196 / 298
ベルトラン放浪
25.火の巫女
しおりを挟む
「しかしこれだけ魔法を使ってしまっては我々の居場所が完全にばれてしまったであろうな」
ゼファーが部屋を見渡して呟いた。
凄まじい惨状だったが全く動揺した様子はない。
「ヘルマよ、来たのは主だけか?」
「はっ、陛下のお口ぶりから内密にしたほうが良いかと思い、他の者はクラドノ村に向かわせております。私がここにいることを知る者はいません」
うむ、とゼファーは頷きつつ顎をつまんだ。
「ともかくここに留まるのは危険だな。どこか別に避難する場所があると良いのだが…」
そう言ってエリオンの方を見つめる。
俺たち全員の視線がエリオンに集まった。
「…わかりました。友人を頼って別の場所に行くことにしましょう」
エリオンはため息をつきながら頷き、俺たちは周囲を警戒しながら夜の街へと忍び出た。
三十分ほど歩いた先にある目立たない一軒家がエリオンの提示した新たな隠れ家で、そちらにも食糧と寝る場所が用意されていた。
エリオンのコネは何なんだ?
「今後のことを話す前にはっきりさせておきたいことがある」
家について落ち着いたところでエリオンが切り出した。
「まず、先ほどの襲撃は我々ではなくそこのエイラが目当てだったということだ」
その言葉にエイラがびくりと震えた。
「何故だ?火の巫女であるとはいえ燼滅教団が何故そこまで執拗に狙うのは。しかも死を撒く四教徒まで動員してまで」
「……」
エイラは何も言わずに下を向いて震えている。
「今そんなことを言ってる場合じゃないだろ!この子は命を狙われてるんだぞ!」
「こんな時だからなんだ。我々は既に町のあらゆる人間から追われている立場だ。それに加えてこのエイラの追手まで加わるとなれば否が応でも考えねばならない」
エリオンはあくまで冷静だった。
「そ、それはそうだけど…」
「それはその娘が火の巫女だからだろう」
その時、入り口近くの壁に身を預けていたヘルマが口を挟んできた。
「火の巫女は高い魔力を持った子供が選ばれる。燼滅教団はそういった子供を集めて魔法兵にしているのだ」
「なんだって!?」
子供を魔法兵に?
俺は自分の耳が信じられなかった。
ヘルマが言葉を続けた。
「火の巫女は魔法との親和性が非常に高い特質を持った子供たちだ。そういう子供は魔導処置を施すと優秀な魔法兵になる。燼滅教団は昔から他教団の火の巫女を攫い、時には買って魔法兵にしているのだ」
「馬鹿な…子供を攫うだと?そんなことが許されていいのかよ!優秀な魔法兵になるだなんて…なんでヘルマがそんなことを知ってるんだよ!」
激情のあまりに詰め寄った俺の腕をヘルマが握りしめた。
「何故なら私もその一人だったからだ」
「…ヘルマが…?」
「本当の話だ」
ゼファーが口を開いた。
「余がヘルマと会ったのは十三年前、まだ王となる前の話だ。実のところ燼滅教団は当時一旦滅んでいるのだが、それを行ったのが当時教団の魔法兵だったヘルマだ」
ヘルマが元魔法兵…?
俺の脳裏にダリアスとボレアナの姿が浮かんできた。
あの二人の身体に浮かんだ紋様はヘルマが本気を出した時に体に浮かぶ紋様とよく似ていた。
まさか、そういうことなのか?
「あいつらは私が教団を滅ぼした時の生き残りだ」
ヘルマが頷いた。
「教団は攫った子供に儀式を施して体に魔法陣を刻み込む。それによって通常必要な詠唱が必要なくなり、更に強力な魔法を己の特性として使えるようになる」
だからあんなに特殊な技が使えたのか。
しかも魔力の発動をほとんど感じなかった。まさに暗殺にうってつけというわけか。
「確かに私は燼滅教団を壊滅状態にはした。しかし教団は完全には滅びず、数年かけて蘇ってきたのだ。そして今もこうして魔法兵を作っているというわけだ」
「そういや燼滅教団の名前を聞くようになったのはここ数年すね」
キツネが思い出したように呟き、エリオンもその言葉に頷いた。
「私も聞いたことがある。昔この地域で畏怖の対象となっていた燼滅教団が一夜にして壊滅状態になったことがあると。まさかそれがヘルマ殿の仕業だったとは…」
俺は椅子にへたり込んだ。
「じゃあ、エイラもその魔法兵にされるところだった、ってことなのかよ」
「…わ、私は火神教の火の巫女でした」
その時、エイラが口を開いた。
全員の視線がエイラに注がれる。
「ひ、火の巫女と言っても特別なことをするわけじゃありません。神殿の掃除をしたり、行事の時に司祭様のお手伝いをしたり、そういうことをするんです」
エイラはうつむきながらも言葉を続けた。
「一月ほど前、司祭様の一人に呼ばれたんです。大事な話があるからって。それでその司祭様の部屋に行ったら別の人たちがいて、今日からお前はその人たちのものだって言われて…嫌だったのに無理やり連れていかれて…」
話ながら机の上に水滴がぽたぽたと垂れていた。
エイラの肩が震えている。
「もういい」
これ以上聞いていられなかった。
年端も行かない子供を魔法兵にするために売るだと?攫うだと?
いつの間にか俺の拳が壁にめり込んでいた。
「それが奴らの手口だ。燼滅教団は暗殺など非合法な仕事を請け負って集めた金で魔法兵を作っているのだ。金目当てに自分たちの火の巫女を売り飛ばす他教徒もいると聞く」
ヘルマが静かに言った。
「それでもう駄目だと諦めていたんだけど、そこにいた女の人が逃がしてくれたんです。あまりにも可哀そうだって。でも逃げてる最中にその女の人も…あの人たちに…」
俺は涙をぬぐいながら話を続けるエイラを抱き締めた。
「もういい、もう何も言わなくてもいい!俺が守ってやる!燼滅教団もエイラを売り飛ばした奴も俺がぶちのめしてやる!」
「どうやら貴様も火神教本部に行く動機ができたようだな」
ゼファーがにやりと笑った。
「ああ、火神教だかなんだか知らねえけど俺が許さねえ!」
ゼファーが部屋を見渡して呟いた。
凄まじい惨状だったが全く動揺した様子はない。
「ヘルマよ、来たのは主だけか?」
「はっ、陛下のお口ぶりから内密にしたほうが良いかと思い、他の者はクラドノ村に向かわせております。私がここにいることを知る者はいません」
うむ、とゼファーは頷きつつ顎をつまんだ。
「ともかくここに留まるのは危険だな。どこか別に避難する場所があると良いのだが…」
そう言ってエリオンの方を見つめる。
俺たち全員の視線がエリオンに集まった。
「…わかりました。友人を頼って別の場所に行くことにしましょう」
エリオンはため息をつきながら頷き、俺たちは周囲を警戒しながら夜の街へと忍び出た。
三十分ほど歩いた先にある目立たない一軒家がエリオンの提示した新たな隠れ家で、そちらにも食糧と寝る場所が用意されていた。
エリオンのコネは何なんだ?
「今後のことを話す前にはっきりさせておきたいことがある」
家について落ち着いたところでエリオンが切り出した。
「まず、先ほどの襲撃は我々ではなくそこのエイラが目当てだったということだ」
その言葉にエイラがびくりと震えた。
「何故だ?火の巫女であるとはいえ燼滅教団が何故そこまで執拗に狙うのは。しかも死を撒く四教徒まで動員してまで」
「……」
エイラは何も言わずに下を向いて震えている。
「今そんなことを言ってる場合じゃないだろ!この子は命を狙われてるんだぞ!」
「こんな時だからなんだ。我々は既に町のあらゆる人間から追われている立場だ。それに加えてこのエイラの追手まで加わるとなれば否が応でも考えねばならない」
エリオンはあくまで冷静だった。
「そ、それはそうだけど…」
「それはその娘が火の巫女だからだろう」
その時、入り口近くの壁に身を預けていたヘルマが口を挟んできた。
「火の巫女は高い魔力を持った子供が選ばれる。燼滅教団はそういった子供を集めて魔法兵にしているのだ」
「なんだって!?」
子供を魔法兵に?
俺は自分の耳が信じられなかった。
ヘルマが言葉を続けた。
「火の巫女は魔法との親和性が非常に高い特質を持った子供たちだ。そういう子供は魔導処置を施すと優秀な魔法兵になる。燼滅教団は昔から他教団の火の巫女を攫い、時には買って魔法兵にしているのだ」
「馬鹿な…子供を攫うだと?そんなことが許されていいのかよ!優秀な魔法兵になるだなんて…なんでヘルマがそんなことを知ってるんだよ!」
激情のあまりに詰め寄った俺の腕をヘルマが握りしめた。
「何故なら私もその一人だったからだ」
「…ヘルマが…?」
「本当の話だ」
ゼファーが口を開いた。
「余がヘルマと会ったのは十三年前、まだ王となる前の話だ。実のところ燼滅教団は当時一旦滅んでいるのだが、それを行ったのが当時教団の魔法兵だったヘルマだ」
ヘルマが元魔法兵…?
俺の脳裏にダリアスとボレアナの姿が浮かんできた。
あの二人の身体に浮かんだ紋様はヘルマが本気を出した時に体に浮かぶ紋様とよく似ていた。
まさか、そういうことなのか?
「あいつらは私が教団を滅ぼした時の生き残りだ」
ヘルマが頷いた。
「教団は攫った子供に儀式を施して体に魔法陣を刻み込む。それによって通常必要な詠唱が必要なくなり、更に強力な魔法を己の特性として使えるようになる」
だからあんなに特殊な技が使えたのか。
しかも魔力の発動をほとんど感じなかった。まさに暗殺にうってつけというわけか。
「確かに私は燼滅教団を壊滅状態にはした。しかし教団は完全には滅びず、数年かけて蘇ってきたのだ。そして今もこうして魔法兵を作っているというわけだ」
「そういや燼滅教団の名前を聞くようになったのはここ数年すね」
キツネが思い出したように呟き、エリオンもその言葉に頷いた。
「私も聞いたことがある。昔この地域で畏怖の対象となっていた燼滅教団が一夜にして壊滅状態になったことがあると。まさかそれがヘルマ殿の仕業だったとは…」
俺は椅子にへたり込んだ。
「じゃあ、エイラもその魔法兵にされるところだった、ってことなのかよ」
「…わ、私は火神教の火の巫女でした」
その時、エイラが口を開いた。
全員の視線がエイラに注がれる。
「ひ、火の巫女と言っても特別なことをするわけじゃありません。神殿の掃除をしたり、行事の時に司祭様のお手伝いをしたり、そういうことをするんです」
エイラはうつむきながらも言葉を続けた。
「一月ほど前、司祭様の一人に呼ばれたんです。大事な話があるからって。それでその司祭様の部屋に行ったら別の人たちがいて、今日からお前はその人たちのものだって言われて…嫌だったのに無理やり連れていかれて…」
話ながら机の上に水滴がぽたぽたと垂れていた。
エイラの肩が震えている。
「もういい」
これ以上聞いていられなかった。
年端も行かない子供を魔法兵にするために売るだと?攫うだと?
いつの間にか俺の拳が壁にめり込んでいた。
「それが奴らの手口だ。燼滅教団は暗殺など非合法な仕事を請け負って集めた金で魔法兵を作っているのだ。金目当てに自分たちの火の巫女を売り飛ばす他教徒もいると聞く」
ヘルマが静かに言った。
「それでもう駄目だと諦めていたんだけど、そこにいた女の人が逃がしてくれたんです。あまりにも可哀そうだって。でも逃げてる最中にその女の人も…あの人たちに…」
俺は涙をぬぐいながら話を続けるエイラを抱き締めた。
「もういい、もう何も言わなくてもいい!俺が守ってやる!燼滅教団もエイラを売り飛ばした奴も俺がぶちのめしてやる!」
「どうやら貴様も火神教本部に行く動機ができたようだな」
ゼファーがにやりと笑った。
「ああ、火神教だかなんだか知らねえけど俺が許さねえ!」
0
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる