜がいるというのは先ほど荒野の狩人団から報告がありました。しかし…あなたがそれを倒したとは…」
オザドは尚も信じられないというようにしきりに額の汗を拭いている。
「元々あのダンジョンのボスは重装甲蜥蜴だったはず。そちらはどうなったのでしょうか?」
「ああ、それなら這竜に食われたみたいだ。欠片しかなかったけど大牙トカゲの魔核も拾ってきたよ」
エヴァンはそう言うとバッグから小石程の魔核の欠片を取り出した。
「た、確かにこれは重装甲蜥蜴の魔核。それでは…」
「これで信じてもらえたかい?」
「た、確かに」
オザドは改めてエヴァンを見た。
「じゃあ攻略報酬と冒険者のランクアップ認定の方をよろしく頼むよ。こっちはほぼすっからかんだから早いところ懐を温めたいんだ」
「わ、わかりました!ただし何分事情が事情なので今しばらくお待ちいただけますか?」
「もちろん。そこでエールでも飲みながら待ってるよ」
「…エ、エヴァン!」
小躍りしながら丸テーブルに戻ると険しい顔をしたザックロンが待ち構えていた。
「…本当に…君は竜骨のダンジョンを攻略したのか?」
「ああ、聞いていただろ。その通りだ」
それを聞いたザックロンが正面からエヴァンを見据えた。
「だったらその成果は我々荒野の狩人団のものでもある!」
「はあ?何を言ってるんだ?」
突然のザックロンの言葉にエヴァンは信じられないというように目を剥いた。
「だってそうじゃないか?君は荒野の狩人団の一員として竜骨のダンジョンに入った。ならばその成果は荒野の狩人団のものになるはずだ!そうだろう、みんな!?」
ザックロンが辺りを見渡すと冒険者たちはそそくさとそっぽを向く。
荒野の狩人団はこのギルドでも名の知れたパーティーだ。
下手に逆らうのは得策ではないと判断したのだろう。
「あのなあ…」
呆れたように息を吐きながらエヴァンは頭を掻いた。
「同じパーティーと言っても俺は一時雇いだろ?ギルドのパーティー登録証だって赤札だ」
そう言いながら懐から荒野の狩人団のパーティー登録証を取り出す。
パーティー登録証はそのパーティーの一員であることをギルドが証明するものなのだが、赤札は一時雇い、そのクエストにのみ参加するということを示している。
「正規メンバーではないから何らかの理由で正規メンバーが離脱した場合、赤札メンバーの功績は全てその個人のものとなる、そういう規約だっただろ」
エヴァンの持っている赤札にはパーティーリーダーのザックロンのサインも彫られている。
「く…し、しかし!我々は苦楽を共にしてあのダンジョンを探索した仲じゃないか!ならば多少はそこに恩義を見せるのが冒険者というものじゃないのか?」
「這竜が出てきたら速攻で置いていかれたけどな」
尚も食い下がるザックロンにエヴァンは苦笑を返した。
「そもそも今までのことは水に流してくれと言ったのはそっちだぜ?俺たちはもう無関係のはずだろ」
「そ、それは卑怯というものだ!攻略できたなんて言ってなかったじゃないか!」
ザックロンの言葉は既に支離滅裂だ。
「おい」
業を煮やしたのかザックロンの背後にいたジッカがずいと前に出てくるとエヴァンの胸倉を掴んだ。
シャツの袖が盛り上がる上腕二頭筋で弾けそうになっている。
「ザックロンの言う通りだ。エヴァン、てめえはダンジョンでてんで役に立ってなかったんだ。ちっとくらいここで誠意を見せたらどうなんだ?」
「様子が変だから帰ろうと俺が言ったのを無視して奥に進んでいったのはそっちだけどな」
「てめ…」
ジッカの禿頭に血管が浮かび上がる。
「雑草野郎が!」
ジッカの岩石のような拳がエヴァンの顔面に叩きこまれる。
エヴァンは寸前でそれをかわすと胸倉を掴んでいたジッカの左手を梃子の要領で捻りあげた。
「うおっ?」
突然あらぬ方向から力を加えられたジッカが思わずたたらを踏む。
「聞きわけがない奴にはこうだ」
エヴァンがジッカの額を指で弾いた。
その衝撃でジッカは吹っ飛び、丸テーブルをいくつもなぎ倒しながら壁に激突する。
完全に意識を失ったジッカを目の当たりにして酒場の中は完全に言葉を失っていた。
「ば、馬鹿な…エヴァン、貴様は一体…」
「言っとくけど先に殴りかかってきたのはあいつだぜ。これは正当防衛だからな」
エヴァンは青ざめた顔で睨みつけてくるザックロンに肩をすくめてみせた。
「おい、今の見たか?ジッカが一撃でやられたぞ」
「ジッカは狼級だろ?なんで麦束級のエヴァンなんかに…」
「じゃあ奴が竜骨のダンジョンを攻略したってのも本当なのか…?」
周りで見ていた冒険者たちも騒然となっている。
「お待たせいたしました、エヴァン様。認定が済みま……一体どうしたのですか?」
戻ってきたオザドがただならぬ雰囲気に不思議そうな顔で酒場を見渡した。
「なんでもないよ。じゃあ詳しく聞かせてもらおうか」
エヴァンは涼しい顔でカウンターへと足を向けた。
「そ、それではまずエヴァン様の冒険者ランクから説明させていただきます」
オザドは口髭を捻りながらエヴァンの前に鉄でできた認定証を差し出した。
表面には大きく枝を伸ばした樫の木の意匠とエヴァンの名前が彫られている。
「結論から申しますとエヴァン様は樫級の冒険者に昇格いたしました」
オザドは尚も信じられないというようにしきりに額の汗を拭いている。
「元々あのダンジョンのボスは重装甲蜥蜴だったはず。そちらはどうなったのでしょうか?」
「ああ、それなら這竜に食われたみたいだ。欠片しかなかったけど大牙トカゲの魔核も拾ってきたよ」
エヴァンはそう言うとバッグから小石程の魔核の欠片を取り出した。
「た、確かにこれは重装甲蜥蜴の魔核。それでは…」
「これで信じてもらえたかい?」
「た、確かに」
オザドは改めてエヴァンを見た。
「じゃあ攻略報酬と冒険者のランクアップ認定の方をよろしく頼むよ。こっちはほぼすっからかんだから早いところ懐を温めたいんだ」
「わ、わかりました!ただし何分事情が事情なので今しばらくお待ちいただけますか?」
「もちろん。そこでエールでも飲みながら待ってるよ」
「…エ、エヴァン!」
小躍りしながら丸テーブルに戻ると険しい顔をしたザックロンが待ち構えていた。
「…本当に…君は竜骨のダンジョンを攻略したのか?」
「ああ、聞いていただろ。その通りだ」
それを聞いたザックロンが正面からエヴァンを見据えた。
「だったらその成果は我々荒野の狩人団のものでもある!」
「はあ?何を言ってるんだ?」
突然のザックロンの言葉にエヴァンは信じられないというように目を剥いた。
「だってそうじゃないか?君は荒野の狩人団の一員として竜骨のダンジョンに入った。ならばその成果は荒野の狩人団のものになるはずだ!そうだろう、みんな!?」
ザックロンが辺りを見渡すと冒険者たちはそそくさとそっぽを向く。
荒野の狩人団はこのギルドでも名の知れたパーティーだ。
下手に逆らうのは得策ではないと判断したのだろう。
「あのなあ…」
呆れたように息を吐きながらエヴァンは頭を掻いた。
「同じパーティーと言っても俺は一時雇いだろ?ギルドのパーティー登録証だって赤札だ」
そう言いながら懐から荒野の狩人団のパーティー登録証を取り出す。
パーティー登録証はそのパーティーの一員であることをギルドが証明するものなのだが、赤札は一時雇い、そのクエストにのみ参加するということを示している。
「正規メンバーではないから何らかの理由で正規メンバーが離脱した場合、赤札メンバーの功績は全てその個人のものとなる、そういう規約だっただろ」
エヴァンの持っている赤札にはパーティーリーダーのザックロンのサインも彫られている。
「く…し、しかし!我々は苦楽を共にしてあのダンジョンを探索した仲じゃないか!ならば多少はそこに恩義を見せるのが冒険者というものじゃないのか?」
「這竜が出てきたら速攻で置いていかれたけどな」
尚も食い下がるザックロンにエヴァンは苦笑を返した。
「そもそも今までのことは水に流してくれと言ったのはそっちだぜ?俺たちはもう無関係のはずだろ」
「そ、それは卑怯というものだ!攻略できたなんて言ってなかったじゃないか!」
ザックロンの言葉は既に支離滅裂だ。
「おい」
業を煮やしたのかザックロンの背後にいたジッカがずいと前に出てくるとエヴァンの胸倉を掴んだ。
シャツの袖が盛り上がる上腕二頭筋で弾けそうになっている。
「ザックロンの言う通りだ。エヴァン、てめえはダンジョンでてんで役に立ってなかったんだ。ちっとくらいここで誠意を見せたらどうなんだ?」
「様子が変だから帰ろうと俺が言ったのを無視して奥に進んでいったのはそっちだけどな」
「てめ…」
ジッカの禿頭に血管が浮かび上がる。
「雑草野郎が!」
ジッカの岩石のような拳がエヴァンの顔面に叩きこまれる。
エヴァンは寸前でそれをかわすと胸倉を掴んでいたジッカの左手を梃子の要領で捻りあげた。
「うおっ?」
突然あらぬ方向から力を加えられたジッカが思わずたたらを踏む。
「聞きわけがない奴にはこうだ」
エヴァンがジッカの額を指で弾いた。
その衝撃でジッカは吹っ飛び、丸テーブルをいくつもなぎ倒しながら壁に激突する。
完全に意識を失ったジッカを目の当たりにして酒場の中は完全に言葉を失っていた。
「ば、馬鹿な…エヴァン、貴様は一体…」
「言っとくけど先に殴りかかってきたのはあいつだぜ。これは正当防衛だからな」
エヴァンは青ざめた顔で睨みつけてくるザックロンに肩をすくめてみせた。
「おい、今の見たか?ジッカが一撃でやられたぞ」
「ジッカは狼級だろ?なんで麦束級のエヴァンなんかに…」
「じゃあ奴が竜骨のダンジョンを攻略したってのも本当なのか…?」
周りで見ていた冒険者たちも騒然となっている。
「お待たせいたしました、エヴァン様。認定が済みま……一体どうしたのですか?」
戻ってきたオザドがただならぬ雰囲気に不思議そうな顔で酒場を見渡した。
「なんでもないよ。じゃあ詳しく聞かせてもらおうか」
エヴァンは涼しい顔でカウンターへと足を向けた。
「そ、それではまずエヴァン様の冒険者ランクから説明させていただきます」
オザドは口髭を捻りながらエヴァンの前に鉄でできた認定証を差し出した。
表面には大きく枝を伸ばした樫の木の意匠とエヴァンの名前が彫られている。
「結論から申しますとエヴァン様は樫級の冒険者に昇格いたしました」
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