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第1章:ルーク・サーベリーの帰還
第49話:追いつめられる2人の貴族
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「単刀直入に言わせてもらいます、ウィルフレッド卿の一人娘であるアルマが誘拐されました。しかもどうやら組織的な犯行らしいのです。幸い依頼主に引き渡される前に賊共を取り押さえることができたのですが少し気になることがありまして、どうやら賊共はアルマを騙すのにグリード叔父さん、あなたの馬車を使った疑いがあるのです。今回はその件についてお話を聞きたくて参りました」
ルークはグリードが入ってくるなりそう切り出した。
グリードの顔面からどっと汗が噴き出る。
「どどど、どういうことかな?わ、儂には何のことやらとんとわからんのだが」
(クソクソクソ、あいつらヘマをしやがったのか!何がウィルフレッド卿が留守の間にやるから絶対に上手くいくだ!無能どもめ!)
内心毒舌をまき散らしながらもグリードは必死に取り繕おうとした。
頭を軽く振りながらルークが話を続ける。
「事実でないならそれでいいんです。件の馬車はこちらで確保してあるので、あなたの馬車を確認させてもらるだけでいいんです?そうすればすぐに疑いは晴れるはずですから」
(できるわけないだろ!儂の馬車なんだから!だから馬車と従者の服を貸すのは嫌だったんだ!それをアヴァリスの奴が無理やり……!)
「そ、そういえばしばらく前に馬車が盗まれてな。困っておったのだよ。探しても見つからないから諦めようとしていたところだったのだ……そ、そうか、悪党どもに盗まれておったのか!アルマ嬢の誘拐に使おうなどとは不届きな奴らだ」
「お為ごかしは止めてください」
ルークがため息をつく。
「実のところ賊は全て白状しているんです。馬車に従者の服、これだけ揃っていて関係ありませんは通らないでしょう」
「ぐぬう……」
グリードが言葉を詰まらせる。
賊たちはグリード卿が黒幕だと言ったわけではないが、白状したという言葉も嘘ではない。
言ってみれば状況証拠だけを並べたルークのはったりなのだが、グリードはすっかりそれに嵌っていた。
「さあ説明してもらえますか。アルマを誘拐した賊とあなたにどういう関係があるのかを」
「し……知らん!儂は何も知らん!」
問い詰められたグリードが遂に切れた。
「だいたい何だ!連絡もなしに大人数で押しかけてくるなど失礼ではないのか!これではまるで脅迫ではないか!」
顔を真っ赤にして口角泡を飛ばしてわめきたてる。
「だ、大体だな!賊とは言え何故ランパート辺境伯が我が領地を我が物顔で取り締まっているのだ。これは領地侵害ではないのかね!?」
「それは変ですね」
その言葉にルークの眼がすっと細くなった。
「何故賊があなたの領地で捕まったと思うのですか。私はそんなこと一言も言っていないのですが」
「あっ……」
口を押さえたが既に遅かった。
「そ、それは……その……」
「グリード卿」
しどろもどろになるグリードに対してそれまで黙っていたウィルフレッド卿がおもむろに立ち上がった。
ゆっくりとグリードに詰め寄るとずいと顔を近づける。
「この際だからはっきり言っておこう。私は命よりも大事な一人娘を攫われかけたのだ。これは決して許せる問題ではない。相手が誰であろうと地の果てまでも追い詰めて必ず報いを受けさせてやる」
ウィルフレッド卿の迫力にグリードはソファにへばりつくようにしながら見上げるしかできなかった。
「今日はそのことを告げに来たのだ。貴卿が話そうと話すまいとこの件は王国の査問委員会に報告して厳密な調査を行ってもらう。覚悟することだな」
ウィルフレッド卿はそれだけ言うとグリードから身を離した。
「今回はこれで失礼する。貴卿にまだ貴族の矜持が残っているなら自らを白日の元にさらすことだ」
「あ、あああ……」
力なくへたり込むグリードを後にウィルフレッド卿とルークは部屋を後にした。
◆
「アヴァリス卿!どうなっているんですか!」
グリードの泣き言がアヴァリスの私室に響き渡る。
「絶対に上手くいくというから馬車などを提供したというのに、これでは私だけが泥をかぶることになってしまうではないか!」
「まあまあ、落ち着きたまえ」
「落ち着いてなどいられるわけがないでしょう!」
グリードは頭を抱えながら落ち着きなく室内を歩き回っている。
「査問委員会が動き出したら誘拐への関与どころじゃない、裏冒険者との繋がりもばれてしまうかもしれない。そうなったら私だけではなくあなたも無事では済みませんぞ」
「グリード卿」
アヴァリスが低い声で唸った。
「それは私を脅しているのか。そのような言葉を貴卿から聞くことになるとは思わなかったぞ」
「あ、いや……」
「ふん。まあ貴卿の焦りもわかる。今のは追い詰められた故の失言として聞き流すことにしよう」
アヴァリスは鼻を鳴らすと腕を組んだ。
「とはいえこのままでは由々しき事態を招きかねないことも事実だ。それだけは避けねばなるまい。とはいえ向こうもこちらの出方には警戒しているだろうから今後はそう簡単に手を出すことは出来ぬだろう。そうなると……」
しばらく考え込んでいたアヴァリスだったが、やがて何かを思いついたように顔を上げるとにやりと笑った。
「グリード卿、ここから先は私がなんとかしよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、貴卿にも手伝ってもらうことになるが、ことが済めば今後あの連中に邪魔されることはなくなるだろう」
邪悪な笑みを浮かべるアヴァリスにグリード卿が固唾を呑み込む。
「貴、貴卿は一体何をするつもりなのですか……?」
「なに、害虫は根本的に排除するに限るという話だよ。そう、徹底的にね」
◆
「これはこれはゲイル王子殿下、本日もご機嫌麗しゅうございますな」
「……つまらぬおべっかなどやめろ。俺は忙しいのだ、さっさと要件を話せ」
ソファに座ったゲイルが不機嫌そうに吐き捨てる。
「これは失礼をば致しました。王子殿下を前にして少々緊張しておりました故、ついつい己を鼓舞するために余計なことを言ってしまいましたな」
ゲイルの前に座したアヴァリスはそういって広がりつつある額をピシャリと叩いた。
「本日はゲイル王子殿下にご提案があって参った次第なのです」
そう言って笑みを浮かべるアヴァリス。
それは獲物を見つけた爬虫類を思わせる顔だった。
ルークはグリードが入ってくるなりそう切り出した。
グリードの顔面からどっと汗が噴き出る。
「どどど、どういうことかな?わ、儂には何のことやらとんとわからんのだが」
(クソクソクソ、あいつらヘマをしやがったのか!何がウィルフレッド卿が留守の間にやるから絶対に上手くいくだ!無能どもめ!)
内心毒舌をまき散らしながらもグリードは必死に取り繕おうとした。
頭を軽く振りながらルークが話を続ける。
「事実でないならそれでいいんです。件の馬車はこちらで確保してあるので、あなたの馬車を確認させてもらるだけでいいんです?そうすればすぐに疑いは晴れるはずですから」
(できるわけないだろ!儂の馬車なんだから!だから馬車と従者の服を貸すのは嫌だったんだ!それをアヴァリスの奴が無理やり……!)
「そ、そういえばしばらく前に馬車が盗まれてな。困っておったのだよ。探しても見つからないから諦めようとしていたところだったのだ……そ、そうか、悪党どもに盗まれておったのか!アルマ嬢の誘拐に使おうなどとは不届きな奴らだ」
「お為ごかしは止めてください」
ルークがため息をつく。
「実のところ賊は全て白状しているんです。馬車に従者の服、これだけ揃っていて関係ありませんは通らないでしょう」
「ぐぬう……」
グリードが言葉を詰まらせる。
賊たちはグリード卿が黒幕だと言ったわけではないが、白状したという言葉も嘘ではない。
言ってみれば状況証拠だけを並べたルークのはったりなのだが、グリードはすっかりそれに嵌っていた。
「さあ説明してもらえますか。アルマを誘拐した賊とあなたにどういう関係があるのかを」
「し……知らん!儂は何も知らん!」
問い詰められたグリードが遂に切れた。
「だいたい何だ!連絡もなしに大人数で押しかけてくるなど失礼ではないのか!これではまるで脅迫ではないか!」
顔を真っ赤にして口角泡を飛ばしてわめきたてる。
「だ、大体だな!賊とは言え何故ランパート辺境伯が我が領地を我が物顔で取り締まっているのだ。これは領地侵害ではないのかね!?」
「それは変ですね」
その言葉にルークの眼がすっと細くなった。
「何故賊があなたの領地で捕まったと思うのですか。私はそんなこと一言も言っていないのですが」
「あっ……」
口を押さえたが既に遅かった。
「そ、それは……その……」
「グリード卿」
しどろもどろになるグリードに対してそれまで黙っていたウィルフレッド卿がおもむろに立ち上がった。
ゆっくりとグリードに詰め寄るとずいと顔を近づける。
「この際だからはっきり言っておこう。私は命よりも大事な一人娘を攫われかけたのだ。これは決して許せる問題ではない。相手が誰であろうと地の果てまでも追い詰めて必ず報いを受けさせてやる」
ウィルフレッド卿の迫力にグリードはソファにへばりつくようにしながら見上げるしかできなかった。
「今日はそのことを告げに来たのだ。貴卿が話そうと話すまいとこの件は王国の査問委員会に報告して厳密な調査を行ってもらう。覚悟することだな」
ウィルフレッド卿はそれだけ言うとグリードから身を離した。
「今回はこれで失礼する。貴卿にまだ貴族の矜持が残っているなら自らを白日の元にさらすことだ」
「あ、あああ……」
力なくへたり込むグリードを後にウィルフレッド卿とルークは部屋を後にした。
◆
「アヴァリス卿!どうなっているんですか!」
グリードの泣き言がアヴァリスの私室に響き渡る。
「絶対に上手くいくというから馬車などを提供したというのに、これでは私だけが泥をかぶることになってしまうではないか!」
「まあまあ、落ち着きたまえ」
「落ち着いてなどいられるわけがないでしょう!」
グリードは頭を抱えながら落ち着きなく室内を歩き回っている。
「査問委員会が動き出したら誘拐への関与どころじゃない、裏冒険者との繋がりもばれてしまうかもしれない。そうなったら私だけではなくあなたも無事では済みませんぞ」
「グリード卿」
アヴァリスが低い声で唸った。
「それは私を脅しているのか。そのような言葉を貴卿から聞くことになるとは思わなかったぞ」
「あ、いや……」
「ふん。まあ貴卿の焦りもわかる。今のは追い詰められた故の失言として聞き流すことにしよう」
アヴァリスは鼻を鳴らすと腕を組んだ。
「とはいえこのままでは由々しき事態を招きかねないことも事実だ。それだけは避けねばなるまい。とはいえ向こうもこちらの出方には警戒しているだろうから今後はそう簡単に手を出すことは出来ぬだろう。そうなると……」
しばらく考え込んでいたアヴァリスだったが、やがて何かを思いついたように顔を上げるとにやりと笑った。
「グリード卿、ここから先は私がなんとかしよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、貴卿にも手伝ってもらうことになるが、ことが済めば今後あの連中に邪魔されることはなくなるだろう」
邪悪な笑みを浮かべるアヴァリスにグリード卿が固唾を呑み込む。
「貴、貴卿は一体何をするつもりなのですか……?」
「なに、害虫は根本的に排除するに限るという話だよ。そう、徹底的にね」
◆
「これはこれはゲイル王子殿下、本日もご機嫌麗しゅうございますな」
「……つまらぬおべっかなどやめろ。俺は忙しいのだ、さっさと要件を話せ」
ソファに座ったゲイルが不機嫌そうに吐き捨てる。
「これは失礼をば致しました。王子殿下を前にして少々緊張しておりました故、ついつい己を鼓舞するために余計なことを言ってしまいましたな」
ゲイルの前に座したアヴァリスはそういって広がりつつある額をピシャリと叩いた。
「本日はゲイル王子殿下にご提案があって参った次第なのです」
そう言って笑みを浮かべるアヴァリス。
それは獲物を見つけた爬虫類を思わせる顔だった。
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