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獣人族
26.寝巴蛇山の伝説
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「なんだよ、水がないと思ってたらたくさんあるじゃないか」
上空を飛びながら俺は安堵のため息を漏らした。
これだったら幾らでも水を引っ張ってこれそうだ。
なんだったらエルフ族用に川をもう一本作ってもいいくらいだ。
パンシーラ川の水源は確かに寝巴蛇山から来ているらしい。
山の岩肌からチョロチョロと水が染み出していた。
「ほんじゃま、ちょいと山に穴を開けますか」
腕まくりをしながら岩肌に近寄ろうとするとリオイが慌てて前に立ちはだかった。
「それはいかぬ!」
「へ?なんで?川の流れを元に戻したら獣人族だって助かるんじゃないの?」
「そ、それはその通りなのじゃが、みだりに寝巴蛇山に手をかけることは古くからの伝承で禁じられいるのじゃ!」
リオイの必死な顔は嘘をついてるようには見えなかった。
「…ひとまずその伝承というのを教えてくれないかな?」
「…うむ、これは住人族だけでなくここ一帯で広く語り継がれている伝承なのだ」
俺が手を止めたことに安堵のため息をついてリオイが話を始めた。
リオイの話はこうだった―――――
かつてまだこの大地に神々や魔神が暮らしていた頃、巴蛇と呼ばれる巨大な蛇の一族がいたという。
ある時巴蛇の一族が集まって誰が一番酒が強いのか競い合うことになった。
湖ほども酒を飲み明かした巴蛇はやがて酔いつぶれ、とぐろを巻いて眠り込んでしまった。
巴蛇はやがて山へと姿を変え、今日までこうして眠り続けているのだという――――
「…それがこの山だと?」
リオイは頷いた。
いやいや、流石にそれは単なる伝承の類なのでは?
いくらワールフィアが魔界と言われているとはいえ、蛇が山に姿を変える?
「しかしこの地にはそのような言い伝えが残っているのじゃ。寝巴蛇山に手を出すと巴蛇が目を覚まし、山が崩れて落ちて一帯が灰燼に帰すと」
リオイは大真面目だった。
「そうは言ってもなあ…」
上から見下ろした寝巴蛇山は確かに輪になって寝ている蛇に見えないこともないけど、流石にこのサイズの蛇はいないでしょ。
とは言えリオイたちの意見を無視して勝手に穴を開けるわけにもいかない。
「どうしたもんかな…」
打つ手がなくなった俺はぼんやりと水が流れ落ちている岩肌に手を当てた。
「うわあっ!」
瞬間、弾かれたように俺は飛び上がった。
「な、なんだ!?」
「どうしたのだ!?」
みんなが驚いてこちらを振り向いた。
しかしそれ以上に驚いていたのは俺だ。
「ほ、本当にこの山の中に何かがいるぞ!」
俺は自分が信じられなかった。
しかし触れた手が、体が覚えていた。
岩肌に触れた瞬間、地中に潜む巨大な魔力を持った何かが俺の存在を感じ取ったのだ。
いや、巨大なんてもんじゃない。
それはまさしくこの山そのものといっていいほどの存在感を持っていた。
「…ほ、本当だったのか…」
俺は震える声で山を見上げた。
山は先ほどと同じように微動だにしていないけど、俺の眼には先ほどとは全く別のものに、圧倒的な存在に見えていた。
「テツヤ、何かあったのか?」
「あ、ああ…この山の中には確かに何かがいる。それは間違いない」
「まさか…本当なのか?」
リンネ姫も信じられないといった顔をしている。
俺は恐る恐る再度岩肌に手を触れた。
山の奥深く、確かに巨大な何かがいる。
途方もない大きさで寝巴蛇山全体を幾重にも囲んでいるようだ。
まるで死んだように動いていないけれどこの存在感はとても死んでるようには見えない。
ひょっとして眠っているのか?
尚も深く探ろうとした俺だったけどふとした違和感に慌てて手を離した。
これ以上探ったらこの主を起こしてしまう、そんな気がしたからだ。
俺の真剣な顔に周りのみんなも冗談ではないと悟ったようだ。
「これは蛇頭窟も見てもらった方が良さそうじゃな」
不意にリオイが口を開いた。
「蛇頭窟?」
俺の言葉にリオイが頷いた。
「蛇頭窟はこの山のふもとにある洞窟のことじゃ。今から案内しよう」
リオイに案内されたのは山の麓にぽっかりと開いた巨大な洞窟だった。
洞窟の前にはちょっとした祠が建てられていてお供え物が祭ってある。
周囲の木々には色とりどりの一枚布がくくりつけられ、風にたなびいていた
「ここが蛇頭窟、伝承によると巴蛇の口がこの洞窟になったのだとか。当然禁制地であり中に入って出てきた者はいないと言われておる」
洞窟の中は闇に包まれていて内部は全く見えない。
「どうする?入ってみるか?」
「いやいや、それだけは絶対に駄目だ!」
ソラノの問いに俺は大きく頭を横に振った。
「我々獣人族は毎年二回春と秋にここで巴蛇祭という祭事を行って巴蛇の安眠と豊作をお祈りしておるのだ」
リオイの言葉を聞くまでもなくここが神聖な場所となっていることはわかる。
「しかし参ったな。ひょっとして水が出なくなったのも巴蛇のせいなのか?」
「そう言う者もおる。我々も何度か水乞いを行ったのじゃが…」
リオイが残念そうに呟いた。
「とりあえず一旦戻って作戦を練り直さないと駄目そうだな」
俺はそう言って山を振り仰いだ。
この山が巨大な蛇?最初はそう思ったけど見上げた寝巴蛇山は実感を持ってそびえ立っていた。
上空を飛びながら俺は安堵のため息を漏らした。
これだったら幾らでも水を引っ張ってこれそうだ。
なんだったらエルフ族用に川をもう一本作ってもいいくらいだ。
パンシーラ川の水源は確かに寝巴蛇山から来ているらしい。
山の岩肌からチョロチョロと水が染み出していた。
「ほんじゃま、ちょいと山に穴を開けますか」
腕まくりをしながら岩肌に近寄ろうとするとリオイが慌てて前に立ちはだかった。
「それはいかぬ!」
「へ?なんで?川の流れを元に戻したら獣人族だって助かるんじゃないの?」
「そ、それはその通りなのじゃが、みだりに寝巴蛇山に手をかけることは古くからの伝承で禁じられいるのじゃ!」
リオイの必死な顔は嘘をついてるようには見えなかった。
「…ひとまずその伝承というのを教えてくれないかな?」
「…うむ、これは住人族だけでなくここ一帯で広く語り継がれている伝承なのだ」
俺が手を止めたことに安堵のため息をついてリオイが話を始めた。
リオイの話はこうだった―――――
かつてまだこの大地に神々や魔神が暮らしていた頃、巴蛇と呼ばれる巨大な蛇の一族がいたという。
ある時巴蛇の一族が集まって誰が一番酒が強いのか競い合うことになった。
湖ほども酒を飲み明かした巴蛇はやがて酔いつぶれ、とぐろを巻いて眠り込んでしまった。
巴蛇はやがて山へと姿を変え、今日までこうして眠り続けているのだという――――
「…それがこの山だと?」
リオイは頷いた。
いやいや、流石にそれは単なる伝承の類なのでは?
いくらワールフィアが魔界と言われているとはいえ、蛇が山に姿を変える?
「しかしこの地にはそのような言い伝えが残っているのじゃ。寝巴蛇山に手を出すと巴蛇が目を覚まし、山が崩れて落ちて一帯が灰燼に帰すと」
リオイは大真面目だった。
「そうは言ってもなあ…」
上から見下ろした寝巴蛇山は確かに輪になって寝ている蛇に見えないこともないけど、流石にこのサイズの蛇はいないでしょ。
とは言えリオイたちの意見を無視して勝手に穴を開けるわけにもいかない。
「どうしたもんかな…」
打つ手がなくなった俺はぼんやりと水が流れ落ちている岩肌に手を当てた。
「うわあっ!」
瞬間、弾かれたように俺は飛び上がった。
「な、なんだ!?」
「どうしたのだ!?」
みんなが驚いてこちらを振り向いた。
しかしそれ以上に驚いていたのは俺だ。
「ほ、本当にこの山の中に何かがいるぞ!」
俺は自分が信じられなかった。
しかし触れた手が、体が覚えていた。
岩肌に触れた瞬間、地中に潜む巨大な魔力を持った何かが俺の存在を感じ取ったのだ。
いや、巨大なんてもんじゃない。
それはまさしくこの山そのものといっていいほどの存在感を持っていた。
「…ほ、本当だったのか…」
俺は震える声で山を見上げた。
山は先ほどと同じように微動だにしていないけど、俺の眼には先ほどとは全く別のものに、圧倒的な存在に見えていた。
「テツヤ、何かあったのか?」
「あ、ああ…この山の中には確かに何かがいる。それは間違いない」
「まさか…本当なのか?」
リンネ姫も信じられないといった顔をしている。
俺は恐る恐る再度岩肌に手を触れた。
山の奥深く、確かに巨大な何かがいる。
途方もない大きさで寝巴蛇山全体を幾重にも囲んでいるようだ。
まるで死んだように動いていないけれどこの存在感はとても死んでるようには見えない。
ひょっとして眠っているのか?
尚も深く探ろうとした俺だったけどふとした違和感に慌てて手を離した。
これ以上探ったらこの主を起こしてしまう、そんな気がしたからだ。
俺の真剣な顔に周りのみんなも冗談ではないと悟ったようだ。
「これは蛇頭窟も見てもらった方が良さそうじゃな」
不意にリオイが口を開いた。
「蛇頭窟?」
俺の言葉にリオイが頷いた。
「蛇頭窟はこの山のふもとにある洞窟のことじゃ。今から案内しよう」
リオイに案内されたのは山の麓にぽっかりと開いた巨大な洞窟だった。
洞窟の前にはちょっとした祠が建てられていてお供え物が祭ってある。
周囲の木々には色とりどりの一枚布がくくりつけられ、風にたなびいていた
「ここが蛇頭窟、伝承によると巴蛇の口がこの洞窟になったのだとか。当然禁制地であり中に入って出てきた者はいないと言われておる」
洞窟の中は闇に包まれていて内部は全く見えない。
「どうする?入ってみるか?」
「いやいや、それだけは絶対に駄目だ!」
ソラノの問いに俺は大きく頭を横に振った。
「我々獣人族は毎年二回春と秋にここで巴蛇祭という祭事を行って巴蛇の安眠と豊作をお祈りしておるのだ」
リオイの言葉を聞くまでもなくここが神聖な場所となっていることはわかる。
「しかし参ったな。ひょっとして水が出なくなったのも巴蛇のせいなのか?」
「そう言う者もおる。我々も何度か水乞いを行ったのじゃが…」
リオイが残念そうに呟いた。
「とりあえず一旦戻って作戦を練り直さないと駄目そうだな」
俺はそう言って山を振り仰いだ。
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