外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人

文字の大きさ
204 / 298
火神教騒乱

33.ヘルマ・バハル

しおりを挟む
「ヘルマ!」

 俺の声にもヘルマは反応を示さなかった。

 その顔からは一切の表情が消えている。


「ではまずその娘を返してもらおうか。命が惜しいのであればな」

 スカルドが嘲るように話しかけてきた。


「エイラをどうする気だ!?なんでこんな怪しげな儀式をしていやがる!」

「怪しげ?これだから無知蒙昧な者は困る」

 スカルドが困ったと言うように頭を振った。


「これは降臨の儀式だ。その娘はその依り代なのだよ」

 スカルドが手を広げて魔法陣を示した。


「この娘は火の花嫁となる存在!ウルカン様をこの世に顕現させることができるのは火の花嫁だけなのだ!」

「馬鹿な!精霊をこの世に呼び出すだと?」

 精霊界の者はこの世界には顕現できないというアスタルさんの言葉が頭をよぎる。

 こいつはエイラを依り代にそれを実現させようってのか!


「それで、そのウルカンとやらを顕現させてどうしようってんだ?」

 ヘルマの切っ先から目をそらさずに俺は質問を続けた。

「決まっている!ウルカン様の御力によって全ての異教徒、邪教徒どもを燼滅させるのだ!それが成った暁には我々ウルカン様の忠実なる信徒もその命を絶つ。死をもって火の神の真の信徒となる、それこそが我ら燼滅じんめつ教団の究極使命なのだ!」

 スカルドは陶然とうぜんとした眼差しで虚空を見ながら滔々と語った。


「…狂ってやがる」

「貴様に何が分かる!ウルカン様の御言葉に耳を傾けぬ痴れ者が!」


 スカルドが目をぎらつかせ、口角泡を飛ばしながら叫んだ。

「本来火とは神聖なものであり火によって命を奪うことは禁忌とされている。しかし貴様ら異教徒は別だ。貴様ら咎人たる異教徒はウルカン様の炎によって浄化されることでようやく許されるのだ!」


 駄目だこいつ、全く話が通じねえ。


「…滅火派の連中はどうすんだよ。お前たちと手を組んでるんじゃなかったのか。火神信奉かじんしんぽうを掌握するための火の花嫁じゃなかったのかよ」

「は、あ奴らはそう思っているようだがな!」

 スカルドが嘲笑した。

火神信奉かじんしんぽうを支配する?小人しょうじんが抱くくだらぬ野望だ!そのような矮小な欲望に火の花嫁を利用するなど言語道断!我らの純粋な信仰心こそが火の花嫁を所有するにふさわしいのだ!ウルカン様もそれを望んでおられる!」


 そう叫ぶスカルドの目は既に焦点が合っていなかった。

 完全に自分の世界に入り込んでいる。


「…わかったよ」

 俺はため息をついた。


「ようやく覚悟を決めたか。クロエリアよ、まずはこ奴らの手足を切り落として身動きできなくするのだ。その後に神聖なる火によって浄化してやろう」

 俺はその言葉に構わずスカルドの方へ足を進めた。

「どうしたのだ!クロエリア!こやつをたたっ斬るのだ!何故動かん!」

 しかしヘルマは動かない。

 その眼や耳、鼻から血が流れ落ち、体が小刻みに震えている。

 それでも剣を構えたまま動くことはなかった。


「何をしているっ!さっさとこやつぶっ!」

 俺の拳がスカルドの顔面にめり込んだ。


「お前の術ごときでヘルマが操れるわけないだろ」


「な、何故だ?何故私の命令が届かん!こ奴の魂は儂の魂に縛り付けられている!逆らうことはそれこそ己の存在を削られるのと同じ苦痛のはず!」

 鼻血を流しながらスカルドが信じられないと言うように吠えた。


「あのなあ…」

 俺はため息をつきながらヘルマに近寄った。


「こいつが魂を捧げてるのはお前じゃねえよ。そこにいる王様だ」

 俺は親指でエイラの傍らにいるゼファーを指差した。

「ヘルマはあの男を手にかけるくらいなら喜んで死ぬだろうよ。まあ死なれちゃ困るんだけどさ」

 そう言ってヘルマの額に手を当てた。

 明かりが消えるように身体に浮かんだ紋様が消え、同時にヘルマは力なく地面に崩れ落ちた。

「おっと」

 地面に落ちる前にその体を抱きとめる。


「ななな…」

 スカルドが目を飛び出しそうにして口をパクパクさせている。

 まるで釣り上げられた魚だ。


「何故貴様が儂の術を破れる!これは数百年間誰も再現できなかった古代の魂縛術だぞ!この術を使えるのは世界広しと言えど儂だけのはずだ!」

「ちょいとした事情で体内の魔力の流れなんかがわかるんだよ。つか、お前の術ってそんな大層なもんじゃないぞ。体と魂の間に魔法陣を噛ませてるだけじゃん。魂を縛り付けるとか大げさだな」

 アスタルさんに力を開放してもらったおかげで俺は生物の体内に流れる魔力の流れや魂との繋がりを感覚的に捉えられるようになっている。

 なので土属性の力を使ってヘルマの肉体の肉体に刻まれた魔法陣を操作してスカルドの術を解除したのだ。


 俺はヘルマを抱え上げるとエイラと一緒にいるゼファーに預けた。

「ほらよ、ちゃんと持っとけよ」

「言われるまでもない。だがヘルマを救ってくれたこと、感謝するぞ」

「ま、俺もヘルマには世話になってるからね」

 ゼファーは俺と笑みをかわすとスカルドに向き直った。


「スカルドよ、余が目撃者である以上もはや逃れることはできぬぞ。貴様も燼滅じんめつ教団もこれで終わりだ」

「ぐ、ぐぬぬぬぅ…」

 ゼファーの言葉にスカルドがギリギリと歯ぎしりをする。


「年貢の納め時だぜ、スカルドさんとやらよ」

 スカルドは顔に脂汗を浮かべながら後ずさった。


 その時、背後から凄まじい殺気が襲ってきた。


「危ねえっ!」

 とっさに三人を抱えて横っ飛びで逃げる。


 そこを猛烈な熱波が襲ってきた。

 同時に一つの影が広間に突っ込んでくる。


「おおっ!」

 その姿を認めてスカルドが歓喜の声をあげた。


「アグリッパ、よくぞ来た!」

 それは燼滅じんめつ教団死を撒く四教徒の一人、灼熱のアグリッパだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

処理中です...