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第3章:南海の決闘
第163話:オミッドの豹変
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「キールを!?一体何が起こっているんだ!?」
思わず大声を出したルークは周囲に人がいることに気付いて慌ててタイラを竜車の中へ連れて行った。
「詳しく聞かせてくれないか。キールの身に何が?」
「キール姉ちゃんは……捕まっちゃったんだ」
タイラが泣き声混じりに訴える。
「捕まった?まさか……リヴァスラ氏族に?」
「ううん、違うんだ」
タイラが頭を振る。
「キール姉ちゃんはエラントさんに捕まったんだ」
「エラントさんに?何故なんだ?2人は同じ仲間だったのでは?詳しく説明してくれないか」
「わからない、全然わからないよ」
タイラは更に激しく頭を振った。
「キール姉ちゃんは島に戻ってきてからずっとエラントさんと言い合いをしてたんだ。エラントさんは魔族と戦おうとしてたけどキール姉ちゃんはそれに反対してて、それで昨日いきなりキール姉ちゃんが村の人たちに連れていかれちゃったんだ」
「まさか、そんなことになっていたなんて……」
どうやらオステン島の事情はルークが思い描いていた以上に限界に来ているらしい。
「誰もキール姉ちゃんのことを助けてくれないから俺、どうしたらいいのかわかんなくて……その時にルークさんのことを思い出して。迷惑なのはわかってるけど……」
タイラが目に涙を浮かべながらうつむく。
「迷惑なんてとんでもない、むしろよく来てくれたとお礼を言いたいくらいだよ」
ルークはタイラの前にしゃがみ込むとその肩に手を置いた。
「キールは僕がきっと助けてみせるから安心するんだ」
「僕たちが、でしょ」
アルマが訂正する。
「キールが危険なら黙って見てるわけにはいかないものね」
「アルマ、ありがとう。君がいれば心強いよ」
ルークは頷くと竜車から飛び出した。
「早速行こう、今から行けば今日中に島につけるはずだ」
しかしタイラは悲しそうにうなだれるばかりだった。
「駄目なんだ。こっちに来る途中でリヴァスラの奴らに襲われて取られちゃって……俺だけ泳いできたんだ。だから……船がないんだ」
「そんな……じゃあどうやって行けば……」
「どうかしましたかな」
思わず天を仰ぎ見たルークの背後で声がした。
「ウィルキンソン卿?」
そこにいたのはオミッドだった。
ルークたちの声を聞いてやってきたのだろうか。
「実はオステン島の友人の身に危険が迫っているんです。船を一隻お借り願えませんか?」
「なるほど、事情は分かりました」
ルークの説明を聞いたオミッドが重々しく頷く。。
しかしその後に続く言葉はルークの期待を裏切るものだった。
「しかし残念ながらそれはできませんな」
「何故ですか!?」
「ルーク殿もわかっているはずです。今の南方領土を取り巻く状況を。特にオステン島は繊細な場所になっているのです。あなたの行動が内政干渉と取られれば我が国にとって不利益をもたらすことにもなりかねないのですよ」
「そ、それは……」
ルークには返す言葉がなかった。
オミッドの言葉にも一理ある……と言えるだろう。
オステン島は小島とはいえ自治権を持った独立国家だ。
アロガス王国の貴族であるルークが行けば魔族に付け入る口実を与えかねないというオミッドの意見はもっともだった。
それでもルークは行かねばならないと確信していた。
行かなければもっと大変なことになるとルークの勘が告げている。
(こうなったら漁船を借りてでも……)
「言っておきますが民間の船を借りようとしても無駄ですよ。あなたたちに船を貸さないように通達を出しておりますから」
「な……」
これにはルークも絶句するしかなかった。
「あ、あなたは何を考えているんですか!?何故そこまでして僕らがオステン島に行くのを止めようとしているんですか!?」
「何故?それは何度も申し上げているでしょう。あなた方の行動がこの国を危機にさらすことになるからだと」
「でも現にオステン島の住人が助けを求めているんですよ?オステン島はアロガス王国にとって重要な取引相手だと言っていたのはあなたじゃないですか!なのに今のあなたはまるでオステン島を見捨てても構わないと言ってるようにしか見えない!」
妙に頑ななオミッドにルークの語気が荒くなる。
しかしオミッドの姿勢は変わらない。
むしろその表情には今の状況を面白がっているような節すらあった。
「どう取ってもらっても結構です。しかし所詮あなた方は部外者なのですよ。南方領土のことは私に任せていただきたい」
「ルークさん……」
タイラが不安そうな顔でルークを見上げる。
「せめて、この子だけでも帰すわけにはいきませんか」
「なんと言おうと駄目なものは駄目です。そのタイラとて本来ならば不法入国に当たるのですよ。まあ拘束などという荒っぽいことをするつもりはありませんが、状況が落ち着くまではこちらで保護しておきますよ」
せせら笑うようにオミッドが答える。
「少なくともここ南方領土からあなたが出航するのは不可能だと思ってください」
「クッ……」
「ならば我が領土から出るのというのはどうだ」
悔しそうに歯噛みをした時、ルークの背後から声がした。
「バーランジー卿!?」
そこに立っていたのはバルバッサ・バーランジーだった。
思わず大声を出したルークは周囲に人がいることに気付いて慌ててタイラを竜車の中へ連れて行った。
「詳しく聞かせてくれないか。キールの身に何が?」
「キール姉ちゃんは……捕まっちゃったんだ」
タイラが泣き声混じりに訴える。
「捕まった?まさか……リヴァスラ氏族に?」
「ううん、違うんだ」
タイラが頭を振る。
「キール姉ちゃんはエラントさんに捕まったんだ」
「エラントさんに?何故なんだ?2人は同じ仲間だったのでは?詳しく説明してくれないか」
「わからない、全然わからないよ」
タイラは更に激しく頭を振った。
「キール姉ちゃんは島に戻ってきてからずっとエラントさんと言い合いをしてたんだ。エラントさんは魔族と戦おうとしてたけどキール姉ちゃんはそれに反対してて、それで昨日いきなりキール姉ちゃんが村の人たちに連れていかれちゃったんだ」
「まさか、そんなことになっていたなんて……」
どうやらオステン島の事情はルークが思い描いていた以上に限界に来ているらしい。
「誰もキール姉ちゃんのことを助けてくれないから俺、どうしたらいいのかわかんなくて……その時にルークさんのことを思い出して。迷惑なのはわかってるけど……」
タイラが目に涙を浮かべながらうつむく。
「迷惑なんてとんでもない、むしろよく来てくれたとお礼を言いたいくらいだよ」
ルークはタイラの前にしゃがみ込むとその肩に手を置いた。
「キールは僕がきっと助けてみせるから安心するんだ」
「僕たちが、でしょ」
アルマが訂正する。
「キールが危険なら黙って見てるわけにはいかないものね」
「アルマ、ありがとう。君がいれば心強いよ」
ルークは頷くと竜車から飛び出した。
「早速行こう、今から行けば今日中に島につけるはずだ」
しかしタイラは悲しそうにうなだれるばかりだった。
「駄目なんだ。こっちに来る途中でリヴァスラの奴らに襲われて取られちゃって……俺だけ泳いできたんだ。だから……船がないんだ」
「そんな……じゃあどうやって行けば……」
「どうかしましたかな」
思わず天を仰ぎ見たルークの背後で声がした。
「ウィルキンソン卿?」
そこにいたのはオミッドだった。
ルークたちの声を聞いてやってきたのだろうか。
「実はオステン島の友人の身に危険が迫っているんです。船を一隻お借り願えませんか?」
「なるほど、事情は分かりました」
ルークの説明を聞いたオミッドが重々しく頷く。。
しかしその後に続く言葉はルークの期待を裏切るものだった。
「しかし残念ながらそれはできませんな」
「何故ですか!?」
「ルーク殿もわかっているはずです。今の南方領土を取り巻く状況を。特にオステン島は繊細な場所になっているのです。あなたの行動が内政干渉と取られれば我が国にとって不利益をもたらすことにもなりかねないのですよ」
「そ、それは……」
ルークには返す言葉がなかった。
オミッドの言葉にも一理ある……と言えるだろう。
オステン島は小島とはいえ自治権を持った独立国家だ。
アロガス王国の貴族であるルークが行けば魔族に付け入る口実を与えかねないというオミッドの意見はもっともだった。
それでもルークは行かねばならないと確信していた。
行かなければもっと大変なことになるとルークの勘が告げている。
(こうなったら漁船を借りてでも……)
「言っておきますが民間の船を借りようとしても無駄ですよ。あなたたちに船を貸さないように通達を出しておりますから」
「な……」
これにはルークも絶句するしかなかった。
「あ、あなたは何を考えているんですか!?何故そこまでして僕らがオステン島に行くのを止めようとしているんですか!?」
「何故?それは何度も申し上げているでしょう。あなた方の行動がこの国を危機にさらすことになるからだと」
「でも現にオステン島の住人が助けを求めているんですよ?オステン島はアロガス王国にとって重要な取引相手だと言っていたのはあなたじゃないですか!なのに今のあなたはまるでオステン島を見捨てても構わないと言ってるようにしか見えない!」
妙に頑ななオミッドにルークの語気が荒くなる。
しかしオミッドの姿勢は変わらない。
むしろその表情には今の状況を面白がっているような節すらあった。
「どう取ってもらっても結構です。しかし所詮あなた方は部外者なのですよ。南方領土のことは私に任せていただきたい」
「ルークさん……」
タイラが不安そうな顔でルークを見上げる。
「せめて、この子だけでも帰すわけにはいきませんか」
「なんと言おうと駄目なものは駄目です。そのタイラとて本来ならば不法入国に当たるのですよ。まあ拘束などという荒っぽいことをするつもりはありませんが、状況が落ち着くまではこちらで保護しておきますよ」
せせら笑うようにオミッドが答える。
「少なくともここ南方領土からあなたが出航するのは不可能だと思ってください」
「クッ……」
「ならば我が領土から出るのというのはどうだ」
悔しそうに歯噛みをした時、ルークの背後から声がした。
「バーランジー卿!?」
そこに立っていたのはバルバッサ・バーランジーだった。
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