外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人

文字の大きさ
269 / 298
ベルトランの災厄

13.疑惑の土地

しおりを挟む
「どこなんだ?そこは?」

 ウルカンシアよりも上手く対処している場所があるというのか?

「ええと…確かずっと東北部にあるマッシナという地域だったと思います。そこから巡礼に来た信徒がそう話していました。これだけ虫が少ないのはマッシナとここだけだと」

 マッシナ…初めて聞く名前だ。

 リンネ姫を振り返ると首を横に振ってきた。

 どうやらリンネ姫もよくは知らないらしい。

「それで、そのマッシナというところではどういう風に対処していたか言ってなかったか?」

「残念ながら…」

 エイラは悲しそうに目を伏せた。

「そういえば最近はマッシナからの巡礼者が来なくなったのが気がかりですね」

「…どういうことなんだ?」

「火神信仰はベルトラン帝国南部で盛んなのですが、東北部にあるマッシナでも信者が活動しているのです。なんでも昔の火神教ひのかみきょうの高僧がそこの出身だったとかで」

 エイラが話を続けた。

「なのでマッシナからここウルカンシアまで毎月のように巡礼者が来ていたのですけど、ここ一月ほど途絶えてしまっていて…」

 今まで来ていた巡礼者が来なくなった、エイラのその言葉が頭の中で反響するように残っていた。

 マッシナ、何かがそこにある気がする。


「エイラ、そのことを他の誰かに言ったことは?」

「い、いえ…テツヤさんに聞かれるまで忘れていたくらいですから…」

 緊張をはらんだ俺の声にたじろぐようにエイラが答えた。


「悪いけど今ここであった会話は内密ってことにしてくれないか。そのマッシナの件についても」

「は、はい。テツヤさんがそういうなら…」

 硬い表情でエイラが頷く。


「なにかわかったのか?」

 リンネ姫が好奇心のこもった眼差しと共に聞いてきた。

「いや、そういうわけじゃない…けど、何かがひっかかっていてさ。エイラ、そのマッシナについて知っていることを教えてくれないか?」

「わかりました。遠くの土地なので私も詳しくは知らないのですが…」

 そう断ってエイラが話し始めた。



 エイラによるとマッシナはベルトラン帝国のほぼ反対側に位置する地域で小さいながらも豊かな土地なのだとか。

 ただしそこもウルカンシアと同じように過去にベルトラン帝国に併合された属州国であるために住民は苦しい生活を強いられているらしい。

 火神信仰が広がったのはそういう要素があったのも理由なのかもしれない。

 ウルカンシアに来た巡礼者によるとマッシナの地区総督の名前はシセロといい、すこぶる評判の悪い男なのだとか。

 とはいえ流石に広い国の反対側の話なのでエイラからこれ以上詳しい話を聞くことはできなかった。


「すいません、大した話もできなくて」

「いや、そういうことが分かっただけでも収穫だったよ。ありがとう」

 申し訳なさそうに頭を下げながら部屋を出ていくエイラを見送ると改めて俺たちは膝をつき合わせた。


「マッシナか…名前くらいは知っているが実際に訪れたことはないな」

 アマーリアが独り言ちるように呟いた。

「私もだ」

 リンネ姫が首肯する。

「とりあえずそちらへ行って様子を見てみるか?今のテツヤであればそのシセロという地区総督に会うのも容易なのでは?」

「いや、今は下手に動かない方が良いと思う」

 ソラノの提案に俺は頭を振った。

「まだこの虫害に何らかの意図があるかどうかわかっていないしね。その状態であちこち突きまわってはゼファーはともかく他の有力者が良い顔をしないと思う。だからいったんガルバジアに行ってこのことをゼファーに報告してからにしようと思うんだ」

「異論はない」

 リンネ姫が頷いた。




 翌日、俺は街の人たちに別れを告げて一路ガルバジアを目指した。

 ガルバジアまでの道中も今までと同じで荒れ果てた畑が続く悲惨な光景が広がっていた。

「これは早く何とかしなくてはならないな」

 リンネ姫が険しい顔で呟いた。

 ベルトラン帝国の危難はそのまま周辺国家の危機に繋がることになる。

 既にこの事態は対岸の火事を越えていた。



 次の日、ガルバジアについた俺たちはすぐにゼファーへの面会を取り次いだ。

 俺たちが通されたのは謁見の間ではなく王の私室で、入ると豪華な食事が並ぶテーブルが目の前に飛び込んできた。

 部屋には幾人もの給仕が控えていてテーブルの上座には既にゼファーが着座していた。

 その傍らにはいつも通りヘルマが立っている。

「久しぶりだな。テツヤよ元気にしていたか?」

 ゼファーが腕を広げて歓迎の意を表した。

「これは…?」

「積もる話もあるだろうが長旅で腹も減ったろう。まずは腹を満たしてからだ。ベルトランには客人を空腹のままもてなす風習はないのでな」

 そういうとゼファーは返答を待たずに食事を開始した。

 俺たちも給仕に促されるままに席に着く。

 テーブルの上には豪勢な肉料理に加えて季節の野菜や果物も並んでいた。

 今この国が危機にあるとは思えないくらいだ。

 何とも言えない気持ちを抱えていると隣のリンネ姫が目の前の肉を切り取って食事を始めた。

 そしてこちらに目を向けることなく小声で話しかけてきた。


「食べるのだテツヤ。これは陛下が歓待しているという意でもある。気持ちはわかるが拒絶するのは失礼にあたるぞ。それに私だって反対の立場であるなら同じことをしていたはずだ」

 リンネ姫の言い分も理解できる。

 ここで躊躇していたってベルトランの窮乏は何も変わらない。

 俺は意を決して目の前の料理に取り掛かった。


「それでいい。腹が減っては建設的な話もできぬからな」

 ゼファーが満足そうな笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

処理中です...