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第1章
第17話:スパイ
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「今から俺のする質問には嘘偽りなく答えるんだ。わかったな」
「はい……わかりました……」
うつろな声で五味原が答える。
「まずはお前らが凶龍連合について知っていることを全て話せ」
「はい……凶龍連合のトップは吐影さんです。吐影さんには2人の弟がいます」
「それは知ってる。他にはないのか」
「はい……吐影さんには神那先さんという右腕がいます。凶龍連合の実質的な運営はこの神那先さんが行っているそうです」
ふむ、脳みそまで暴力と筋肉で出来ているような吐影兄弟にここまで組織的な運営ができると思っていなかったが、その神那先という男が実務を担当しているということか。
「他に吐影 龍について知っていることはあるか」
「……」
五味原は突然押し黙った。
額に脂汗が浮いている。
「どうした、吐影 龍という男はどういう奴なんだ。どういうことをしてきて、どういう思考の元に動いているのか話すんだ」
「と……吐影さんは恐ろしい人です。あの人に歯向かって消された人を何人も知っている……う……裏……裏切ったと……しら……知られたら……どん……どんな……どんな目に遭う遭う遭う遭う遭う遭う……」
五味原の全身がガタガタと震え出した。
どうやらこれ以上の尋問は無理のようだ。
おそらく他の男たちも同様だろう。
「駄目だぜこいつら。心の芯まで吐影を恐れてんだよ」
肥田が怯えたように呟く。
「だから言っただろ、凶龍連合に逆らうなんて無茶だって。あんたもさっさとこの街から逃げた方が良いぜ。でないとどんな目に遭わされることか」
「そうだな……これ以上ここにいても埒が明かないだろう」
「だろ?じゃ今日はこれでいったんお開きってことで……」
「だから肥田、お前ちょっと凶龍連合に入ってこい」
「へいへい、それじゃあ俺はここらで……って、えええええっ!?」
肥田が素っ頓狂な声をあげる。
「ななななんで俺が?そそそんなの絶対に無理無理無理、無理だってえの!」
「仕方がないだろ、こいつらはこれ以上知らないから聞きようがない。それなら直接内部に入って確認するのが一番だ。言うなればスパイだな。お前は凶龍連合に入ってそこで見聞きしたことを逐一俺に知らせるんだ。」
「だ、だからってなんで俺が!」
「それはお前が一番適任だからだ。お前は札付きのワルでこいつらとも顔なじみなんだろう?コネで入るのも簡単なはずだ。なあに心配するな、こいつらには催眠でお前の方から凶龍連合に入りたいと言ってきたと思いこませてやる」
「嫌だ!ぜぇったいに嫌だ!俺には無理だ!嫌だあああ!ブガッ」
逃げ出そうとした肥田は盛大にドアにぶち当たった。
「言っただろう、この部屋からは俺の許可なしには出られないと。それに良いのか、これはお前にとっても唯一生きていける道なんだぞ」
「生きていけるう?どう見たって地獄に一直線じゃねえか!」
「そう思うんならそれでもいいがな、どちらにせよ俺に協力しないならお前は自力で対処するしかないぞ。たかが一高校の不良如きにこいつらから逃げおおせる自信があるのか?」
「お、俺のことを守るって言ったじゃねえかよ」
「それは俺に協力することが前提だ。俺の言うことを聞くならこれからもお前のことを守ってやろう。だが……」
指を鳴らすとドアが開いた。
「ここから先を決めるのはお前自身だ。留まるなら命は守ってやる。去るならここから先は自分自身の力でなんとかするのだな」
「……くうぅぅ~~~~」
肥田が怨嗟の唸り声と共にこちらを睨み付けた。
「わかったよ。わかりましたよ!やりゃあいいんだろやりゃあ!その代わり絶対に約束は守ってもらうからな!」
「当然だ。俺は必ず約束を守る」
肥田はそれでも納得していないようだ。
恨みがましい目でこちらを見ている。
「あんた……悪魔だぜ。いやここまであくどい奴は悪魔にだっていねえ。魔王、あんたは魔王だ」
その言葉を聞いて俺の顔には知らずしらずのうちに笑顔が浮かんでいた。
「ようやく正当な評価をする者が現れたようだな」
「それで俺は何をしたらいいんだよ」
やけくそのように肥田が答える。
「それはこいつらに聞くことだな」
そう言って今もうつろな瞳で虚空を眺めている五味原を指さした。
「こいつらにはお前に協力するように催眠をかけておく。近いうちに吐影 龍と接触できるだろう」
◆
ズガンッ
重い風切り音と共に肥田の目の前を投斧が通り抜けていった。
「ヒィィィィィッ!」
絶叫が廃ビルの部屋に轟く。
その声の主は肥田ではない。
壁際に立たされていた五味原だ。
投斧は五味原の顔のすぐ横に突き刺さって細かく震えている。
「ゆ、許して下さい!僕が、僕が悪かったです!こ、殺さないでください!」
涙と涎と鼻水を顔面に撒き散らしながら五味原が絶叫する。
「チッ、避けんじゃねえよ。おかげで当て損ねたじゃねえか」
壁の反対側に立っているのは吐影 龍だ。
煙草を加えながら投斧を手元でくるくると回している。
「五味原も可哀そうになあ、吐影さん今投斧にはまってっから……」
「前はボウリングだったよな。そん時へました奴は今も車いすだってよ」
小声で会話する男たちの言葉を聞いていた肥田はここに来たことを後悔していた。
いや、凶龍連合が所有するこの廃ビルに連れてこられてからここまで肥田が後悔しなかった時はなかった。
「動くんじゃねえぞ。動いたら殺すぞ……っ」
そう言いながら再び投斧を投擲する。
投斧は回転しながら部屋の反対側へと飛んでいき……五味原の上腕に突き刺さった。
「ギャアアアアアアアッ!い……痛ぁぁい!痛ぁぁい!」
五味原の絶叫が響き渡る。
しかし吐影は眉一つ動かさない。
「森田に出会っておいてむざむざとやられただあ?てめえそれでも凶龍連合の一員かよ。そんな情けねえ奴がここにいて良いと思ってんのか」
「ず……ずいばぜえん……」
鮮血に染まった腕を抑えながら五味原が土下座をする。
「てめえらも覚えとけ、凶龍連合に敵から逃げるような奴はいらねえんだよ!」
吐影はそう叫ぶとじろりと肥田を睨み付けた。
「で、こいつはなんなんだ」
「そ……そいつは肥田と言って俺の後輩です……凶龍連合に入りたいと言ってきたんで連れてきました。こいつは森田と同じ学校で奴のことを知ってるそうなんで役に立つかと」
五味原の言葉に吐影が微かに反応した。
「おいお前、森田のことを知ってるのか」
「は、はい、自分は肥田 明と言います。森田の野郎とはちょっと因縁がありまして、吐影さんのお力をお借りしたく……フヒヒ」
緊張で引きつった笑みを浮かべながら肥田は自分がどれほど森田に恨みを持っているか、奴を倒すために凶龍連合に協力したいのだと熱弁を振るった。
もちろんその内容はあらかじめ森田と打ち合わせをしたものなので詳細はぼかしてある。
「……いかがでしょう?俺、いや僕、わたくしめを凶龍連合に入れていただければ必ずや吐影さんお役に立ってみせますが」
「……」
話を聞いていた吐影がいきなり斧を肥田の喉元に突きつけた。
「臭えな。薄汚えドブネズミの臭いだ」
全てを見透かすように吐影が肥田を見据える。
その突き刺すような視線に肥田はガタガタと震え出した。
視界の端には血まみれになって床を這う五味原が映っている。
(もう駄目だ……この人には絶対に隠し事なんかできない……)
「……す、すいませんでしたぁ!」
気が付けば肥田は床に土下座していた。
「お……俺はあいつに無理矢理ここに来させられたんですぅ!森田の奴に凶龍連合に入って様子を探って来いと脅されて……しかたなかったんですぅ!許してくださいぃぃ!」
そう言いながら涙をぼろぼろ流す。
これは演技ではなかった。
肥田は今、生まれて初めて真剣に泣きながら哀願していた。
「肥田とか言ったか、よく言ってくれたな。素直に白状したことを評価してやろう」
頭の上から吐影の声がした。
「そ、それじゃあ!?」
命の危機を脱した期待に目を輝かせる肥田だったが、その視界に斧が突き出された。
「だが凶龍連合には汚えドブネズミは要らねえんだよ。せめてもの情けに一思いにやってやるよ」
「そ、そんなあっ!」
「ジタバタすんじゃねえぞ。抵抗したらぶっ殺すからな」
吐影が斧を振り上げる。
「ちょっと待った」
まさに斧が振り下ろされようとしたその時、部屋の奥から声がした。
「はい……わかりました……」
うつろな声で五味原が答える。
「まずはお前らが凶龍連合について知っていることを全て話せ」
「はい……凶龍連合のトップは吐影さんです。吐影さんには2人の弟がいます」
「それは知ってる。他にはないのか」
「はい……吐影さんには神那先さんという右腕がいます。凶龍連合の実質的な運営はこの神那先さんが行っているそうです」
ふむ、脳みそまで暴力と筋肉で出来ているような吐影兄弟にここまで組織的な運営ができると思っていなかったが、その神那先という男が実務を担当しているということか。
「他に吐影 龍について知っていることはあるか」
「……」
五味原は突然押し黙った。
額に脂汗が浮いている。
「どうした、吐影 龍という男はどういう奴なんだ。どういうことをしてきて、どういう思考の元に動いているのか話すんだ」
「と……吐影さんは恐ろしい人です。あの人に歯向かって消された人を何人も知っている……う……裏……裏切ったと……しら……知られたら……どん……どんな……どんな目に遭う遭う遭う遭う遭う遭う……」
五味原の全身がガタガタと震え出した。
どうやらこれ以上の尋問は無理のようだ。
おそらく他の男たちも同様だろう。
「駄目だぜこいつら。心の芯まで吐影を恐れてんだよ」
肥田が怯えたように呟く。
「だから言っただろ、凶龍連合に逆らうなんて無茶だって。あんたもさっさとこの街から逃げた方が良いぜ。でないとどんな目に遭わされることか」
「そうだな……これ以上ここにいても埒が明かないだろう」
「だろ?じゃ今日はこれでいったんお開きってことで……」
「だから肥田、お前ちょっと凶龍連合に入ってこい」
「へいへい、それじゃあ俺はここらで……って、えええええっ!?」
肥田が素っ頓狂な声をあげる。
「ななななんで俺が?そそそんなの絶対に無理無理無理、無理だってえの!」
「仕方がないだろ、こいつらはこれ以上知らないから聞きようがない。それなら直接内部に入って確認するのが一番だ。言うなればスパイだな。お前は凶龍連合に入ってそこで見聞きしたことを逐一俺に知らせるんだ。」
「だ、だからってなんで俺が!」
「それはお前が一番適任だからだ。お前は札付きのワルでこいつらとも顔なじみなんだろう?コネで入るのも簡単なはずだ。なあに心配するな、こいつらには催眠でお前の方から凶龍連合に入りたいと言ってきたと思いこませてやる」
「嫌だ!ぜぇったいに嫌だ!俺には無理だ!嫌だあああ!ブガッ」
逃げ出そうとした肥田は盛大にドアにぶち当たった。
「言っただろう、この部屋からは俺の許可なしには出られないと。それに良いのか、これはお前にとっても唯一生きていける道なんだぞ」
「生きていけるう?どう見たって地獄に一直線じゃねえか!」
「そう思うんならそれでもいいがな、どちらにせよ俺に協力しないならお前は自力で対処するしかないぞ。たかが一高校の不良如きにこいつらから逃げおおせる自信があるのか?」
「お、俺のことを守るって言ったじゃねえかよ」
「それは俺に協力することが前提だ。俺の言うことを聞くならこれからもお前のことを守ってやろう。だが……」
指を鳴らすとドアが開いた。
「ここから先を決めるのはお前自身だ。留まるなら命は守ってやる。去るならここから先は自分自身の力でなんとかするのだな」
「……くうぅぅ~~~~」
肥田が怨嗟の唸り声と共にこちらを睨み付けた。
「わかったよ。わかりましたよ!やりゃあいいんだろやりゃあ!その代わり絶対に約束は守ってもらうからな!」
「当然だ。俺は必ず約束を守る」
肥田はそれでも納得していないようだ。
恨みがましい目でこちらを見ている。
「あんた……悪魔だぜ。いやここまであくどい奴は悪魔にだっていねえ。魔王、あんたは魔王だ」
その言葉を聞いて俺の顔には知らずしらずのうちに笑顔が浮かんでいた。
「ようやく正当な評価をする者が現れたようだな」
「それで俺は何をしたらいいんだよ」
やけくそのように肥田が答える。
「それはこいつらに聞くことだな」
そう言って今もうつろな瞳で虚空を眺めている五味原を指さした。
「こいつらにはお前に協力するように催眠をかけておく。近いうちに吐影 龍と接触できるだろう」
◆
ズガンッ
重い風切り音と共に肥田の目の前を投斧が通り抜けていった。
「ヒィィィィィッ!」
絶叫が廃ビルの部屋に轟く。
その声の主は肥田ではない。
壁際に立たされていた五味原だ。
投斧は五味原の顔のすぐ横に突き刺さって細かく震えている。
「ゆ、許して下さい!僕が、僕が悪かったです!こ、殺さないでください!」
涙と涎と鼻水を顔面に撒き散らしながら五味原が絶叫する。
「チッ、避けんじゃねえよ。おかげで当て損ねたじゃねえか」
壁の反対側に立っているのは吐影 龍だ。
煙草を加えながら投斧を手元でくるくると回している。
「五味原も可哀そうになあ、吐影さん今投斧にはまってっから……」
「前はボウリングだったよな。そん時へました奴は今も車いすだってよ」
小声で会話する男たちの言葉を聞いていた肥田はここに来たことを後悔していた。
いや、凶龍連合が所有するこの廃ビルに連れてこられてからここまで肥田が後悔しなかった時はなかった。
「動くんじゃねえぞ。動いたら殺すぞ……っ」
そう言いながら再び投斧を投擲する。
投斧は回転しながら部屋の反対側へと飛んでいき……五味原の上腕に突き刺さった。
「ギャアアアアアアアッ!い……痛ぁぁい!痛ぁぁい!」
五味原の絶叫が響き渡る。
しかし吐影は眉一つ動かさない。
「森田に出会っておいてむざむざとやられただあ?てめえそれでも凶龍連合の一員かよ。そんな情けねえ奴がここにいて良いと思ってんのか」
「ず……ずいばぜえん……」
鮮血に染まった腕を抑えながら五味原が土下座をする。
「てめえらも覚えとけ、凶龍連合に敵から逃げるような奴はいらねえんだよ!」
吐影はそう叫ぶとじろりと肥田を睨み付けた。
「で、こいつはなんなんだ」
「そ……そいつは肥田と言って俺の後輩です……凶龍連合に入りたいと言ってきたんで連れてきました。こいつは森田と同じ学校で奴のことを知ってるそうなんで役に立つかと」
五味原の言葉に吐影が微かに反応した。
「おいお前、森田のことを知ってるのか」
「は、はい、自分は肥田 明と言います。森田の野郎とはちょっと因縁がありまして、吐影さんのお力をお借りしたく……フヒヒ」
緊張で引きつった笑みを浮かべながら肥田は自分がどれほど森田に恨みを持っているか、奴を倒すために凶龍連合に協力したいのだと熱弁を振るった。
もちろんその内容はあらかじめ森田と打ち合わせをしたものなので詳細はぼかしてある。
「……いかがでしょう?俺、いや僕、わたくしめを凶龍連合に入れていただければ必ずや吐影さんお役に立ってみせますが」
「……」
話を聞いていた吐影がいきなり斧を肥田の喉元に突きつけた。
「臭えな。薄汚えドブネズミの臭いだ」
全てを見透かすように吐影が肥田を見据える。
その突き刺すような視線に肥田はガタガタと震え出した。
視界の端には血まみれになって床を這う五味原が映っている。
(もう駄目だ……この人には絶対に隠し事なんかできない……)
「……す、すいませんでしたぁ!」
気が付けば肥田は床に土下座していた。
「お……俺はあいつに無理矢理ここに来させられたんですぅ!森田の奴に凶龍連合に入って様子を探って来いと脅されて……しかたなかったんですぅ!許してくださいぃぃ!」
そう言いながら涙をぼろぼろ流す。
これは演技ではなかった。
肥田は今、生まれて初めて真剣に泣きながら哀願していた。
「肥田とか言ったか、よく言ってくれたな。素直に白状したことを評価してやろう」
頭の上から吐影の声がした。
「そ、それじゃあ!?」
命の危機を脱した期待に目を輝かせる肥田だったが、その視界に斧が突き出された。
「だが凶龍連合には汚えドブネズミは要らねえんだよ。せめてもの情けに一思いにやってやるよ」
「そ、そんなあっ!」
「ジタバタすんじゃねえぞ。抵抗したらぶっ殺すからな」
吐影が斧を振り上げる。
「ちょっと待った」
まさに斧が振り下ろされようとしたその時、部屋の奥から声がした。
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