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第2章:勇者と商人
第95話:大反響
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「なんだよ姉ちゃんまた来たのかよ。言っとくけどいくら売り込んでも買えねえぞ」
レストランのシェフがナターリアを見て顔をしかめる。
「ふっふっふ、そんなことを言ってもいいのかな。言っとくけど今回の私は一味違うよ」
得意げな笑みを浮かべながらナターリアが懐からファルクスの認可証を取り出した。
「今回の私はコンドール商会の名代として来ているのだ!」
「なんだって?あの爺さんまだ生きてやがんのかよ?」
「生きてる生きてる、元気ピンピンよ。今回はししょ……じゃなくて商会長が特別に仕入れた商品の営業に来たのよ。この店は昔からの付き合いだから真っ先に挨拶に行けとお達しでね」
「上手いこと言うもんね」
シシリーが小声で感心している。
「ちぇ、あの爺さんにゃ昔世話になったからな、無下にするわけにもいかねえか。しょうがねえ、中に入んな」
シェフが顎で店のドアを示した。
◆
「な、なんだこりゃあ?」
クリート酒を一口飲んだシェフが目を丸くする。
「信じらんねえ、これがクリート酒だってえのかよ。これと比べたらこの店に置いてるどの酒も泥水だぜ」
「こいつは新しい製法で作られてんのよ。詳しくは秘密だけどね。どうよ?こいつは人気が出ると思わない?」
「ま、まあ確かにこいつだったらうちで扱ってやっても良いかもな。そうだな……試しに1本、いや3本くらい置いてやってもいいぜ?」
「残念、これはまだ試作だから1軒につき1本と決めてるんだよね。必要になったら連絡してよ。じゃあね!」
「お、おい、ちょっと……」
引き留めようとするシェフを尻目にナターリアはルークたちを連れたレストランを出て行った。
「……っしゃああああ!」
外に出た途端にナターリアとシシリーは盛大にハイタッチをした。
「よっしゃよっしゃ!これではっきりした、これは売れる!絶対に売れるよ!」
「いやわかってた!わかってたよ!よーし、この調子で売りまくるよ~」
手応えに気炎を上げる2人を見てアルマが苦笑をしている。
「でも1本は流石に可哀そうだったんじゃ……前に邪険にされたからってのはわかるけど」
「「甘い!」」
ナターリアとシシリーの声がはもる。
「言っとくけど別に意地悪されたからじゃないからね。あれくらいの反応は売り込みやってたら日常茶飯事よ」
「そうそう、それに今は売り込みの時なんだから1本でも多く色んな所に売っていかないと。他の店に売る分が1本少なくなったら未来の10本が消えるんだから!」
「流石シシリー、よくわかってる!」
「あたぼうよ!」
2人の意気は留まることを知らない。
「と、とりあえずちょっと落ち着こうか。このままだとみんなが怖がるから」
ルークは若干引きながら2人の手を取って歩き出した。
通行人が何事かとこちらを見ている。
「でもこの調子だったら持ってきた分はすぐになくなりそうだね。追加注文も期待できそうだ」
「もちろんそうでなくっちゃ!」
ルークたちは連れ立って次の店へと足を進めた。
◆
「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」
5人がグラスを打ち鳴らす音が酒場に響き渡った。
「いや~、こんなに美味い酒は初めてだわ!」
グラスを空けたナターリアが歓喜の声をあげる。
「まさか1日で全部売り切るなんてね!これって夢?実は夢だったりしない?」
「夢の訳ないって!夢だったらこんなもんじゃ済まないよ!夢なら今頃私たちは大富豪になってるって!」
シシリーが合いの手を入れながら爆笑する。
2人がはしゃぐのも無理はなかった。
クリート村から持ってきた50本の酒はその日の昼過ぎには全てなくなってしまったからだ。
その場で追加の注文をしてきた者も1人や2人では効かず、既に1000本を超える追加注文も入っている。
「まさかここまで売れるなんてね。これは予想外だったよ」
「私も。美味しいお酒だとは思ったけど……」
「私もです。村で作ったお酒がこんなに反響があるなんて」
「正直言って私は予想してたよ」
驚くルークとアルマ、リアに向かってナターリアは手をヒラヒラと振ってみせた。
「ぶっちゃけるとここの酒は酷いものなのよ。酒類商組合が蒸留所と酒屋の両方から賄賂を受け取って不正に見てみぬふりをしてるから酒の質は下がる一方。みんな質の悪い酒にはうんざりしてるとこなの」
「ファルクスさんの言っていた通り、これもクラヴィの影響なんだね」
ルークがため息をつく。
酒類商組合はクラヴィの支配下にあり、水増しや偽物が横行しているとファルクスが言っていた。
おそらくそのことも見越して協力してくれたのかもしれない。
そしてそれがどうやら事実であることはクリート酒の反響が実証している。
「そう言えばファルクスさんはクラヴィと敵対しているけど大丈夫なのかな?途中で邪魔されたりしない?」
かつてファルクスは悪辣なクラヴィに対抗するために派閥を結成したことがあるのだという。
しかし政治力で勝るクラヴィに出し抜かれ、それどころか彼の息のかかった仲間に裏切られて全財産を失ってしまったのだ。
辛うじてメルカポリスで商売をするための認可証だけは守り抜いたが当時の遺恨は今も残っており、まともに商売をすることも叶わないのだった。
「それは間違いなくあると思う。だから店で売る時は師匠の名前を出さないようにお願いしてるんだ」
ナターリアが串焼きの串をくるくると振り回した。
シシリーが骨付き肉にかぶりつきながら後を続ける。
「酒のラベルにもナターリアのナイトレイ商会という名前しか載せてないしね。いずれ気付かれるだろうけど、その時には手の出しようがない位まで広めるつもり。人気が出ちゃえば向こうも表立って潰すわけにはいかなくなるからね」
「そこまで考えてたんだ」
「当たり前よ!商売は拙速を尊ぶべし!商売の基本なんだから!」
肩を組みながらグラスを掲げるナターリアとシシリー。
「我々の更なる勝利に!」
「勝利に!」
グラスを打ち鳴らす音が再び酒場の中に響いた。
レストランのシェフがナターリアを見て顔をしかめる。
「ふっふっふ、そんなことを言ってもいいのかな。言っとくけど今回の私は一味違うよ」
得意げな笑みを浮かべながらナターリアが懐からファルクスの認可証を取り出した。
「今回の私はコンドール商会の名代として来ているのだ!」
「なんだって?あの爺さんまだ生きてやがんのかよ?」
「生きてる生きてる、元気ピンピンよ。今回はししょ……じゃなくて商会長が特別に仕入れた商品の営業に来たのよ。この店は昔からの付き合いだから真っ先に挨拶に行けとお達しでね」
「上手いこと言うもんね」
シシリーが小声で感心している。
「ちぇ、あの爺さんにゃ昔世話になったからな、無下にするわけにもいかねえか。しょうがねえ、中に入んな」
シェフが顎で店のドアを示した。
◆
「な、なんだこりゃあ?」
クリート酒を一口飲んだシェフが目を丸くする。
「信じらんねえ、これがクリート酒だってえのかよ。これと比べたらこの店に置いてるどの酒も泥水だぜ」
「こいつは新しい製法で作られてんのよ。詳しくは秘密だけどね。どうよ?こいつは人気が出ると思わない?」
「ま、まあ確かにこいつだったらうちで扱ってやっても良いかもな。そうだな……試しに1本、いや3本くらい置いてやってもいいぜ?」
「残念、これはまだ試作だから1軒につき1本と決めてるんだよね。必要になったら連絡してよ。じゃあね!」
「お、おい、ちょっと……」
引き留めようとするシェフを尻目にナターリアはルークたちを連れたレストランを出て行った。
「……っしゃああああ!」
外に出た途端にナターリアとシシリーは盛大にハイタッチをした。
「よっしゃよっしゃ!これではっきりした、これは売れる!絶対に売れるよ!」
「いやわかってた!わかってたよ!よーし、この調子で売りまくるよ~」
手応えに気炎を上げる2人を見てアルマが苦笑をしている。
「でも1本は流石に可哀そうだったんじゃ……前に邪険にされたからってのはわかるけど」
「「甘い!」」
ナターリアとシシリーの声がはもる。
「言っとくけど別に意地悪されたからじゃないからね。あれくらいの反応は売り込みやってたら日常茶飯事よ」
「そうそう、それに今は売り込みの時なんだから1本でも多く色んな所に売っていかないと。他の店に売る分が1本少なくなったら未来の10本が消えるんだから!」
「流石シシリー、よくわかってる!」
「あたぼうよ!」
2人の意気は留まることを知らない。
「と、とりあえずちょっと落ち着こうか。このままだとみんなが怖がるから」
ルークは若干引きながら2人の手を取って歩き出した。
通行人が何事かとこちらを見ている。
「でもこの調子だったら持ってきた分はすぐになくなりそうだね。追加注文も期待できそうだ」
「もちろんそうでなくっちゃ!」
ルークたちは連れ立って次の店へと足を進めた。
◆
「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」
5人がグラスを打ち鳴らす音が酒場に響き渡った。
「いや~、こんなに美味い酒は初めてだわ!」
グラスを空けたナターリアが歓喜の声をあげる。
「まさか1日で全部売り切るなんてね!これって夢?実は夢だったりしない?」
「夢の訳ないって!夢だったらこんなもんじゃ済まないよ!夢なら今頃私たちは大富豪になってるって!」
シシリーが合いの手を入れながら爆笑する。
2人がはしゃぐのも無理はなかった。
クリート村から持ってきた50本の酒はその日の昼過ぎには全てなくなってしまったからだ。
その場で追加の注文をしてきた者も1人や2人では効かず、既に1000本を超える追加注文も入っている。
「まさかここまで売れるなんてね。これは予想外だったよ」
「私も。美味しいお酒だとは思ったけど……」
「私もです。村で作ったお酒がこんなに反響があるなんて」
「正直言って私は予想してたよ」
驚くルークとアルマ、リアに向かってナターリアは手をヒラヒラと振ってみせた。
「ぶっちゃけるとここの酒は酷いものなのよ。酒類商組合が蒸留所と酒屋の両方から賄賂を受け取って不正に見てみぬふりをしてるから酒の質は下がる一方。みんな質の悪い酒にはうんざりしてるとこなの」
「ファルクスさんの言っていた通り、これもクラヴィの影響なんだね」
ルークがため息をつく。
酒類商組合はクラヴィの支配下にあり、水増しや偽物が横行しているとファルクスが言っていた。
おそらくそのことも見越して協力してくれたのかもしれない。
そしてそれがどうやら事実であることはクリート酒の反響が実証している。
「そう言えばファルクスさんはクラヴィと敵対しているけど大丈夫なのかな?途中で邪魔されたりしない?」
かつてファルクスは悪辣なクラヴィに対抗するために派閥を結成したことがあるのだという。
しかし政治力で勝るクラヴィに出し抜かれ、それどころか彼の息のかかった仲間に裏切られて全財産を失ってしまったのだ。
辛うじてメルカポリスで商売をするための認可証だけは守り抜いたが当時の遺恨は今も残っており、まともに商売をすることも叶わないのだった。
「それは間違いなくあると思う。だから店で売る時は師匠の名前を出さないようにお願いしてるんだ」
ナターリアが串焼きの串をくるくると振り回した。
シシリーが骨付き肉にかぶりつきながら後を続ける。
「酒のラベルにもナターリアのナイトレイ商会という名前しか載せてないしね。いずれ気付かれるだろうけど、その時には手の出しようがない位まで広めるつもり。人気が出ちゃえば向こうも表立って潰すわけにはいかなくなるからね」
「そこまで考えてたんだ」
「当たり前よ!商売は拙速を尊ぶべし!商売の基本なんだから!」
肩を組みながらグラスを掲げるナターリアとシシリー。
「我々の更なる勝利に!」
「勝利に!」
グラスを打ち鳴らす音が再び酒場の中に響いた。
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