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第1章:ルーク・サーベリーの帰還
第53話:大規模討伐
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大規模討伐はまず浅層を担当する部隊から入っていき、深層部へのルートを確保してから後続が展開する運びとなっている。
そのためにルークたちがダンジョンの中に入っていったのはずいぶんと後になってからだった。
「元神殿だけあってダンジョンと言っても立派なのね」
辺りを見渡しながら興味深そうにアルマが呟く。
壁も床も石造りでところどころに魔光松明が設置されているので歩くのに不便はない。
「この辺りに出る魔獣は先遣隊が対処してるから下まで問題なく行けるはずでさ」
「そう言えば大規模討伐は成果によって報奨金が出るのよね。どうやってそれを計算するのかしら」
「それはわたくしが行います」
羊皮紙を手にした線の細い黒髪の男が答えた。
「ご挨拶が遅れました、わたくしはホルスト・ライトと申します。今回ランパート隊の記録係を務めさせていただきます。王宮書記官として公平な記録を行いますのでご安心ください」
「な、なるほど、流石は大規模討伐。記録する人も同行するのね」
こうしてランパート隊は記録係のホルストを共にしてダンジョンを下へ下へと潜っていくのだった。
「ひいいいいいいっ!!!」
絹を引き裂くような悲鳴が聞こえてきたのは5層まで下りた時だった。
下に降りる階段へと向かっていたルークたちの元に走り寄ってくる人影がある。
「トリナル・トリプルズ?」
それはトミー、トムソン、トーマスの3人組だった。
3人とも涙を浮かべてこけつまろびつこちらに向かってくる。
既に満身創痍で走るのもやっとという有様だ。
そしてその後ろから……3人を追いかけてくる魔獣の姿があった。
巨大な蜘蛛の形をした魔獣、鬼蜘蛛だ。
「な、なんだこいつは!?魔法が全然効かないぞ!」
「毒だ!毒にやられた!助けてくれえええ!!」
「ひいいいい、もう駄目だあああああ!」
3人はやみくもに魔法を放っているが鬼蜘蛛は全く動じることなく追いかけてくる。
ルークが飛び出した。
3人の間をすり抜け、覆いかぶさってくる鬼蜘蛛の腹部に剣を突き立てる。
同時に頭上から滴り落ちる唾液と刺し傷から吹き出る体液を素早くケープで庇う。
耐魔法処理を施したケープが煙を上げながら溶けていく。
鬼蜘蛛はしばらくもがいていたがやがて動かなくなり、魔素へと変換されていった。
「鬼蜘蛛に魔法は効かないんですよ。学園でも習ったはずなんですけどね。それにしてもこんな浅層にまで出てくるなんて……」
ルークは剣についた体液を振り払いながら驚くように呟く。
「毒だ!誰か解毒魔法をかけてくれ!」
「解毒薬でもいい!誰か持ってないのか!」
「パパァ!ママァ!痛い、痛いよう!」
トリナル・トリプルズは完全にパニックに陥っていた。
「落ち着いてください。鬼蜘蛛の毒は即効性じゃないから慌てなくても大丈夫です」
「ふざけるな!僕らはアヴァリス卿の息子だぞ!僕らに何かあったら貴様らただでは済まないぞ!」
ルークの言葉も耳に入っていないようだ。
それどころかルークに助けられたことすら気付いていない。
「おーい、お前ら何をやってるんだ!さっさと持ち場に戻れ!」
ダンジョンの奥から怒号と共に別の兵士が駆け寄ってきた。
「ったく、魔獣を見るなりパニックになって逃げやがって……これだから王宮衛兵隊のお坊ちゃんは……こ、これはランパート辺境伯!」
追いかけてきた兵士がウィルフレッド卿の姿を認めて最敬礼をする。
「も、申し訳ありません!魔獣を取り逃がすどころか辺境伯の元へ行かせてしまうなど!お体に大事はありませんか!?」
「我々に被害はない。それよりもこの者たちの手当てを頼む。我々は下へ向かわねばならぬのでな」
「ラ、ランパート辺境伯……?ということは……?」
3人もここでようやく自分たちが誰に助けられたのかを悟ったようだ。
「大事がなくて良かったですね」
「ふ……ふざけるな!」
羞恥に塗れた顔でトミーが吠えた。
「い、言っておくが貴様に助けを求めた訳じゃないからな!このくらいで調子に乗るんじゃないぞ!」
トムソンが相づちを打つ。
「そ、そうとも!今のは少し、そう少し取り乱しただけだ!我々の本来の実力だったらあんな魔獣ごとき……」
「貴様らいい加減にしろ!」
「ひっ!」
兵士の叱責に3人が身をすくませる。
「貴様らの失態のせいで他の隊に迷惑をかけたのだ!貴様らが王宮衛兵隊だろうが軍人であるなら与えられた任務はきっちりこなせ!わかったか!」
「は、はいぃっ!」
「わかったら今すぐ持ち場に戻れ!魔獣はまだいるんだぞ!解毒薬なら治療班が持っている、他の隊に迷惑をかけるな!」
「はいいっ」
兵士の怒号に3人はおたおたと走り去っていった。
「まったく、浅層だからと甘く見てる奴が多くて困りますよ。すいません、余計なお手間を取らせてしまって」
兵士は額の汗を拭うと笑いかけた。
「なに、大したことではないよ。それよりも任務ご苦労だった。君のような兵士がいるならこの層も安心だな」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
兵士はウィルフレッド卿に敬礼すると真剣な顔で言葉を続けた。
「それよりもお気を付けください。今回は魔獣の数が多く、かつ浅層にも鬼蜘蛛のような魔獣が現れています。おそらく今まで以上に危険な討伐になるかと」
「わかった、心しておこう」
兵士は再びウィルフレッド卿に敬礼をするとルークの方に向き直った。
「その白髪、君はひょっとして……以前セントアロガスで誘拐されていた女性たちを救った……」
「はい、でも何故それを?」
「おお!やっぱりか!」
兵士が全身を喜びに震わせながらルークを抱きしめた。
「妹が君たちに救われたんだ!なんとお礼を言っていいのか!」
「そうだったんですか、妹さんが無事でよかったです」
「ああ!もう見つけるのは無理だと絶望しかけていたんだ!君のおかげで家族全員が救われたよ!」
兵士はそう叫ぶと胸部に拳を当てた。
「俺はセントアロガス周辺警護隊所属のジャック・ワーズだ!妹を助けてもらった恩は必ず返すと約束する」
「僕はルークと言います。こちらはあの時一緒に妹さんを助けたアルマです」
「なんと!ランパート辺境伯のご息女でしたか!妹を助けていただき本当にありがとうございます!」
「いえ、私は大したことは……」
3人は自己紹介をしながら固い握手を交わした。
「この討伐が終わったら妹に会いに来てくれ!君たちに一言お礼がしたいといつも言っているんだ」
ジャックはそう言うと手を振りながら持ち場に戻っていった。
「さて、我々も先を急ぐとするか。後続に追いつかれてしまうからな」
ランパート隊は再び侵攻を開始した。
歩きながらアルマがルークに笑いかける。
「ルーク、良かったね」
ルークは朗らかな笑みを返した。
「うん、僕らのやったことは間違いじゃなかった」
「ルーク氏、5層にて鬼蜘蛛を1体討伐」
ホルストが羊皮紙に書き留めた。
そのためにルークたちがダンジョンの中に入っていったのはずいぶんと後になってからだった。
「元神殿だけあってダンジョンと言っても立派なのね」
辺りを見渡しながら興味深そうにアルマが呟く。
壁も床も石造りでところどころに魔光松明が設置されているので歩くのに不便はない。
「この辺りに出る魔獣は先遣隊が対処してるから下まで問題なく行けるはずでさ」
「そう言えば大規模討伐は成果によって報奨金が出るのよね。どうやってそれを計算するのかしら」
「それはわたくしが行います」
羊皮紙を手にした線の細い黒髪の男が答えた。
「ご挨拶が遅れました、わたくしはホルスト・ライトと申します。今回ランパート隊の記録係を務めさせていただきます。王宮書記官として公平な記録を行いますのでご安心ください」
「な、なるほど、流石は大規模討伐。記録する人も同行するのね」
こうしてランパート隊は記録係のホルストを共にしてダンジョンを下へ下へと潜っていくのだった。
「ひいいいいいいっ!!!」
絹を引き裂くような悲鳴が聞こえてきたのは5層まで下りた時だった。
下に降りる階段へと向かっていたルークたちの元に走り寄ってくる人影がある。
「トリナル・トリプルズ?」
それはトミー、トムソン、トーマスの3人組だった。
3人とも涙を浮かべてこけつまろびつこちらに向かってくる。
既に満身創痍で走るのもやっとという有様だ。
そしてその後ろから……3人を追いかけてくる魔獣の姿があった。
巨大な蜘蛛の形をした魔獣、鬼蜘蛛だ。
「な、なんだこいつは!?魔法が全然効かないぞ!」
「毒だ!毒にやられた!助けてくれえええ!!」
「ひいいいい、もう駄目だあああああ!」
3人はやみくもに魔法を放っているが鬼蜘蛛は全く動じることなく追いかけてくる。
ルークが飛び出した。
3人の間をすり抜け、覆いかぶさってくる鬼蜘蛛の腹部に剣を突き立てる。
同時に頭上から滴り落ちる唾液と刺し傷から吹き出る体液を素早くケープで庇う。
耐魔法処理を施したケープが煙を上げながら溶けていく。
鬼蜘蛛はしばらくもがいていたがやがて動かなくなり、魔素へと変換されていった。
「鬼蜘蛛に魔法は効かないんですよ。学園でも習ったはずなんですけどね。それにしてもこんな浅層にまで出てくるなんて……」
ルークは剣についた体液を振り払いながら驚くように呟く。
「毒だ!誰か解毒魔法をかけてくれ!」
「解毒薬でもいい!誰か持ってないのか!」
「パパァ!ママァ!痛い、痛いよう!」
トリナル・トリプルズは完全にパニックに陥っていた。
「落ち着いてください。鬼蜘蛛の毒は即効性じゃないから慌てなくても大丈夫です」
「ふざけるな!僕らはアヴァリス卿の息子だぞ!僕らに何かあったら貴様らただでは済まないぞ!」
ルークの言葉も耳に入っていないようだ。
それどころかルークに助けられたことすら気付いていない。
「おーい、お前ら何をやってるんだ!さっさと持ち場に戻れ!」
ダンジョンの奥から怒号と共に別の兵士が駆け寄ってきた。
「ったく、魔獣を見るなりパニックになって逃げやがって……これだから王宮衛兵隊のお坊ちゃんは……こ、これはランパート辺境伯!」
追いかけてきた兵士がウィルフレッド卿の姿を認めて最敬礼をする。
「も、申し訳ありません!魔獣を取り逃がすどころか辺境伯の元へ行かせてしまうなど!お体に大事はありませんか!?」
「我々に被害はない。それよりもこの者たちの手当てを頼む。我々は下へ向かわねばならぬのでな」
「ラ、ランパート辺境伯……?ということは……?」
3人もここでようやく自分たちが誰に助けられたのかを悟ったようだ。
「大事がなくて良かったですね」
「ふ……ふざけるな!」
羞恥に塗れた顔でトミーが吠えた。
「い、言っておくが貴様に助けを求めた訳じゃないからな!このくらいで調子に乗るんじゃないぞ!」
トムソンが相づちを打つ。
「そ、そうとも!今のは少し、そう少し取り乱しただけだ!我々の本来の実力だったらあんな魔獣ごとき……」
「貴様らいい加減にしろ!」
「ひっ!」
兵士の叱責に3人が身をすくませる。
「貴様らの失態のせいで他の隊に迷惑をかけたのだ!貴様らが王宮衛兵隊だろうが軍人であるなら与えられた任務はきっちりこなせ!わかったか!」
「は、はいぃっ!」
「わかったら今すぐ持ち場に戻れ!魔獣はまだいるんだぞ!解毒薬なら治療班が持っている、他の隊に迷惑をかけるな!」
「はいいっ」
兵士の怒号に3人はおたおたと走り去っていった。
「まったく、浅層だからと甘く見てる奴が多くて困りますよ。すいません、余計なお手間を取らせてしまって」
兵士は額の汗を拭うと笑いかけた。
「なに、大したことではないよ。それよりも任務ご苦労だった。君のような兵士がいるならこの層も安心だな」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
兵士はウィルフレッド卿に敬礼すると真剣な顔で言葉を続けた。
「それよりもお気を付けください。今回は魔獣の数が多く、かつ浅層にも鬼蜘蛛のような魔獣が現れています。おそらく今まで以上に危険な討伐になるかと」
「わかった、心しておこう」
兵士は再びウィルフレッド卿に敬礼をするとルークの方に向き直った。
「その白髪、君はひょっとして……以前セントアロガスで誘拐されていた女性たちを救った……」
「はい、でも何故それを?」
「おお!やっぱりか!」
兵士が全身を喜びに震わせながらルークを抱きしめた。
「妹が君たちに救われたんだ!なんとお礼を言っていいのか!」
「そうだったんですか、妹さんが無事でよかったです」
「ああ!もう見つけるのは無理だと絶望しかけていたんだ!君のおかげで家族全員が救われたよ!」
兵士はそう叫ぶと胸部に拳を当てた。
「俺はセントアロガス周辺警護隊所属のジャック・ワーズだ!妹を助けてもらった恩は必ず返すと約束する」
「僕はルークと言います。こちらはあの時一緒に妹さんを助けたアルマです」
「なんと!ランパート辺境伯のご息女でしたか!妹を助けていただき本当にありがとうございます!」
「いえ、私は大したことは……」
3人は自己紹介をしながら固い握手を交わした。
「この討伐が終わったら妹に会いに来てくれ!君たちに一言お礼がしたいといつも言っているんだ」
ジャックはそう言うと手を振りながら持ち場に戻っていった。
「さて、我々も先を急ぐとするか。後続に追いつかれてしまうからな」
ランパート隊は再び侵攻を開始した。
歩きながらアルマがルークに笑いかける。
「ルーク、良かったね」
ルークは朗らかな笑みを返した。
「うん、僕らのやったことは間違いじゃなかった」
「ルーク氏、5層にて鬼蜘蛛を1体討伐」
ホルストが羊皮紙に書き留めた。
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