外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人

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ベルトラン放浪

22.WANTED!

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 気付けば確かに無数の殺気に辺りを囲まれていた。

 店の中にいた客もいつの間にか姿を消し、店長も消えていた。

 クソ、話に夢中で気づかなかった!


「じゃ、じゃあ、あっしはこれで…」

 そそくさと立ち上がったキツネの肩をゼファーが掴んだ。

「のう、主の言っていた荒事師や高額賞金稼ぎハイボーラーとやらは関係ないですと言えば見逃してくれるようなお優しい連中なのか?」

「い、いえ、それはないっす…です」

「俺はただの行商人だがここで我々を見捨てると主は間違いなく逆賊として永久に指名手配されることになるのだが、どうする?」

「…お供します…」

 キツネはがっくりと首をうなだれた。

「おい、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!さっさとあの窓から逃げるぞ!」


 店の裏手にある小さな窓から逃げ出すのとドアから男たちがなだれ込んできたのはほぼ同時だった。


「畜生!あの親父、俺たちを売りやがったな!」

「わめいてないで逃げるぞ!」

 キツネの泣き言をどやしながら俺たちは裏通りに飛び出した。


「いたぞ!あそこだ!」

「金貨五千枚は俺のもんだ!」

「逃がすんじゃねえぞ!」


 すぐに別の男たちが殺到してくる。


「あそこに梯子がある!登るんだ!」

 俺は裏通りに止めてあった荷車でバリケードを築きながら叫んだ。


 梯子を上って屋根伝いに逃走を図る。


「逃がすかよ!」

 矢が雨あられと降ってきた。


「あいつら、余は生きて連れていくということを知らんのか!」

「そんなこと言ってる場合かよ!」

 俺たちは必至で屋根を逃げ回っていた。



「ハッハー!俺たちから逃げられると思うなよ!」

「あの銀髪は生け捕りだ!もう片方は殺せ!」


 冒険者たちが屋根を伝って追ってくる。



「おい、多少の魔法だったらばれないんだよな!?」

「ああ、だがせいぜいライティング程度の魔力だぞ!」

「それで十分だ!」

 俺は逃げながら屋根の瓦をもぎ取った。


「これでも喰らいやがれ!」

 振り向きざまに投げつける。

 魔力で方向と速度を制御された瓦が次々と冒険者たちにヒットした。


「ぐえっ!」

「ぎゃあっ!」


 冒険者たちは顔面に瓦を喰らってボトボトと屋根から落ちていく。


「やるではないか!」

「ざまあみやがれ!」

「ざっとこんなもんだ!」

 俺たちはひたすら屋根の上を走り続けた。





「どうやら無事にまけたみたいだな」

 俺たちはどこだかわからない裏路地に身を潜めていた。

 冒険者たちの声も今は聞こえない。


「しかしこれからどうするんだよ。これじゃあ身動き取れないぞ」

 今は町全体が俺たちを追っているようなもんだ。

 下手に動いたらあっという間に見つかってしまうだろう。

「おいキツネ、どっか良い隠れ場所を知らないか?」

「無茶言わないでくださいよ。俺だってこの町には来たばっかりなんだぜ」

「うーむ、早く火神教ひのかみきょう本部に行かねばならんのだが…」



「いたぞ!こっちだ!」


 突然響いてきた怒鳴り声に俺たちは身をすくませた。

 まさかもう見つかったのか?


 その時、俺たちのいる裏路地に飛び込んでくる影があった。

 その影が何かから逃げるように走ってくると俺たちが潜んでいる木箱の蓋を開けた。


「ひっ…!」

 中にいる俺たちを見て恐怖にひきつった声を上げた。

 驚いたのはこっちも同じだ。

「お嬢さん、眩しいから蓋を閉めてくれないな」

 キツネのジョークも逆効果だったらしい。

 大きく開いたキツネの口を見てその顔が更に青ざめている。

「キィヤ……」

「待てっ」

 叫びそうになるその口を塞いで木箱の中に引きずり込んだ。


「静かにしろって、見つかるだろ」

 じたばた暴れる影をなんとか押さえつける。


「どこに行きやがった!」

「まだ遠くには行ってねえはずだ!探せ、探せ!」

「クソ、あのガキ、ちょろちょろしやがって!」

 男たちの声が次第に遠くなっていく。


 どうやら見つからなかったみたいだ。

 気付けば腕の中の影は大人しくなっていた。

「おい、今から口の手を離すから叫ばないでくれるか?危害を加えるつもりはないから」

 俺の言葉にその影が小さく頷いた。

 ゆっくり手を離すとその影がこちらを振り向いた。

 大きく黒目がちな瞳が恐怖に震えながらこっちを見ている。

 …まさか、女の子?


 それはまだあどけない少女だった。


 なんで子供がこんな所に?しかも何かから逃げていたような…

 その時さきほどの男たちがあのガキと叫んでいたのを思い出した。

 まさか、俺たちじゃなくてこの子を追っていたのか?


 少女はまるで怯えた小動物のように肩をすくませて震えている。

「…ひょっとして、追われているのか?」

 俺の問いに少女の肩がびくりと震えた。

「…お、お願いです…見逃してください」

 少女は蚊の鳴くような声で嘆願してきた。

 その眼には涙が溜まっている。


「ま、待ってくれ。こっちも事情が全然分からないんだ。見逃すと言ってもこっちも追われてる身で…」

「とりあえず一旦出るぞ。ここにいてもいずれ見つかってしまうだけだ」

 木箱から出て改めて見たが本当にまだ小さな女の子だった。

 見た目はフラムと同じ位だろうか、ストレートな黒髪を肩の上辺りで切りそろえていて様々な刺繍を凝らした特徴的な服を着ている。

 俺は少女の前にしゃがみこんでその肩に手を置いた。

「俺の名前はテツヤ、君の名前は?君を傷つけたりはしないから安心してくれ」


「エ、エイラ…」

 まだ怯えた表情の消えないその少女はおずおずと名乗った。

「エイラか。良い名前じゃないか。なんで逃げていたのか教えてくれないか?あいつらは誰なんだ?」

「…そ、それは…」

「しっ!」

 エイラが口を開きかけた時、ゼファーが緊張した声を発した。


「おい、あそこの路地はまだ探してないんじゃないか?」

「あそこは行き止まりだ。隠れる場所もねえよ」

「一応チェックしておくぞ。ついてこい!」


 男たちの声が近づいてくる。

 やばい、早いところ隠れないと!でもどこに?

「こっちです!」

 その時、背後のドアが開いた。

「はやくこちらへ!見つかってしまいますよ!」
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