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第五部~ベルトラン帝国
5.急襲
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伸ばした手の先も見えない闇の中、リンネ姫を抱えた俺は魔力でエリオンを探知して近寄った。
「エリオン殿下、こちらへ!」
半ば引きずるようにエリオンを連れ出すと大広間を抜け出し、西棟へと走った。
大広間を抜け出した直後に背後で窓が破られる音が聞こえた。
「動くな!」
「全員床に伏せて手を頭の後ろで組め!」
「抵抗するものは容赦なく殺す!命が惜しいなら大人しくいうことを聞くんだ!」
男たちの怒号と人々の悲鳴が廊下まで響いてくる。
俺たちはリンネ姫の部屋に飛び込み、ドアを開かないように封印した。
「一体あいつらはなんなんだ!?」
「わからない、でもここを襲ってきたのは間違いないだろうね。しかもかなり入念な準備をしていたみたいだ」
エリオンの声はこんな状況でも冷静だった。
「なぜそうだと分かるんです?」
「魔力が封じられている。おそらくこの屋敷全体に耐魔防壁が張られているのだろう。こんなことは相当前から準備していないと無理さ」
エリオンはそう言って手を前に出した。
「闇に包まれた時にライティングの魔法を唱えたんだけど全く反応しなかったし今もそうだ。となると屋敷全体に対して耐魔防壁がかけられていると見て間違いないだろうね」
こんな広大な屋敷に魔法をかけるなんて相当な組織力がないと無理だ。
となると今ここを襲った連中以外にも支援者がいるということか。
「そういうことになるね。とはいえそれはまだ後の話だよ。まずはこの状況をなんとかしないと。それよりも、あの闇の中でよく僕の位置が分かったね」
「ああ、それなら力を使って…って、なんで俺は力が使えるんだ?」
「そう言えば私も使えるぞ」
リンネ姫が驚いたように手を前に出した。
その手には小さな魔力の光が輝いている。
「これは一体…まさか?」
リンネ姫が思い当たったようにドレスの前をはだけた。
淡いライティングの光の中にリンネ姫の豊かな胸の谷間が浮かび上がる。
「ひょっとして蛇髪女人族の生地のせいなのでは?」
「それか!」
そこでようやく俺にも合点がいった。
蛇髪女人族からもらった瘴気麻の生地は高い耐魔能力を持っている。
リンネ姫はその生地を研究中で、姫と俺も含めて今回の旅に来た一行はテスト兼防護服代わりに着ていたのだ。
どうやらそのシャツの高い耐魔能力が防壁の効果を打ち消しているらしい。
「そんなものを着ていたのか…というか凄い効果だね」
流石のエリオンもこれには驚いたみたいだ。
「しっ、誰か来ます!」
その時、ドアの脇に立って外の様子を伺っていたセレンが鋭い声をあげた。
一斉に息を呑む俺たちの耳に廊下を歩いてくる音が聞こえてきた。
「窓から明かりが見えたのはこの辺りか!」
「部屋に隠れている者がいないか徹底的に調べろ!」
男たちの声が聞こえる。
俺たちは顔を見合わせた。
どうする?ドアを開かないように封印し続けていたら絶対に怪しまれるぞ!
制圧するのは簡単だけどそうすると俺たちの存在がばれてしまう。
どうする?
ドアが勢いよく開け放たれた。
「どうだ、誰かいたか!?」
「いえ、誰もいません!どうやら蝋燭を持ち込んでいてその火を点けっぱなしにしていたようです」
「クソ、蝋燭なんて古臭いものを使いやがって!この田舎者が!戻るぞ、この階は全てチェックし終わった!」
男たちの怒鳴り声と立ち去る靴音が聞こえる。
ほぅ、と俺たちは息をついた。
襲撃者が完全に去ったのを確かめてから天井に穴を開けて部屋に降りる。
リンネ姫の持っていたヘアクリームで即席の蝋燭を作って火をともし、俺の力で天井に穴を開けて隠れていたのだ。
「誰が田舎者だ!あ奴ら絶対に許さん!」
リンネ姫はぷりぷりと怒っている。いや、今怒るポイントはそこじゃなくないか?
「ともかく現状を把握しないと」
「同感です」
エリオンの言葉に俺は床に手を当ててスキャンした。
学園関係者は五百名で全員二階の大広間に集められている。
襲ってきた連中は二十名程度で外にも十名ほどいるみたいだ。
「凄いな…そんなこともわかるのか」
「こういうことは得意なんですよ。それよりも連中、この屋敷中に油を撒いてますね。おそらくいざという時に火を放つつもりなんでしょう」
さっき探索をしていた男たちは松明を持っていた。
魔法が使えないというのは向こうにとっても同じことらしい。
「まずは広間の様子を確認しよう」
「お待ちください」
セレンがそう言っていきなりシャツを脱ぎだした。
「な、何を!?」
びっくりして顔を背ける俺をよそにセレンは脱いだシャツをエリオンに渡した。
「私のシャツもリンネ姫殿下と同じ素材で出来ています。これを着れば殿下も魔法を使えるようになるでしょう。私よりも殿下が着ていらした方が良いかと」
「ああ、ありがとう」
エリオンは全く動じることなる笑顔でそのシャツを受け取った。
この人は慌てるってことがないのか?
「だったらセレンさんには何か武器が必要だな」
俺は部屋の壁にかけられていた剣を取り上げた。
装飾用の剣だから刃引きはしてないけど俺の力があればすぐに高速度工具鋼の硬さを持った剣に早変わりだ。
「これを使ってください」
セレンに剣を渡して俺たちは三階に上がると壁を抜けながら母屋に向かい、広間の天井から中の様子を伺った。
松明に照らされた広間の中央に学生たちが集められ、その周囲を武装した襲撃者たちが囲んでいた。
「エリオン殿下、こちらへ!」
半ば引きずるようにエリオンを連れ出すと大広間を抜け出し、西棟へと走った。
大広間を抜け出した直後に背後で窓が破られる音が聞こえた。
「動くな!」
「全員床に伏せて手を頭の後ろで組め!」
「抵抗するものは容赦なく殺す!命が惜しいなら大人しくいうことを聞くんだ!」
男たちの怒号と人々の悲鳴が廊下まで響いてくる。
俺たちはリンネ姫の部屋に飛び込み、ドアを開かないように封印した。
「一体あいつらはなんなんだ!?」
「わからない、でもここを襲ってきたのは間違いないだろうね。しかもかなり入念な準備をしていたみたいだ」
エリオンの声はこんな状況でも冷静だった。
「なぜそうだと分かるんです?」
「魔力が封じられている。おそらくこの屋敷全体に耐魔防壁が張られているのだろう。こんなことは相当前から準備していないと無理さ」
エリオンはそう言って手を前に出した。
「闇に包まれた時にライティングの魔法を唱えたんだけど全く反応しなかったし今もそうだ。となると屋敷全体に対して耐魔防壁がかけられていると見て間違いないだろうね」
こんな広大な屋敷に魔法をかけるなんて相当な組織力がないと無理だ。
となると今ここを襲った連中以外にも支援者がいるということか。
「そういうことになるね。とはいえそれはまだ後の話だよ。まずはこの状況をなんとかしないと。それよりも、あの闇の中でよく僕の位置が分かったね」
「ああ、それなら力を使って…って、なんで俺は力が使えるんだ?」
「そう言えば私も使えるぞ」
リンネ姫が驚いたように手を前に出した。
その手には小さな魔力の光が輝いている。
「これは一体…まさか?」
リンネ姫が思い当たったようにドレスの前をはだけた。
淡いライティングの光の中にリンネ姫の豊かな胸の谷間が浮かび上がる。
「ひょっとして蛇髪女人族の生地のせいなのでは?」
「それか!」
そこでようやく俺にも合点がいった。
蛇髪女人族からもらった瘴気麻の生地は高い耐魔能力を持っている。
リンネ姫はその生地を研究中で、姫と俺も含めて今回の旅に来た一行はテスト兼防護服代わりに着ていたのだ。
どうやらそのシャツの高い耐魔能力が防壁の効果を打ち消しているらしい。
「そんなものを着ていたのか…というか凄い効果だね」
流石のエリオンもこれには驚いたみたいだ。
「しっ、誰か来ます!」
その時、ドアの脇に立って外の様子を伺っていたセレンが鋭い声をあげた。
一斉に息を呑む俺たちの耳に廊下を歩いてくる音が聞こえてきた。
「窓から明かりが見えたのはこの辺りか!」
「部屋に隠れている者がいないか徹底的に調べろ!」
男たちの声が聞こえる。
俺たちは顔を見合わせた。
どうする?ドアを開かないように封印し続けていたら絶対に怪しまれるぞ!
制圧するのは簡単だけどそうすると俺たちの存在がばれてしまう。
どうする?
ドアが勢いよく開け放たれた。
「どうだ、誰かいたか!?」
「いえ、誰もいません!どうやら蝋燭を持ち込んでいてその火を点けっぱなしにしていたようです」
「クソ、蝋燭なんて古臭いものを使いやがって!この田舎者が!戻るぞ、この階は全てチェックし終わった!」
男たちの怒鳴り声と立ち去る靴音が聞こえる。
ほぅ、と俺たちは息をついた。
襲撃者が完全に去ったのを確かめてから天井に穴を開けて部屋に降りる。
リンネ姫の持っていたヘアクリームで即席の蝋燭を作って火をともし、俺の力で天井に穴を開けて隠れていたのだ。
「誰が田舎者だ!あ奴ら絶対に許さん!」
リンネ姫はぷりぷりと怒っている。いや、今怒るポイントはそこじゃなくないか?
「ともかく現状を把握しないと」
「同感です」
エリオンの言葉に俺は床に手を当ててスキャンした。
学園関係者は五百名で全員二階の大広間に集められている。
襲ってきた連中は二十名程度で外にも十名ほどいるみたいだ。
「凄いな…そんなこともわかるのか」
「こういうことは得意なんですよ。それよりも連中、この屋敷中に油を撒いてますね。おそらくいざという時に火を放つつもりなんでしょう」
さっき探索をしていた男たちは松明を持っていた。
魔法が使えないというのは向こうにとっても同じことらしい。
「まずは広間の様子を確認しよう」
「お待ちください」
セレンがそう言っていきなりシャツを脱ぎだした。
「な、何を!?」
びっくりして顔を背ける俺をよそにセレンは脱いだシャツをエリオンに渡した。
「私のシャツもリンネ姫殿下と同じ素材で出来ています。これを着れば殿下も魔法を使えるようになるでしょう。私よりも殿下が着ていらした方が良いかと」
「ああ、ありがとう」
エリオンは全く動じることなる笑顔でそのシャツを受け取った。
この人は慌てるってことがないのか?
「だったらセレンさんには何か武器が必要だな」
俺は部屋の壁にかけられていた剣を取り上げた。
装飾用の剣だから刃引きはしてないけど俺の力があればすぐに高速度工具鋼の硬さを持った剣に早変わりだ。
「これを使ってください」
セレンに剣を渡して俺たちは三階に上がると壁を抜けながら母屋に向かい、広間の天井から中の様子を伺った。
松明に照らされた広間の中央に学生たちが集められ、その周囲を武装した襲撃者たちが囲んでいた。
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